51 肉の宴
俺を囲んで心地よい炭酸の音と心地よくないゲップの音が入り乱れる中、ようやく救いの声がかけられた。
「おーい! コーラもいいけどよお、そろそろ肉を食わないとコゲちまうぞ~!」
声の主はギータだ。ギータが指差す焚き火の周りでは、地面に刺した串焼きから脂がとろりと流れ落ち、今まさに食べごろといったところ。
それを見てリーダーは思い出したかのように声を上げた。
「おお、そうだ! すっかりコーラに気を取られちまったな。じゃあマツナガさんと奥さんも食ってくれや!」
「いいんですか? 俺たちの分まで」
俺たちは自分が貰った分を焼くつもりだったんだけどな。だがリーダーは気にする様子もなくニカッと笑う。
「ああ、たくさん焼いたからな! 腹いっぱい食ってくれよ!」
「だってよマツナガさん、ほら」
ギータが俺に、グレートボアの串焼きを二本差し出した。大人の拳ほどの大きさの肉を硬そうな木の枝に刺したものだ。とてもワイルド。
「そういうことなら遠慮なく」
俺はひとつを伊勢崎さんに手渡すと、さっそく食べることにした。あんぐりと口を開け、豪快に肉を噛み切ってみる。
すると舌に触れた瞬間に脂がとけていき、脂のなんともいえない甘みがぶわっと口内に広がっていった。歯ごたえも柔らかで、あんなにゴツそうな肉を食べたとは思えないほど。
うわあ、なんだコレ。これはたしかに土ネズミの上を行く味だ。高級食材ってのは伊達じゃなかったね。
ふと横を見ると、伊勢崎さんも小さな口をモクモクと動かしていた。彼女はこくんと肉を飲み込み俺に笑顔を向ける。
「ふふっ、グレートボアを食べるのは久しぶりです。特に旦那様と一緒に食べると格別に美味しく感じますわ」
そんな伊勢崎さんの仲良し夫婦アピールにリーダーが食いつく。
「ヒューッ、まったくお熱いこったぜ。これだけの美人じゃあ競争相手も多かっただろう? マツナガさんはどうやって奥さんを射止めたんだ?」
「あー、えっと、それは――」
だが俺が適当に答える前に伊勢崎さんが口を開く。
「いえ、私の方が先に好きになったのですよ。旦那様は……私がいちばん辛かったとき、親身になって寄り添ってくれたのです」
そう言って俺をじっと見つめる伊勢崎さん。
レヴィーリア様に馴れ初めを語っていたときとは違う、なにか大切な思い出を胸の中で抱きしめているような潤んだ瞳。
だがもちろんそんなことをした覚えは俺にはない。どうやらまた新しい設定が生まれたようだが、伊勢崎さんの演技力には脱帽の一言だよ。
「かーっ、マツナガさんはうらやましすぎるぜ。独り身じゃあツラすぎるわ。せめて肉でも食って気を紛らわせねえとやってられねえな。――おうっ、お前ら食ってるかー!?」
「おおおおおー!!」
くるりと踵を返すと、今度は冒険者たちに向かって声を上げるリーダー。いろいろと忙しい人だなあ。リーダーってヤツは大変だ。
串焼きを食べながら辺りを見渡せば、すでに酔っ払っているような大宴会が繰り広げられている。
アルコールの匂いはしないので、雰囲気で酔ってるだけだと思うけど、始まったばかりだというのにもう大騒ぎだ。
競うように肉の大食いをしている男たち。コーラについて熱く語る痩せた男。女性の弓使いを必死に口説いてる斧使い。
そしていつの間にか木陰の方ではギータとシリルがイチャコラしている。
俺が社会人になってから経験した宴会は単なる愚痴の吐き合いみたいな宴会だったけど、そういう湿度の高いものとは違う、とにかく騒ぐカラッと乾いた雰囲気の宴会だ。
毎回だと疲れるだろうけど、たまにはこういう宴会もいいものだね。
そうして冒険者たちとの宴会は夜遅くまで続き――
たっぷりと宴会を楽しみ、伊勢崎さんを馬車まで送っていったところ、俺たちは馬車の前で「とても楽しそうでよかったですわね」とスネた顔でつぶやくレヴィーリア様に迎えられたのだった。
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