12 商談後

「マツナガ様、このたびはご足労いただきありがとうございます。当商会といたしましても、大変有意義な時間を過ごさせていただきました」


「こちらこそご多忙な中、貴重なお時間をいただきありがとうございます」


「本日お売りいただいた商品は、いつでも買い取らせていただきます。他にも何か珍しい商品がありましたら、このライアス、ライアスにお申し付けくださいませ」


 胸に手を当てながら名前を強調するライアス。どうやら俺の専属として立候補したいらしい。


「わかりました。こちらこそよろしくお願いします」


「それではマツナガ様、奥様、またお越しくださいませ」


 店舗の入り口で深々とお辞儀をするライアスに見送られ、俺たちはレイマール商会を後にした。



 ――今回はとても満足のいく商売ができた。


 ライアスに見せた品物はすべて売り切り、その総額はなんと25万G。


 中でもスーパーで2000円もしなかったウイスキーが一本だけで20万Gで売れ、総額の大半を占めた。


 ちなみにお菓子もひとつずつ味見をしてもらったのだが、その中で一番評価が高く、高値がついたのがホワイト◯リータ。俺はルマ◯ド派なのでちょっとだけ悔しかった。


 いずれ機会があるのなら、きのこのアレとたけのこのアレでどちらが高く売れるか挑戦してみたいと思う。


 逆に予想以上に安かったのはツナ缶だ。魚のオイル漬け自体さほど珍しいものでもないらしく、保存食として普及しているのだそうだ。


 そのうえ今回のターゲットであるお金持ちの方々は、多少美味かろうがわざわざ保存食を食べたがらないとのこと。缶のパッケージが珍しいのでなんとか売れた程度だった。


 ヘタをすれば蓋を開けられることもなく、観賞用として好事家のショーケースを賑わせる一品になってしまうかもしれない。


 そんなこともあったが、総合的にみて大成功と言っても過言ではない結果だと思う。


「さすがはおじさまですっ! お洋服を売ろうとした私と違い、お洋服を着こなして他の物を高く売るだなんて、私には思いつきませんでしたもの。私もおじさまの足を引っ張らないように今後精進しないといけませんわ!」


 目を輝かせながら語る伊勢崎さん。買いかぶりすぎだとは思うけど、少しは役に立ったようでなによりだ。


「伊勢崎さんが喜んでくれて俺も嬉しいよ。それじゃあせっかくお金も入ったし、なにか買い物でもするかい?」


「まあっ、おじさまとお買い物!? それはとても魅力的なご提案なのですが……。荷物が増えますし、それは後になさいませんか? それよりも魔法の訓練なんかはいかがでしょう? ふふっ」


 伊勢崎さんがぱちんとウインクを決めて俺を見つめる。どうやら俺が魔法に興味があってうずうずしているのを察してくれているようだ。


「そういうことならお願いしていいかな」


「はいっ! それでは少し広くて人のいないところに移動しましょう! さあ、こちらですっ!」


 こうして俺は伊勢崎さんに案内され、昨日転移した場所にほど近い、町はずれの荒野へと足を運んだのだった。

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