第68話 矢場沢さんとの昼休み

プルプルとミズモチさんのスライムボディーがマグカップから溢れ出ております。


パソコンを操作している横にプルプルミズモチさん。

何か物を取ろうと机が揺れるとプルプルミズモチさん。

コップが二つ並んで間違って持ち上げてしまいプルプルミズモチさん。


これはあれですね。


プルプルの癒しの連鎖が止まりませんね。


「阿部さん、そろそろお昼にしませんか?先週よりも余裕がありますので」

「あっはい。もうそんな時間ですか」

「ええ。今日は凄い集中力でしたね。なんだか一点を見つめて仕事をどんどん終わらせていくのでビックリしました」

「はは、人間ってメリハリがあると、気持ちも向上するもんなんですね」

「えっ?どういう意味ですか?」


矢場沢さんが、お弁当を並べながら問いかけてくれるので、私はそっとマグカップを持ち上げて矢場沢さんの前に出しました。


「えっ?ミズモチさんですか?こんなに小さく成れるんですか?可愛い!」

「ですよね!可愛いのです。この溢れんばかりのプルプルボディーがコップから溢れ出して癒やされるのです。電話で嫌なことを言われても、理不尽な書類を見ても、ミズモチさんのプルプルボディーを見るだけで癒やされて、仕事へ気持ちが切り替えられるのです」


あっ、また熱弁してしまいました。


「ふふ、それはいいですね。でも、会社に連れてきてミズモチさんは大丈夫ですか?」

「はい。このたび、ミズモチさん外出モードになれるようになりまして」

「外出モード?」

「はい。ミズモチさん。ご飯を食べましょう」


矢場沢さんが用意してくれたお弁当以外に、私はミズモチさん用に肉巻きおにぎりを用意してきました。この冷凍食品が、最近のミズモチさんのお気に入りです。


「もぞもぞしながら出てきましたね」

「はい。ミズモチさんは、ゆっくりさんです」


ダンジョンにいるときは俊敏な動きをされますが、基本はのんびりです。


「さぁ頂きましょう」


矢場沢さんがミズモチさんへハムのレタス巻きを差し出すと、ミズモチさんは嬉しそうに消化されていました。


「ふふ、可愛い。このサイズは反則ですね」


矢場沢さんがミズモチさんにハマっておられます。


「これからも連れてきてくださいね」

「そのつもりです」

「これからはミズモチさんの分も作らないといけないかしら?」


矢場沢さんが凄く楽しそうでよかったです。

ミズモチさんは肉巻きおにぎりを食べ終わったあと、矢場沢さんにもらえるお弁当をデザートのようにしています。


仕事終わりに、どこかに食べに行こうと思ったのですがミズモチさんが……


【ミズモチ】《ダンジョン》


「えっ?ダンジョンに行きたいのですか?」


食事をしようと思っていたのですが、ミズモチさんは外出して疲れたのかも知れませんね。魔力が補給したくなったのでしょう。


「わかりました。ご近所ダンジョンに行きましょう」


ミズモチさんが潰されないように、帰りの電車は網棚に場所を確保しました。

やっぱりラッシュ時間に帰るのは辛いですね。

ミズモチさんが疲れているなら、絶対にこの時間に帰るのは危険です。


家についた私は装備を整えて、スーパーカブさんで発進です。


「ミズモチさん到着しましたよ」


【ミズモチ】《頂きます》


「ダンジョンの魔力補給もご飯なんですね」


ヘルメットを脱いで、サークレットを装備します。


ご近所ダンジョンさんは、最近オーガさんが登場するので少し遠ざけていました。

緊張しながら中へ進んでいくと、魔物はいませんでした。


「ハァ、緊張しました。最近は強いオーガさんとの戦いが続いていたので、やっぱり恐いですからね。オークさんは見た目が怖くないので、やっぱりオークダンジョンの方に行く方が気がラクですね」


ダンジョンボスがいるという扉まで辿りついたところで手を合わせます。


「いつもお世話になっています。本日は帰るまで魔物が出ませんように!お願いします」


お願いしたので大丈夫でしょうか?


「ミズモチさん。帰りましょうか?」


【ミズモチ】《は~い》


「ふぅ~やっぱり会社に行くとミズモチさんも疲れてしまうのでしょうね。明日はお休みしてくださいね」


【ミズモチ】《おやすみ》


「はは、その意味ではありませんけどね」


私たちがダンジョンから出ると、一瞬だけダンジョンが光ったような気がしました。


「えっ?」


【ミズモチ】《な~に~?》


「今、ダンジョンが光りませんでしたか?」


【ミズモチ】《わかんない》


「気のせいですかね?戻った方がいいですか?」


ミズモチさんは興味がないのかプルプルしておられます。


「まぁ、気のせいですよね。A級ダンジョンだからと言って危険なことがあったとは聞きませんからね。ボスさん以外は出てこないから、危険は少ないですもんね」


自分に言い聞かせるように、私はダンジョンを後にしました。


その後、ニュースでご近所ダンジョンの前に大きな石が出来て、ダンジョンに入れなくなったことを知りました。。

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