第56話 別れと出会い

【side梅田遥香】


クリスマスの日、私はあいつと待ち合わせをしていた。

しょうもない事でケンカをして、一週間ほど連絡もしてないけど、約束の日なら来ると思って待っていた。


結局……あいつは来うへんかった。


アホらしくて、日付が変わるまで待ってもうてた。

悔しくて、信じた自分に腹が立って、私らの関係も……もう終わりやと思った。


次の日、連絡をくれたんは冒険者で世話になってる人からやった。

あいつが一人で、いばらき童子ダンジョンに入って遺品だけが見つかったと言う話やった。


報告を聞いたときは愕然として、身体から力が抜けてもうて、立ち上がれへんようになった。

なんでや?なんで一人で行ったんや。ホンマにアホや、アホ以外の何者でもあらへん。


それを別の冒険者さんが教えてくれた話やったんが、私には余計に悲しかった。なんで、私を置いて逝ってもうたんや。


冒険者カードと装備品だけが、冒険者さんが持って帰ってきてくれた物やった。

冒険者さんに感謝伝えて、装備はそのまま渡した。


それが冒険者のルールやから、冒険者カードもギルドに返して、私には何も残らへんかった。

自宅に帰って、私はあいつとクリスマスに開ける約束をした箱を見つけて壁に投げつけた。


二人で鍵を合わせて使う特別な箱やったのに、あいつが何を入れたかももうわからへん。

もう一生鍵を使って開けることはできひん。

これからどないしょうか?そう思てたとき、いつもの癖で冒険者ギルドに来とった。


冒険者ギルドでふらふらしとったら、あいつに会えるかも……そう思てたら、面白いオッチャンを見つけた。

リュックを背負い、コートを羽織った禿げたオッチャンが、受付のオバチャンに乗せられて要らんもん買わされとった。


お人好し過ぎるやろ。

そんなオッチャンが面白くて声をかけた。


「おっちゃん……やられたな」


それが私と阿部さんの出会いやった。

話を聞いたら、スライムに魔力を与えたいだけやって、そんな河川敷でええやん。

そんなことも知らんオッちゃんは初心者やって言うたのに、戦い方は丁寧でスライムとの連携も様になってて不思議な人やった。


話しててもホンマにええ人で……もしかしたらこの人やったら、一緒にいばらき童子ダンジョンに行ってくれるかもしれへん。

こんな年末に誰も臨時でパーティーを組んでくれる人はおらへん。

せやけど、この人なら……あいつの遺品である鍵を一緒に探してくれるかもしれへん。


「茨木市のダンジョンに一緒に行ってくれへん?」

「ミズモチさんが戦いたいと言っていますので、お受けします」


阿部さんは快く引き受けてくれた。

私は罪悪感でいっぱいやった。

Dランクの初心者である阿部さんを連れて行くのは、自殺行為や……私は死んでもええ、せやけど阿部さんを道連れにするわけにはいかん。


「阿部さんのレベル上げからしよ」


自分の罪悪感を誤魔化すために、阿部さんにええ人の顔をした……もしかしたら奥まで進んで阿部さんに迷惑をかけるかもしれへん。

阿部さんの命を危険に晒すことになる。


油断しとった。


まさかダンジョンの近くに車を止めたら、オーガ共が車を見つけて降りてきおるなんて考えてなかった。

ヤバい。もしも、車を壊されたら帰りは歩きになる。

歩いて帰るだけでも1日はかかる、ホンマに大変なんや。


「私がオーガを引きつけますので、車を取り戻して頂けますか?」


何言うとるん?オーガは五匹ぐらいおんねんで……阿部さんはさっきオーガと戦ったばかりやん。無理や!阿部さんは真剣な目で私を見てる。


「わかった。頼みます!」


最悪、車を捨てて阿部さんを助ける。


そう思ってたのに阿部さんは、さっきまで使ってなかった魔法を使った。


なんやそれ!なんで頭が光るんや!ごっつ面白いやん!

私は、あいつが死んでから初めて心の底から笑った。

ホンマに阿部さんはこっちの意表を突いてくる、予測が付かんは、ホンマに面白すぎやわ。


だからつい、甘えてしまう。

次の日も一緒に冒険をしてほしいと……私は罪なことをしてる。

阿部さんと死んでもええと思ってしまってる。


次の日、奥まで進むとあいつが死んだ遺品がダンジョンに取り込まれて宝箱に成っとった。

もしかしたら見つかるかもしれんと思ってたけど……これであいつの死が確定してもうた。


せっかく阿部さんのおかげで諦めれそうやったのに……また、ポッキリ心が折れてしもた。そんな私に阿部さんが説教をした。


「生きることも、死ぬことも自由だと思います。

ですが、生きている間はできることがあるかもしれませんよ。彼の代わりになる人はいないかもしれない。

ですが、彼が見えなかった世界を見ることは、代わりにしてあげられるんじゃないですか?」


阿部さんは私の命を助けてくれて……心まで救ってくれようとしてる。

ズルいわ……こんなん弱ってるときにされたら……そんな言葉かけられたら……どうしても阿部さんに甘えたくなるやん。


なんでそんなに大きい心もってるん?なんで怖い鬼と戦えるん?最初、見たときは頼りなさそうな、人の良いオッちゃんやったやん。


なのに大きい背中で私を庇ってくれて、大きい心で包み込んでくれて、私の命を何度、助けられたかわからへん。何度、心を救われたかわからへん。


ダンジョンを出て、阿部さんに抱きついてもうた。

あいつ以外の男の人に甘えたいって思てしまった。


だから、阿部さんの背中で、私はあいつが死んでから初めて、思いっきり涙を流した。


ずっと信じられへん気持ちと、やるせない怒りに包まれてた心が、阿部さんに全て治してもらった。


必ずこの恩は返さなアカン。


だから、待っててな。

阿部さんに会うために東京へ絶対行くから。

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