第56話 鳴ク

「ここに、テケテケがいるって言うの?」


 昔は炭鉱だったという、沼地の近くにある洞穴の前で、今一度ショウコに確認する。


「うん。色んな人が言ってるの。ここで、テケテケの声を聴いたって」


「テケテケの声?」


「そう。テケテケ!テケテケ!っていう声」


「……テケテケって、テケテケ!って喋るものなの?」


「そうなんじゃない?だから、テケテケっていうのかも」


「なんか、嘘くさいなあ。テケテケって、上半身だけのお化けなんでしょう?だったら、普通に喋れるんじゃないの?」


「分かんないけど、ここにいる可能性は高いよ。昔、この辺で遊んでた子供が行方不明になったことがあるらしいの。そこの沼が底なし沼だから、遊んでる内に落っこちちゃって、今も沈んでるんじゃないかって噂だけど、私はそうは思わない。きっと、この洞穴に棲んでるテケテケに、攫われちゃったんだよ」


「……ねえ、帰ろうよ。なんか、怖くなってきた」


「何言ってるの。せっかくここまで来たんだから、行こ」


 ショウコに背中を押される形で、洞穴の中へと入った。予め用意しておいた懐中電灯で照らしながら、怖々と奥へ進んでいく。

 下へ、下へ……。随分と深い。それに、なんだか臭い。

 と、その時、


 ——―テケ……


 という、声のような、笛を吹いたような音が聴こえた。


「しょ、ショウコ、今のって……」


「う、うん。聴こえた」


 ——―テケ……!


 また、聴こえた。さっきよりも、はっきりと。


 ——―テケ……テケ……!


 ……近付いて来ている?


「に、逃げなきゃっ!」


「待って!せめて写真を――」


 ショウコが、奥の暗闇に向かってカメラを構え、フラッシュを焚いた。

 その、閃光の中に見えたものは――凄まじいスピードでこちらへズルズルと這い迫ってくる、名状し難い粘着質の塊だった。


 ——―テケリ・リ!


 それが発した鳴き声が、暗闇の洞穴に響き渡る。

 多分、もう、逃げられない―――。

 

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