第52話 東京に帰りましょう

 休みとは、あっという間に過ぎるものですね。

 年末年始の大阪は、梅田さんとの思い出ばかりになってしまいました。


 久しぶりに会った両親へ孝行が足りていないと思った私は、夕食をご馳走することにしました。

 どうしても大阪に戻ってきたときには、いつも食べているお好み焼きを食べたかったのです。

 そのため、いつもの店へと連れて行ってもらうことにしました。


「母さん運転ありがとうございます!!!」

「ええよええよ。あんたら酒飲むんやろ。ここは車ないと不便やからね」


 昔から家族でお好み焼きと言えば、風の街です。


 ここのソースが甘くてとても美味しいのです。

 大阪に来る人は是非とも食べてほしいですね。


「豚玉と、ミックスモダン、それに焼きそばを」

「あんたよう食べるね。それなら食べ放題にした方が安いから、食べ飲み放題にしたって」

「かしこまりました」


 お好み焼きが三枚に焼きそば、鉄板のいかげそや、とん平焼きなどが私の家族の定番メニューです。


「ホンマによう食べるね」


 もちろん、私だけで食べるわけではありません。

 本日は家族四人、ミズモチさんも同行しております。


 お好み焼きを焼いては、切り分けて冷ましてからミズモチさんへ提供していきます。


「ミズモチさんお好み焼きですよ」


《ミズモチさんはプルプルしながら、ありがとうと言っています》


 なっ、なんと、念話さん。

 レベルアップの恩恵でミズモチさんがお礼を言ってくれるようになったのです。


「ミズモチさん、こういうときは頂きますですよ」


《ミズモチさんはプルプルしながら、頂きますと言っています》


「ふふ、ミズモチさんが挨拶とお礼を覚えてくれて、私も嬉しいです」

「ホンマに、ミズモチさんは可愛ええね」

「そやな。ミズモチさんがワシの膝の上に乗ってくれて嬉しかったわ。最初はおっかなびっくりやったけど。犬猫と変わらんな」


 念話をする時はプルプルしておられるので、両親にも何か言っていると伝わるようになりました。


 ミズモチさんも父さんのお膝を気に入ってよく乗っていました。

 ダンボールを持って来ていなかったので不安でしたが、父さんのお膝をダンボール代わりにしていましたね。


「それにしてもミズモチさんが来てくれたおかげか、あんたは明るくなったね」

「えっ?」

「そやな。昔、実家に帰ってきたときは疲れて寝てたもんな。大丈夫かって心配しとったけど……ええ顔になったわ」


 両親には、ずっと心配をかけていたんですね。

 こうして久しぶりに会うことで、改めて知ることができました。


「二人には心配ばかりかけていてすみません。でも、ミズモチさんが来てくれて……仕事の人間関係も良くなって、金銭的な圧迫もなくなりつつあります。あとは、ストレス発散も出来ているのです」

「ホンマにミズモチさん様々やね」

「そやな。ミズモチさんありがとうな。これからもうちの息子を頼みます」


《ミズモチさんはプルプルしながら、はいと言っています》


「ふふ、ミズモチさん。私からもよろしくお願いします」


《ミズモチさんはプルプルしながら、はいと言っています》


「二人とも……さぁお腹いっぱい食べて飲みましょう。明日には東京に帰るので、家族団欒の今日が最後ですからね。パァーと行きましょう」


 家族で過ごすって、本当に幸せなことだったんですね。

 今まで自分のことに精一杯で、そんな当たり前のことにも気づけていませんでした。


 四人で楽しい夕食を過ごすことが出来ました。


「忘れ物は無いか?」

「お土産持った?」


 両親が用意してくれた、抱えきれないほどの荷物と共に帰り支度を終えて車に積み込みました。


「新大阪まで送ったるからな」

「ありがとうございます」


 帰ってくるときは京都で降りましたが、両親が車で送ってくれるというので、新大阪から新幹線に乗ります。


「阿部さん!」


 私が新幹線の改札を通ったところで、梅田さんに呼び止められました。

 今から家を出ると言いましたが、まさか本当に見送りに来てくれるとは思いませんでした。


「梅田さん、来てくれたんですか?」

「当たり前やん。来るって言うたやろ。年末年始の短い間やったけど、ホンマにお世話になりました。必ず、このご恩は返すから、東京で待っててな」

「ええ、期待しないで待ってます」

「なんで期待してないねん!」

「そんなことしてもらわなくても、私もたくさんの思い出を頂きましたので」

「なんやそれ。はは、ホンマにありがとうな」


 改札越しに手を伸ばされ、私は梅田さんと握手をしました。


「こちらこそ良い思い出をありがとうございます!!!」

「うん。またね。阿部さん」

「はい。また、梅田さん」


 私は見送ってくれる人がいるという喜びを噛みしめて、梅田さんと離れていきました。


 新幹線の時刻が迫っていたので足早に改札を離れる私の後ろで、両親と梅田さんが話している声が聞こえてきました。

 なんだが知り会い同士が話しているって、自分のことを話していそうで、気恥ずかしくなりますね。


 ですが、何を話しているのか聞く前に、そろそろ新幹線の時間です。


「あとでメッセージをしておきましょう」


 両親にも、梅田さんにも、新幹線の中でメッセージを送りました。


「ミズモチさん、新幹線で食べる駅弁は柿の葉すしです」


《ミズモチさんはプルプルしながら、ありがとうと言っています》


「はい。それでは頂きましょうか」


《ミズモチさんはプルプルしながら、頂きますと言っています》


「はい。良く出来ました。大阪は色々と有りましたが、楽しかったですね。危険なことはあまりしたくはありませんが、体験できない冒険をしました。この年で新たなことへ挑戦するという凄い体験でした。こんなにも気持ちがリフレッシュされるのですね」


 休みは今まで寝て過ごすだけだった私にとって、どれも新鮮で楽しかったです。


「今年の年末も実家に一緒に帰りましょうね。ミズモチさん」


《ミズモチさんはプルプルしながら、はいと言っています》


「ふふ、ありがとうございます!!!」


 ミズモチさんと新幹線に乗っていると、すぐについてしまいます。


 東京は……やっぱり賑やかですね。


「さて、我が家に帰りましょうか」


《ミズモチさんはプルプルしながら、はいと言っています》


 家は、少しばかりひんやりとしていて、静けさに寂しさを感じてしまいます。


「それでもやっぱり家がいいですね」


《ミズモチさんはプルプルしながら、はいと言っています》


 ミズモチさんはさっそくダンボールスライムになってしまいました。私もコタツにみかん姿で、正月二日目が終わっていきます。

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