第149話 ご近所ダンジョンさん 3
茫然自失で家に帰りつきました。
私はワールドベースボールクラシックの映像が再放送されているテレビを眺めながら、お膝に乗っているミズモチさんを撫でております。
日本が優勝して本当に喜ばしいです。どの国のチームも素晴らしくて、今回は楽しませてもらいました。
ですが、野球選手たちの年齢を見ていて、全員が自分よりも歳が下の人ばかりで驚きと、年下の方々に感動を与えてくれたことに感謝です。
ワールドベースボールよりも、自分自身に起きた出来事の方が衝撃すぎて、感動と衝撃の間でミズモチさんに癒されるように甘えてしまいます。
『ヒデ!ヤバ!とツガイ?』
ミズモチさんにカオリさんに告白したことをお伝えしました。ミズモチさんは意味がわかっていなかったので恋人とは何なのか説明をしました。
どうやら魔物は
「はい。番になりたいと思っております。ミズモチさんはどう思われますか?」
『ヤバ!スキー』
「ふふ、よかったです。私の家族はミズモチさんを大切にしてくれる人がいいと思っていました。カオリさんは最初の頃からミズモチさん自慢を聞いてくれて、一緒にご飯を食べてくれました」
もしかしたら、初めて家に来てもらった時から私はカオリさんのことをいいなと思っていたのかもしれません。
「ミズモチさん。今からご近所ダンジョンに行きましょうか?」
『行く〜ゴハン!』
私はただ気分を紛らわしたいと思って、装備を最小限にしてスーパーカブさんへ乗り込みました。
走り出しとチラチラと桜の花びらが舞い散り、春の暖かさを夜でも感じることができます。
「ミズモチさん。これが桜ですよ」
『サクラ〜キレ〜』
ミズモチさんがリュックから顔を出して桜を眺めているようです。
スーパーカブさんでご近所ダンジョンに辿り着くと、ご近所ダンジョンさんは満開の桜に彩られてとても美しい景色で私たちを出迎えてくれました。
「凄いですね」
『満開〜』
「はい。これが満開の桜というやつです」
桜並木を抜けていくとご近所ダンジョンさんの入り口が見えました。
入り口の前には、松明が飾られております。
今まで見たことがない光景に驚いてしまいますが、私は恐る恐るご近所ダンジョンの中へと入って行きました。
ご近所ダンジョンの中も今までは洞窟といった様子ですが、今ではお城の隠し通路のように洞窟の中が整備されてただの土層だった壁が綺麗に整えられています。
「入るのは久しぶりですね。いつも入り口で帰ってしまっていたので。それにしてもいつの間にかこんなに綺麗になっていたのですね」
ご近所ダンジョンの中を通っていくと、横道の部屋も整って綺麗な洞窟になっていました。
「なんだか、時代劇で見る石造りのお城の中みたいで楽しいです」
いつもならば、ボス部屋へと到達できそうな深さまで辿りついたところで、私は違和感に気づきました。
前後どちらからも入り口も、出口も見えません。
「おかしいですね。今まではどっちも見えていたのに」
私が戸惑っていると、左右の壁につけられた松明が燃え出して洞窟の中が明るくなりました。
「なっなんですか?」
『うわ〜綺麗』
「どうなっているんでしょうか?」
松明の向こう側、刀らしき武器を持った灰色オーガがお一人立っておられました。白鬼乙女さんが現れるようになってから魔物さんはあまり出ていなかったのに久しぶりです。
「ミズモチさん」
『ゴハン!でも、強い』
「えっ?」
ミズモチさんの強いという言葉で私が白金さんを構えると同時に、灰色オーガが抜刀した状態で走り始めました。
「ミズモチさんアイスアロー」
『アイスアロー』
ミズモチさんの氷の矢が無数に飛んでいきます。ですが、全て灰色オーガに当たる前に消えてしまいました。
『斬られた〜』
「えっ!ぐっ!」
もしも、体が強化されていなければ危なかったです。いきなり斬りつけられて、なんとか白金さんで受け止められました。
「鬼人化!変身」
全ての強化を行なったことで、灰色オーガの動きについていけます。
「ぐっ!それでも」
『アイスカッター!アイスジャベリン!』
ミズモチさんが魔法で援護してくれたので、なんとか引き離すことに成功しました。
「確かに強いです。全力で戦っても勝てる気がしません」
ミズモチさんと二人で力を合わせても、灰色オーガにダメージを与えることができていません。
「ふぅ。奥義を出すしかありませんね!ミズモチさん合成魔法です!」
『は〜い!』
「スノープリズン!ミラーハウス!」
私はビッグブラックベアーを倒した合成魔法を使いました。
洞窟ということもあり、狭い空間で逃げ場などありません。
そのはずなのに……。
「なっ!」
灰色オーガは、剣が光り合成魔法を切り裂いてしまいました。
「ミズモチさん。黒山羊よりもヤバいかもしれません」
どこかで、私は浮かれていたのかもしれません。そして、自分の力を過信していました。鬼人化して強くなったと。
『ヒデ!』
それは少しだけ思考をしている瞬きをするような時間。
目の前に灰色オーガが出現して、私は斬られました。
『ヒデ!ヒデ!ヒデ!』
ミズモチさんが悲しそうな声を出すのが聞こえます。
ですが、痛みと自分の体から吹き出す血の量に私は死を感じて意識を失いました。
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