68 YOUは何にしに地球へ?

「――それで、どうしてこんなことに?」


 ベッドに腰掛けた俺の目の前には、なぜか自主的に床に正座をした伊勢崎さんとレヴィーリア様。まずは伊勢崎さんが言いにくそうにごにょごにょと話し始める。


「その……ですね。やはりここは日本が誇るべき文化のひとつであるテレビゲームを見せてあげれば、レヴィもすぐにここが異世界だと納得するかと思いまして……」


「なるほど。それはたしかにいいアイデアだと思うよ。でも時間のこともあるし、遊ぶのはほどほどでもよかったんじゃないかな」


「すいません。つい熱くなってしまいました……」


 恥ずかしそうにうつむく伊勢崎さん。別にそこまで反省はしなくていいんだけどね。正座もしなくてもいいし。


 そしてレヴィーリア様がゲーム機のほうをチラチラと見ながら口を開く。


「あの、マツナガ様? わたくし、もう少しこのゲームを遊んでみたいのですが……。できればマツナガ様がお相手してくれませんでしょうか? お姉さまは無慈悲すぎますので」


 どうやらレヴィーリア様はかなりゲームをお気に召したようだ。しかし俺はそんな彼女に悲しいお知らせを伝える。


「レヴィーリア様、説明を忘れていたこちらが悪いのですけど、実はこの世界とあちらは時間の流れが違っているんです」


「……? それはどういうことなのでしょうか?」


「こちらの世界で十数える間に、あちらの世界では百の時間が過ぎるみたいで……。ですからあまり長い時間、ここには滞在できないのですよ」


「まあ、そんなことが……。承知いたしました、残念ですけど諦めます……」


 がっくりと肩を落とすレヴィーリア様。少しかわいそうだけど、こればかりは仕方ない。


「それで、どうでしたか? ここが異なる世界だということは信じてもらえたでしょうか?」


 ようやく本筋に戻れた感じがする。レヴィーリア様に日本文化ツアーをさせるのが今回の目的ではないのだ。


 俺の問いかけに、レヴィーリア様はゲーム機を眺めながら口を開いた。


「テレビゲームなんていうもの、わたくしの世界にはありませんし、これまでの常識からもかけ離れておりました。……ここは異世界だと信じるに足るには十分です。マツナガ様、頭の固い私のために苦労をおかけしましたわね」


「いえいえ、気にしないでください。それにまだ少しは時間もありますし、他にもご案内しますよ」


 できることならゆっくりと時間をとって、伊勢崎さんとレヴィーリア様の二人でたっぷり楽しんでほしいんだけどね。諸々の事情でなんともならないのが残念だ。


「ありがとう存じます、マツナガ様。ですけど、その前に、ええと……」


 言葉を濁したレヴィーリア様が伊勢崎さんの耳元でぼそぼそと話しかける。伊勢崎さんが小さく頷いた。


「おじさま、少し私たちは席を離しますわ」


「ああ、うん」


 もじもじと頬を赤らめるレヴィーリア様を見てピンときた。これはトイレだろう。


 そうして俺の部屋から出ていく二人。


 最近はトイレも進化しており、俺の家のトイレもそれなりに多機能なものだったりする。


 そのことが少し気になったのだけれど、あっさりとゲーム機に順応したレヴィーリア様だ。きっと大丈夫だろう。


 そう考えた俺はベッドから立ち上がり、次はベランダからの夜景でも見せてあげようとカーテンを開いていると――


「ほわああああああー! なんですの、これは一体なんですのー! 水っ、水がああああああーー!!」


 そんなレヴィーリア様の絶叫が、この部屋にまで聞こえてきたのであった。

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