75 解体作業
ズウウゥゥゥゥゥゥゥン…………
アースドラゴンを取り出した途端、石造りの建物がかすかに揺れて、地響きと共に天井からは砂埃がパラパラと落ちてきた。
いまさらながら、屋外で出したほうがよかったんじゃないかと思ったんだけど――
「うおおおおおおおおおおおおおお!!」
突然、地響きをかき消すほどの大歓声がフロア中に鳴り響き、従業員たちが我先にとばかりにアースドラゴンに駆け寄ってきた。
「アースドラゴンじゃねーか!」「俺、実物見るの初めてだよ!」「近くで見せろ!」「ちょっ、押すなっての!」
わいわいと騒ぐ従業員たち。俺の隣にいたはずのカーラント氏も、いつの間にかアースドラゴンのすぐ近くで興奮気味に目を輝かせている。
「ほううううう! アースドラゴンの重厚な甲羅を一撃で叩き割ったように見受けられます! どれだけの
いやいや、そんな大層なものじゃなくて、ただ単に上空から落としただけなんだけどね。
そんな存在しない腕利きの冒険者に思いを馳せるカーラント氏の背後では、伊勢崎さんが誇らしげに胸を張っている。
普段は過剰なほどに俺を褒めてくれる伊勢崎さんだけど、さすがに「これはおじさまが倒したんです!」とは言わないでくれているようだ。ありがたいね。
そして群がる従業員たちの中でも、ひときわベテランっぽい丸坊主のマッチョマンが声を上げる。
「会頭! こいつあ甲羅と一緒に背骨もポッキリといって即死してやがる! 他にも傷も少ねえし鮮度も申し分ねえ! こんなの全身が金塊みてえなもんだぜ!」
「ほう! やはりそうか! 皆のもの、現行の作業はすべて中断せよ! そしてこのアースドラゴンの解体を始めるのだ! 血の一滴も無駄にするでないぞ!」
「おおおおおおおおおおおおおお!!」
従業員たちは威勢のよい声を上げると、一斉に作業台へと戻り、ナタやらノコギリやら脚立やらといろんな道具を持って再びアースドラゴンの元へと集合。
全員がアースドラゴンにべったりとくっつき、鱗の境目に金属の棒を差し込んで剥がしたり、こぼれる血を採取したりと手慣れた様子で作業を始めた。
巨大なアースドラゴンにたくさんの人が張り付いてわちゃわちゃと作業を進める姿は、なんだか飴に群がるアリさんのように見えなくもない。
しかしあれほど冒険者が束になってもダメージを与えられなかったアースドラゴンから鱗がメリメリと剥がされているのだ。従業員のみなさんの腕前は相当なものなんだろう。
そうして彼らの仕事っぷりに感心していると、カーラント氏が近づいてきた。
「いやはや、このたびは我が商会を取引相手に使っていただき感謝いたします。それにしてもレヴィーリア様はドラゴンスレイヤーといいあなたといい、素晴らしい人材をお持ちのようですな!」
「え? 私がですか?」
「そりゃあそうでしょう。アースドラゴンの中でも最大級の大きさ。それを『
そういえば容量の大きな人で大型トラックくらいとか伊勢崎さんが言ってたっけか。それが数台分の大きさだもんなアースドラゴン。
「はは、昔からこれだけは得意で……」
「ほほう! この歳になってあなたほどの人材と出会えるとは、まったく世界というのは広いものですな! かの伝説のパーティ『蒼の烈風』のリーダーであるザカリテも言いました『優秀な人材との出会いは一生の宝である』と。私もその言葉に感銘を受け、この商会を立ち上げた際には――」
延々と話を続けるカーラント氏。聞いてあげたい気持ちもあるんだけど、今日はこの後に観光が控えているんだよね。
「あ、あの、すいません。それでアースドラゴンの方はおいくらくらいになるのでしょうか?」
「おおっと! 肝心の商談の方がまだでしたな! それでは参りましょうか。ささっこちらへ!」
俺たちはカーラント氏に案内され、今度は応接室へと向かった。
◇◇◇
通された応接室は魔物素材取り扱い店だけあって、床にはトラっぽい模様の毛皮が敷かれ、吊られたランプは角の生えたなにかの魔物の骨。座ったふかふかのソファーに張られた革も、たぶん魔物の素材なんだろう。
ちなみにテーブルの柄にだけは見覚えがあった。これはたぶんアースドラゴンの甲羅を加工したものだ。そんなわけでとにかく魔物だらけの一室だった。
テーブルを挟んで向こう側に座るカーラント氏が前かがみになりながら口を開く。
「さて、このたびのアースドラゴンのお値段なのですが――」
その瞬間、人の良さそうなカーラント氏の瞳の奥が鋭く光った。
――後書き――
近況ノートに『「ご近所JK伊勢崎さんは異世界帰りの大聖女」時間の法則の話』を書きました。よろしければごらんくださいませ!
https://kakuyomu.jp/users/fukami040/news/16817330653151248499
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます