第69話 忘レル

「言って」


「ううっ……」


「言って」


「ひっ……ひいっ……」


 喉元に突き付けられた包丁の刃先が、カリリ……を肌を引っ掻く。


「黙ってないで、早く言ってよ」


「な、何だっていうのっ!?まさか、小学校の頃の復讐をするつもりなのっ!?あれから何年経ったと思ってるのっ!?一体いつまで、いじめられたことを引きずって――」


「言えっ!早くっ!私のあだ名をっ!お前らが私に付けた、お前らがいじめの時に指差して連呼した、お前らが私の机だのノートだのに殴り書きした、私のあだ名を言えっ!」


「そんなの、覚えてるわけないでしょっ!あんたみたいなジメジメした奴をいじめてた時のことなんか、いちいち覚えてないっ!大体、あれはいじめじゃなくて、いじり――」


「残念」


「げぶっ……」


 喉を裂かれ、悲鳴が上がらなかった。激痛と、熱い異物を呑み込んだような感覚がグジグジと伝う。

 遠ざかっていく意識の中、


「答えは……ムラサキカガミだよ」


 耳元で、恐ろしいほど冷え切った声が囁いた。

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