50 肉の切り分け

 せっせと肉を切り分けるリーダーと、野営の準備をしながらもそれをチラチラと見守る冒険者たち。


 どうやら肉(戦利品)を切り分けるのはリーダーの役目のようだ。一見雑用のようにも見えるけど、不満がないように肉を切り分ける必要があるのだから、案外大事な役割なのかもしれない。


 そしてそんな中、これから俺は肉を分けてもらうための交渉しなければならないのだ――これはなかなかタフな案件なりそうだぜ。俺は気を引き締めてリーダーに声をかけた。


「どうも、こんばんは」


 俺の声に、リーダーは肉を切り分ける手は止めないまま顔を上げた。手元を見ずに肉を切っているのがかなり怖いよ。


「おうっ、行商人の……マツナガさんと奥さんだったよな。もうちょっと待ってくれよな!」


「え? あ、はい」


 言われるがままにしばらく待つ。するとリーダーは切ったばかりの肉塊を大きな葉っぱに包み、俺に差し出した。


「――ほら、あんたらの分だ!」


「えっ、えっと、これは……?」


 包みを受け取りつつも問いかける俺に、何言ってるんだと言わんばかりにリーダーが首をかしげた。


「肉の分け前に決まってるだろ。こんなもん俺らだけじゃ食いきれねえし」


 思わず辺りを見渡すと、ギーターやシリル、他の冒険者たちもうんうんと頷いている。そしてリーダーがポンと手を叩いた。


「あーそうだ。ついでにレヴィーリア様たちの分も持っていってくれるか? それともああいうお貴族様はグレートボアは食わないのかね? 高級食材と言われてるし、お高い料理店でも出されてるのは知ってるんだがなー」


「ああ、いえ、レヴィーリア様もとても美味しい肉だとおっしゃってましたけど……」


「そうか! それじゃあ持っていってくれ。お貴族様の前に立つと緊張しちまうからな。代わりに頼まあ!」


 リーダーはホッとした表情を浮かべると、俺が持っていた肉の上にさらに肉をドンと重ねたのだった。



 ――こうして俺は難なく肉をゲットしてしまったわけである。


 隣を見れば伊勢崎さんも目をぱちくりと少し驚いた顔をしているし、このリーダーや冒険者たちがよっぽど太っ腹なんだろう。


 金や物品で交換するつもりでいた俺がちょっぴり恥ずかしいような、なんとも嬉しい肩透かしである。そういうことなら、こちらとしても是非ともお返しをしたいところだよね。


 俺と伊勢崎さんは目を合わせると、こくりと頷きあったのだった。



 ◇◇◇



 俺と伊勢崎さんは冒険者の食事の席に混ぜさせてもらうことにした。


 一旦メイドのホリーに肉を渡し(レヴィーリア様も行きたがったが、ホリーに阻止されていた)、俺たちは再びキャンプ地に歩を進める。


 すでに焚き火の周りでは木串に刺さったグレートボアの肉がいくつも焼かれており、近づくだけですごく香ばしい匂いが漂ってきた。


「おおっ、来たなお二人さん!」


 俺たちに気づき声を上げるリーダー。俺はぺこりと頭を下げた。


「この度はご相伴ありがとうございます。それでですね、お返しと言ってはなんですが、俺たちの方からみなさんに差し入れを持ってきました」


「おおっ? そんなの気にしなくてもいいのに。でも、貰えるものは病気以外なんだってもらうぜ!」


「あなたは本当に病気も貰ってきたことあるから、シャレになってませんよ……」


 そう言ったのは火の球を撃っていた痩せ魔道士だ。


「ウハハハ! もう少し高い店にしておけばよかったな! でもまあ具合はよかったから後悔してねえけどよー」


 隣には未成年もいるのでアンダージョークはスルーしつつ、俺は『収納ストレージ』から目的のブツを取り出した。


 それを見て目を丸くするリーダー。周辺からも「おお……」とざわめきが起こる。


 ざわめきは半分は俺が『収納ストレージ』持ちだったことで、残りの半分が出したブツの反応といったところだ。


「へえ、マツナガさん『収納ストレージ』持ちかよ。それで、その黒いのは一体なんだ……?」


 俺が取り出したのは、二リットルペットボトルに入った黒い液体。それが4つ。


「これは俺の国の飲み物で、コーラといいます」


 まあ実際は自由の国発祥な気がするけれど、細かいことは気にするまい。これもショッピングモールで爆買いした物のひとつだ。食料品売り場の冷蔵ショーケースから買ったので一応冷えている。


 旅に備えていろんな食べ物も購入しているが、きっと高級魔物肉には劣るに違いない。それなら飲み物を提供しようと考えたのだ。


 ちなみに酒もいくつか買っているけど、さすがに護衛中だからね。


「ふうん、異国の飲み物か……」


 覗き込むように、じいっとペットボトルを見つめるリーダー。そしてざわつく冒険者たち。


「沼の水より真っ黒だぞ」「飲めるのか、アレ?」「お、俺は遠慮しておこうかな……」


 そんな周辺を見回し、リーダーがニヤリと笑う。


「へへっ、おもしれえじゃねえか。それじゃ一杯もらおうか!」


「ええ、どうぞどうぞ」


 俺は準備していた紙コップに、コーラをなみなみと注ぎ込む。手元からはしゅわしゅわと炭酸の心地よい音が耳に届いてきた。


「なんだ、発酵しているのか? ワインでもこんなに音が鳴らねえぞ」


 そういやワインも発酵させる段階で炭酸ガスが発生するんだっけ? 詳しいことは知らない俺は笑ってごまかしつつ、注ぎ終えたコーラをリーダーに手渡した。


「よし、それじゃあ飲むぜ!」


 紙コップを掲げるリーダー。そしてみんなが見守る中、リーダーは紙コップに口をつけると首を真上に向け、ゴクゴクゴクゴクーッと一気にコーラを飲み干した。


「……ぶはっ!」


 ぎゅうっときつく目をつぶってリーダーがうつむく。


 その様子に周辺の冒険者たちが心配そうに顔を寄せていく中、スッと顔を上げたリーダーは、


「げ~~~~~~~っぷ!」


 豪快なゲップをして周囲を驚かせたのだった。


「ぐわっ! なにしやがる!」「ビビッたじゃねーか!」「心配したのに!」


 やいやいと周りが騒ぐ中、リーダーは紙コップを俺に突き出しながら言った。


「おいおい、マツナガさん。これってすげえ飲み物だな! 苦くて、でも甘くて、それで最高に刺激的でよ! もう一杯頼む!」


 それを聞き、周りの冒険者たちも騒ぎ出す。


「ずりいぞ、次は俺だ!」「私よ!」「俺だって!」


 次から次へと俺に向かって伸びてくる手に、俺は紙コップを渡してコーラを注いでいく。


 その誰もがコーラの味に感動し、何度も何度もおかわりをしてくれた。どうやらコーラは異世界でも大ウケらしい。


 これはまたいい売り物になるかもしれない。などとほくそ笑みつつ、そろそろ肉が食べたい――そう思う俺であった。



 ――後書き――


 ついに50話、さらには十万字も達成していました!ここまで読んでくださりありがとうございます。


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