37 ほろ酔い帰宅
相原と居酒屋で飲んだ後、帰り道が途中まで同じなのに『
勘違いした相原から励まされるのは居心地が悪かったけれど、それを抜きにすれば久々の飲みはなかなか楽しかった。ちなみに割り勘である。
俺はいい気分で火照った顔に心地よい夜風を感じながらマンションへと到着すると、『
しばらくしてエレベーターが開き、数メートル先に自宅の扉が見える。するとそこには庶民マンションに場違いなほど美しい銀髪の少女が立っていて――って、
「えっ!? 伊勢崎さん!?」
「あっ、おじさま! こんばんは」
笑顔を浮かべて伊勢崎さんが俺に駆け寄ってきた。なにか約束を忘れていたのかと心臓が跳ね上がるが、そういった記憶はまったくない。ただし一瞬で酔いは冷めた。
時刻は夜の十時。伊勢崎さんが家の前で待っているなんてことは、これまで一度としてなかった。
「こんな時間にどうしたのかな? も、もしかして俺がなにか約束をすっぽかしてたとか……」
「いえ、そんなことはありません。私がどうしても気になることがあって、待たせていただいていただけですわ」
「気になること? それならスマホに連絡を入れてくれれば――あっ」
そういえばスマホも『
「いえ、本当におじさまが気にすることはありませんの。少しでも早くおじさまの魔力量を知りたかった、私のわがままなのですから」
魔力量……ああ、そうか。たしかに提案も伊勢崎さんからだったし、彼女が気にかけるのも当然といえる。
けれどこれは俺の気配りが足りなかったよなあ。河川敷から離れるときに一言でも報告をしておくべきだった。こんなの社会人失格だよ、まあ無職なんだけど。
「それでも待たせて本当にごめんね。とりあえずお茶くらいは出すから中に――」
と、俺が鍵穴に鍵を差し込んでいると、隣に立つ伊勢崎さんがふいに体を俺に寄せた。
「あら? これは……あら、おじさま? あら?」
「ええと、どうしたのかな?」
「もしかして……さっきまで誰かとご一緒していたのでしょうか?」
「うん、よく気づいたね。今日は元同僚とばったり会ってね、久々に居酒屋で飲んでいたんだよ」
酔いはすっかり覚めていたが、やはり酒臭さかっただろうか。俺はそっと伊勢崎さんから離れようとするが、伊勢崎さんはさらに身を寄せてくる。
「クンクンクン……。あ、あの、おじさま? つかぬことをお伺いしますが、もしかしてご一緒されたのは……じょ、女性の方かしら……?」
「う、うん。そうだけど……」
「そ、そうですの……ああ……」
ふらっとよろめいて俺から離れる伊勢崎さん。伊勢崎さんは声を震わせながら口を開く。
「それって、も、もしかして、お、おじさまが……お、お、お付き合いされている方……だったりとか……? あば、あばばばば……」
そう言いながらガクガクと震える伊勢崎さんの様子は気になるけれど、それよりも質問の突拍子のなさに笑ってしまった。
「ははっ、いやまさか。ただの後輩だよ」
「ほ、本当にですか?」
念を押す伊勢崎さんだが、本当にアレと付き合うとか考えたこともない。それに付き合うとか結婚するといった願望自体、今の俺にはない。
結婚だの孫だのと口うるさく言う親がもういないということもあるけれど、恋愛とは実に面倒くさいものだし、学生時代を経て、俺はそういうものには興味が持てなくなっていた。
「うん、本当だよ。それじゃ中に入ろうか」
俺がきっぱりと答えると、伊勢崎さんはじっとりとした目で俺を見つめ、
「おじさまがそういうなら信じますけど……後でもっと詳しく教えてくださいね?」
と、拗ねたように口を尖らせたのだった。
俺が彼女を妹と思っているように、彼女も兄が取られるような気持ちにでもなってくれたんだろうか。だとすれば伊勢崎さんには申し訳ないけれど、ちょっとだけうれしいね。
そうして俺は自宅に伊勢崎さんを案内し、ダイニングキッチンでコーヒーを飲みながら、伊勢崎さんに魔力量について伝えた。
やはり俺の魔力量は異世界の常識から考えると規格外なのだそうだ。しかも魔力量は努力次第でさらに増えるので、今後の展望を考えても、とにかくおじさまはすごいとのこと。
魔法を使うにはどうしても魔力の燃費を考える必要があるのだが、それを考えないでいいだけでも術者として相当なアドバンテージがあるのだという。
そもそも異世界に行ったり来たりする魔法なんて相当な魔力を使っているはずで、それが使えるという時点で魔力量の多さには気づかなければいけなかったと、伊勢崎さんには謝られた。
そうしてひと通りの魔法の話が済んだ後は、ひたすら相原のことの尋ねられることに。
容姿についても聞かれたので、スマホにあった写真を見せたのだが、それを見ているときの伊勢崎さんの険しい顔は忘れられない。
それしかなかったとはいえ、やはり相原が調子に乗って俺の腕に抱きついている写真というのはマズかったようだ。
そのせいでこじれたこともあってか、最終的に相原がただの後輩だということは信じてくれた頃にはもう0時近くになっており、伊勢崎さんを自宅に送り返したときには大家さんも珍しく呆れた顔をしていたのだった。
――後書き――
あけましておめでとうございます!
今年も読者の皆様に伊勢崎さんを楽しく読んでいただけるように頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。
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