47 昼休憩

 昼の休憩に入ることになったレヴィーリア様一行。俺は馬車の中で昼食をとるレヴィーリア様のお誘いを丁重に断り、ギータたちに会いに行くことにした。


 ちなみに伊勢崎さんは誘われるがままにレヴィーリア様のお供だ。まだ精神的ダメージは抜けていないらしい。


 馬車から外に出て辺りを見渡す。馬車周辺で冒険者たちが雑談をしたり地面に座り込んだりと自由に休憩をとっており、その中にはギータとシリルの姿もあった。


 俺は二人に駆け寄ると、あいさつもそこそこにこれまでの経緯を説明することにした。といっても、レヴィーリア様に気に入られて旅に同行するように誘われた――くらいしか言うことはないんだけど。



「――なんだ、そういうわけか。それならそうって早く言ってくれよマツナガさんよー。まったくビックリしたぜ」


 疑問が解けてスッキリしたのか、はあーと長いため息を吐きながらギータが言う。ちなみにいつの間にやら、俺の呼び名がおっさんからマツナガさんになっていた。


 レヴィーリア様の知り合いだからなんだろうけど、俺としてはどっちでもいいんだけどね。若い彼らからみればアラサーは十分におっさんだろうし。


「悪かったね。そういうわけでこれから十日間よろしく頼むよ」


「こちらこそよろしく。腕には自信があるからさ。マツナガさんも安心して馬車に乗っててくれよな!」


 そう言って頼もしげに胸を張るギータの横で口を尖らせるのは、メガネ女子のシリルだ。


「もうっ、ギータったらすぐに調子に乗るんだから。いくら強くても油断しちゃダメなんだからね?」


「はいはい、わかってるよー」


 その忠告に軽い返事をするギータ。昨日も腕に抱きついてイチャイチャしていたし仲良さそうな二人である。


 食事の準備をしながら話を聞いてみたところ、二人は十二歳の頃に刺激も稼ぎも少ない村から飛び出し、それからずっと冒険者をしているのだと教えてくれた。


 ちなみに歳は十九歳とのこと。つまり職歴でいうと冒険者七年目。


 社会人で職歴七年というと、俺と変わらないくらい。そう考えると、彼らは冒険者としては中堅どころと言えるのかもしれない。


 彼らはこの護衛の依頼が、前線都市での最初の仕事になるのだそうだ。やはり報酬のいい仕事らしく、ここに来てよかったと満足げに話してくれたよ。


 そんな身の上話が終わった頃には、食事の準備もとっくに完了していた。


 ギータとシリルが鞄から取り出したのは、真っ黒なパンと赤茶色の干し肉と水。


 どうやら冒険者のデフォルトな食料のようで、周辺の冒険者もみんな同じような物を食べている。かさばらないし保存が利くのだそうだ。


 そして俺は『収納ストレージ』から、ショッピングモール内のフードコートで購入したハンバーガーとフライドポテトを取り出した。


 ちなみに伊勢崎さんにも同じものを渡している。彼女はお嬢様だけどジャンクフードには抵抗がない。今になって思えば、きっと異世界暮らしが長かったせいだろう。


 そんなハンバーガーから漂う香ばしいソースの香りが、空腹の胃を強烈に刺激した。匂いを嗅いだ瞬間にたまらなくなった俺は、大口を開けてハンバーガーにかぶりついた。


 うん、食べ慣れた味、だけどウマイ! やっぱり空腹は最高の調味料とだなと思う。そこにソースの香りと肉の食感がさらに食欲を高めていく。


 俺はハンバーガーとフライドポテトを次から次へと胃の中に詰め込んでいき――


 半分ほど食べ終わってようやく一息ついたとき、こちらをぽかんと見つめているギータとシリルの姿に気がついたのだった。


「ああ、一人で黙々と食べちゃってて悪かったね。ちょっとお腹が空いててさ」


「いやあ、それはいいんだけど。さすが行商でレヴィーリア様にお気に入られただけあって、変わった食べ物だなーと思ってさ」


 そんなギータが見つめる先にあるのは、半分ほど残ったフライドポテトだった。どうやらパンに肉を挟むような料理はこちらにもあるらしい。


「よかったら二人も食べてよ。残りはそんなにないけどさ」


「いいのか? それじゃさっそく……!」


 好奇心に目を輝かせたギータがすぐさまフライドポテトを口の中へと放り込んだ。次の瞬間、彼は驚きに眉を吊り上げる。


「うおおっ……! ホクホクしてうめえなコレ! こんなの初めて食べたぞ! これが異国の料理か、すげえな! ほら、シリルも貰いなよ!」


「もう、ギータったら……。えと、それじゃマツナガさん、いただきます」


 ぺこりと頭を下げながら、ポテトをひとつ摘むシリル。


 彼女は次から次へとポテトを放り込むギータを見ながら、マネをするようにポテトを口の中に投げ込むと、メガネの奥の瞳を何度もまたたかせた。


「うわあ……本当においしいです。……ふむ、たくさん塩がかかっているのは保存を利かせるためなのかしら?」


 メガネキャラらしい知的な視点である。でもただの味付けだと思うよ。



 そうして俺たちの食事の時間が過ぎていった。ちなみにあまりに美味しそうに食べてくれるので、残りのフライドポテトは彼らに全部食べてもらったよ。


 俺もようやく空腹が収まり大満足。その後はギータたちと取り留めのない話をしながら食休み。


 ――そんな時、どこからか微かな笛のような音が耳に届いた。


 次の瞬間、まだ顔立ちにどこか幼さを残していたギータが険しい顔で立ち上がった。続いてシリルも。


 なんとなくつられて立ち上がった俺にギータが言う。


「仲間の合図だ。どうやらメシの匂いか人の匂いに釣られた魔物どもが近くにやってきているようだぜ。まっ、腹ごなしにはちょうどいいか」


 ギータはニヤリと口の端を吊り上げると、腰の鞘から長剣をスラリと抜いたのだった。

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