第105話 悩み相談 1
雪山でミズモチさんと暴れ回ったのは楽しかったです。
ですが、悩み解決には至りませんでした。
シズカさんというか、女性の気持ちはおじさんにはわかりません。
そこで、女性に詳しくて私でも相談できる相手に、相談してみることにしました。
「そんで?相談ってなんなん?」
本日は、ミヤコさんのお店でハルカさんと横並びでお酒を飲んでいます。
「それがですね。私はどうにも人の好意というものが苦手でして」
「好意?」
「はい。苦手と言いますか機微がわからないと言いますか……」
「ああ。そういうことかいな。まぁそれはあるな」
「えっ?やっぱりそうなのですか?」
ハルカさんは、最近冒険者ギルドの広告塔としてモデル業をされております。
テレビなどで拝見する日もあるほどです。
街を歩いていても、電車に乗っていても、冒険者といえばハルカさんというイメージが世間では定着しつつあります。それほどお顔を拝見します。
そんなハルカさんにメッセージで相談をしようと……
【私】「すみません。相談なのですが……」
と送ったところ、たまたま本日は時間があるということで一緒に夕食を取ることになりました。
「それにしてもヒデオさんからメッセージが来るからよっぽどのことかと思ったら、今更人間関係の相談ってヒデオさんらしいわ」
人間関係は、人生の課題だと私は思っております。
どうしても上手く人付き合いができる方ではないので、人の好意や悪意に気づけない私です。
「そんで?好意っていうことは誰かから、好きやとでも言われたん?」
ハウッ!そんな直接的な告白であれば喜んでお受けします。
阿部秀雄苦節40年。常に私の隣が空いております!
最近はミズモチさんが寄り添ってくれるので、寂しさは紛れております。
ですが、人生のパートナーがほしいと思うのは世の常です。
「いえいえ、そういうことではないんです。それにこんなオジサンを好きになってくれる人なんていませんよ」
「そんなことはあらへんと思うけど。まぁええわ。ミヤコさん。おでんとつまみを適当にお願いします」
「はいな」
意外だったのは、ハルカさんもこの店に来たことがあるそうです。
ユイさんとも来たことがあるので、この店とは何かしらの縁があるのかもしれませんね。
冒険者界隈で穴場なのでしょうか?
カオリさんがいれば、ハルカさんと一緒に相談に乗ってくれたかもしれません。
本日は平日なので、お客様も少ない様子です。
そのためカオリさんはいませんでした。
「それで?人間関係の悩みなんはわかったけど。どんなことを悩んでるん?」
「はい。相手が良かれた思ってしてくれた行為が、私にとっては驚きの行為だったので、これはどう受け止めればいいかという話です」
「ふ〜ん。うちがキスしても平然としとったからそういうことやないやろなぁ~?それにこっちに来てヒデオさんに言い寄りそうな女はわかったけど。そういうことをしそうな女はおらんかったしな」
ハルカさんは私に聞こえない、小さな声で何やら呟いておられます。
「ハルカさん?」
「なんでもないよ。そうやな。好意の難しいところやけど、それをされてヒデオさんは嫌やったん?」
嫌…………では、もちろんありませんね。
むしろ、嬉しかったです。
美人で可愛くて年下のシズカさんが、私のようなオジサンにキスをしてくれたのですから。
ですが、それは素直に受け取って良い好意なのかの判断ができません。
歳のこともありますが、それをシズカさんから私への好意だと思って受け取ったとして好意ではなかったとき、自分の心を守るためなのだと思います。
変に期待をして、そうではなかったときにショックは期待しなかったときよりも大きくなりますからね。
「いえ、嫌ではないです。ただ、戸惑ってしまうばかりで」
「う~ん、よう話は見えんへんけど、嫌じゃないならそれはヒデオさん側も受け入れているってことちゃう?」
「私が受け入れている?」
「お待ちどうさんです」
温かいおでんとつまみのエイひれ、それにたこわさがテーブルに置かれました。
「そうや。嫌な相手から受け取る行為はどんだけされても嫌に感じる。せやけど、嫌な相手じゃない人から善意でされた行為は、受け取る側も悪い気はせいへん。
それはある意味で相手のことを悪く思ってないから、受け止めたってことちゃうかな?」
なるほどです。
私は恋愛だとばかり思っていました。
これが人と人との間でお付き合いだというなら、取引先の人がプレゼントを渡してくれて、それは好意ではなくて単なる親切心です。
確かにシズカさんは私のお祝いだと言いました。
ですから、これは私がB級になったお祝いをしてあげたいと思ったシズカさんが、その場で渡せるお祝いをしてくれたんと言うことでしょうか?
「ハァ、なんだか悩みが解決したような気がします」
「なんや簡単な悩みやったんやね」
「どうなんでしょうか?ハルカさんの答えで、一つだけわかったことがあります」
「なに?」
「私が考え過ぎて、拡大解釈していたのがいけなかったです。きっと相手からすれば、恥ずかしくもない当たり前の行為だったのでしょうね」
「そうかもしれへんね。それより熱燗飲まへん?」
「おっ!ハルカさんはいける口ですね」
「うん。こう寒いとね。それに明日は休みやから、たまには顔が浮腫んでもええかなって」
ハルカさんといるときは、関西弁が聞けてなんだか気持ちが落ち着きます。
「なぁ、ヒデオさん。私は頑張ってるよ」
「ええ。ハルカさんの活躍は毎日拝見しております」
「うん。あいつが見れへんかった景色を私が全部みたる」
「はい!その意気です」
お酒を飲み干し、そっと私の肩へしなだれかかってきたハルカさん。
「それでも夜は一人で寂しいんよ。誰もいない部屋に帰る。それを想像しただけで寂しいんよ」
私は自分の相談を終えることが出来たので、チビチビと熱燗を飲みながら、ハルカさんの愚痴を聞いています。
ハルカさんは、まだ彼氏さんへの想いが抜けないのですね。私は子供をあやすように頭をポンポンと撫でました。
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