第143話 スラソック
最近は暖かくなってきました。
私は久しぶりに、ミズモチさんをペットカメラで覗いて見ようと思って、職場についてすぐに、スマホの電源を入れました。
本日は残業もあり、帰りが遅くなることを伝えているので、自分の心を精神安定させる意味でも、ミズモチさんを見て気持ちを癒されようと思ったのです。
「ミズモチさんはどこでしょうか?」
朝のお見送りをしてくれたミズモチさんは何をしているんでしょうね? 視線を彷徨わせると窓際に置かれた椅子の上におられます。
「何をしているのでしょうか?」
朝方は日も入らないので、窓際に行ってもそれほど暖かくはありません。むしろ、朝方はひんやりとして寒いほどです。
ミズモチさんを見ていると、窓の外を見てプルプルしておられます。
「何をされているのでしょうか?おや、家の外が何やらゴソゴソ音がしていますね」
私の家はアパートなので、外で誰かが何かをしていれば、家の中まで音がします。ミズモチさんは、窓の外を眺めていた体を反転させて玄関の方へ向かいます。
そのまま玄関が開くことはありませんが、ミズモチさんはしばらく玄関の外や台所の窓などを眺めてプルプルされていました。
「警戒しているんでしょうか? 落ち着けないのでしょうか? それは申し訳ないですね。私も仕事の時は家にいないので気づいてあげられませんでした」
ついついミズモチさんを見てしまって、仕事が一向に進みません。
「先ほどから何を見ているのですか?」
「あっ、カオリさんすみません」
「いえ、別に怒っているわけではないのですが、珍しく集中されていないようなので」
「実は、ミズモチさんを見ていまして」
「ミズモチさん?」
私がミズモチさんの名を口に出すと、カオリさんが立ち上がって私のデスクにやってこられました。隣に立って一緒にミズモチさんを見ます。
「何をしているんですか?」
「さぁ、先ほど家の外で物音がして、ミズモチさんが物音のする方にやってこられてたんです」
「スライムは、物音に反応するのですか?」
「いえ、私と一緒にいるときはそんなことはないのですが、むしろお出かけしてもリュックの中でグッスリと眠られています。物音がしたぐらいでは起きませんね」
本当にミズモチさんは何をされているのでしょうか?
「それじゃあれじゃないですか?」
「あれ?」
「私の実家で猫と犬を両方飼っていたのですが、猫は窓の外などを眺めて家の中を守るような素振りをする時があるんです。実際は変な人が来たら一目散に逃げるんですけど。犬なんかは、聞きなれない足音などを聞くと耳をピクピクさせて、近づく不審な人に吠えたりするそうです。ミズモチさんも家を守ろうとしているんじゃないですかね?」
カオリさんの言葉を聞いて、もう一度ミズモチさんを見てみると、物音がしなくなった玄関から離れて窓際へと戻っていかれました。
窓際に戻ったミズモチさんは、またも窓の外を眺めてプルプルされています。
「ふふ、なんだか家のボディーガードみたいですね。あれだ。スラソック」
「スラソック?」
「ええ。有名な警備会社の」
「ああ。ふふ、ミズモチさんもお仕事をしてくれているんですね」
「はい。毎日、ヒデオさんが帰ってくるまで家を守るお仕事をしてくれているんですね」
ミズモチさんが仕事をしているのに、私が仕事をしないのはダメですね。
しっかりと働かせて頂きます。ミズモチさんには何かお礼の品を買って帰らなければなりませんね。
集中して仕事をしているといつの間にか二十二時を過ぎていました。
昔であれば、徹夜をしたり、泊まり込みも当たり前でしたが、仕事が残っていようと日が変わる前に私は家に帰りたい衝動に駆られて仕事を放って帰宅しました。
「ミズモチさん。ただいま帰りました」
私が帰ってくると、ミズモチさんは、玄関の前におられました。
『ヒデ!おかえり〜』
ふふ、ミズモチさんが出迎えてくれる幸せを毎日感じているはずなのに、本日はスラソックをしていることを知ってしまったのでいつもよりも尊く感じてしまいます。
「ミズモチさん。今日はいつもお仕事をしてくれているミズモチさんにお礼の品があります」
『仕事〜?ゴハン〜?』
「ええ。ご飯ですが、もうこの時間なので夜食ですね。じゃっじゃん!!!菓子パン軍団です。あんぱんやクリームパン以外にも、コロッケパンや焼きそばパンもありますよ」
『パン。スキ〜』
「ふふ、バターロール以外にもたくさんのパンをご賞味ください!」
私はコンビニ弁当をレンジでチンをして、一つ一つの袋を開けてはミズモチさんへ提供していきます。
夕食は肉まんやシュウマイを置いていましたが、ミズモチさんの胃袋はまだまだ余裕ですね。
「本当にいつも家を守って頂いてありがとうございます!」
『仕事〜ゴハン〜』
「はい。いつもご苦労様です。また週末はダンジョンに行きましょうね」
『いく〜ゴハン〜』
ミズモチさんと約束して、私たちは一緒にお風呂へ入って寝ました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます