第50話 憑カレル
「てん、そー、めつ。てん、そー、めつ。てん、そー、めつ」
登山をしていると、彼女が変な言葉を呪文のように唱え始めた。
「何なの?それ」
「魔除けのおまじない」
「魔除け?」
「うん。この山ね、昔は女人禁制の山だったんだって。女の人が入ると、変なモノに取り憑かれて、おかしくなっちゃうらしいの。だから、それが寄って来ないように、こうやって魔除けの言葉を唱えながら歩くといいんだって」
「へえ。そんな迷信があるんだ」
「でも、聞いたところによると、魔除けっていうか、仲間のふりをしてやり過ごすとか、そういう意味合いがあるらしいけどねえ」
「ふーん。よく分かんないな」
その時、近くの茂みがガサガサと揺れ、
——―ザンッ、ザンッ、ザンッ、ザンッ
と、まるでケンケンをしているような足音が迫ってきた。
「何だろ――」
「しっ!伏せて!」
「えっ?」
言われるがままに身を伏せると、彼女は、
「てん、そー、めつ。てん、そー、めつ。てん、そー、めつ……」
と、唱え始めた。すると、
——―ザンッ、ザンッ、ザンッ、ザンッ……
奇妙な足音は、段々と遠ざかっていった。
それが完全に聴こえなくなると、
「……ふうっ」
彼女が、ドッと息を吐いた。
「な……何だったの?今のは」
「多分、あれが変なモノなんじゃないかな。一本足だって聞いてたから、間違いないと思うけど」
「逃げて行ったってことは……魔除けのおまじないが効いたってこと?」
「うん。どうにか切り抜けられたみたい。でも、あんな感じで来るのなら、気軽に登山できないね、この山。っていうか、女の人は立ち入り禁止にするべきだよ。そもそも、入れないように――」
突然、彼女の顔が固まった。
「……どうしたの?」
「入れ……入れ……入れ……入れ、入れ、入れ、はいれ、はいれ、はいれ、はいれ、はいれ、はいれ、はいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれはいれ――」
「ちょ、ちょっと!どうしたの!?何が――」
慌てて肩を揺すると、彼女は突然ピタッと止まり、
「……はいれたあ」
と、張り付いたようなニヤニヤ笑いを浮かべた。
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