第34話 詫ビル

「——―ですからぁ、うちのケンちゃんは悪くないんですぅ。ちょっと慌ててただけでぇ、傷付けるつもりは無かったんですぅ」


 ……ふざけるな。


「突き飛ばしたところが、たまたま道路だったってだけでえ、そして、たまたま

車が走ってたってだけでぇ、ケンちゃんはぁ、なぁんにも悪いことしてないんですぅ」


 ……なぜだ、なぜなんだ。


「普段はとぉっても良い子ですしぃ、あの時は怖がってたのもあってぇ」


 なぜこんなことができるんだ……!


「だからぁ――」


 ——―ガチャンッ!


 震えながら、叩きつけるようにして電話を切る。が、


 ——―プルルルルルルル


 すぐにまた掛かってきた。出ると、


「本当にすいませぇん。でもぉ、こっちの言い分も聞いて頂けませんかぁ?そもそもぉ、おたくのヒロくんが日頃からうちのケンちゃんをいじめててぇ――」


「もうやめてくれっ!」


 受話器に向かって叫んだ。


「妻も息子も、もう家にはいないんだっ!あちこちから人殺し呼ばわりされてノイローゼになって、二人とも精神病院にいるっ!こちらに非があるのも分かってるんだ!妻はママ友連中を扇動してあんたをいじめていたと認めたし、息子もあんたのとこの息子をいじめていたメンバーの主犯格だったって認めてる!それを、もう十分過ぎるくらいに反省してるっ!だからっ、頼むからっ……もう掛けてこないでくれっ!」


 ——―ガチャンッ!


 再び、叩きつけるようにして電話を切るが、


 ——―プルルルルルルル


 間髪を入れずに、また掛かってきた。


「ううっ……!」


 思わず、耳を塞ぐ。

 これは、罰なのか?

 あの親子を心中するまで追い詰めたのは妻と息子なのに。

 俺は関係ないのに。

 俺たち家族全員の心が壊れるまで、この死者からの電話は続くとでもいうのか―――。

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