第35話 みかんにコタツ

『阿部さん。前回のお礼がしたいので、12月25日は空けておいてください』


そんなメッセージが届いたのは、矢場沢さんと二人きりの忘年会をした次の日でした。


そう言えば、本日は12月24日でしたね。


クリスマスイブ……私には関係ないと思っていました。

ですが、本日はミズモチさんとケーキを食べる予定です!!!事前に一番大きなホールケーキを予約して朝一で受け取って来ました。


今日は、湊さんも彼氏と過ごすのでしょうか?明日はオジさんに時間を取るとはいいんですかね?


それにしても、私に予定がないと思っていますね!!!


もちろん、ありませんよ。


『わかりました。何も予定がないので空けておきます』


空しいメッセージを送り返しました。


エアコンも付けていますが、古いアパートなので、スキマ風が入ってくるのでコタツが手放せません。

来週は今年最後の週になるので仕事の最終チェックをして、年末年始はミズモチさんを連れてお参りに行きたいですね。


あっ、そう言えば魔法も使わないまま時間だけが過ぎてしまいました。

どうしても仕事が忙しくなると時間がありませんね。


「ミズモチさんみかん食べますか?」


《ミズモチさんはプルプルしながら、はいと言っています》


やっぱりコタツにみかんは最強ですね。

私は冬になると、家では半纏を着る派ですよ。


「はい。剥けましたよ。えっ?皮も食べたいのですか?ミズモチさんはなんでも食べますね」


ダンボールで田舎から送ってもらったみかんも、すぐに無くなってしまいますね、。

ここ三年は帰れていなかったので、今年は田舎へ帰るのもありですかね?今年は一週間ほどは休みがもらえそうなので……


「ミズモチさんもコタツが好きですか?」


ミズモチさんは私の横で身体半分だけにコタツ布団を被って寝ておられます。

半分涼しく、半分温かく、ミズモチさんの好みはわかりませんが、一緒にコタツに入るのはほっこりしますね。


「今日は動くのが嫌なので、出前でも頼みましょうか?近くにカツ丼が美味しいお蕎麦屋さんがあるんですよ」


《ミズモチさんはプルプルしながら、はいと言っています》


「ふふ、ミズモチさんもお肉が好きですね。カツ丼はまだ食べたことがなかったですね。それでは頼みましょう」


クリスマスイブで込んでいるのか、一時間ほどでやってきたカツ丼を、ミズモチさんと堪能してコタツでヌクヌクとしている間に昼寝をしてしまいました。


休みの日はまったりですね。


最近は休みの日も冒険者ギルドに行っていたので、こうしてまったりするのは本当に幸せです。


固まってしまった身体を起こして見ると、窓の外はホワイトクリスマスが完成していました。


「今年も残り僅かですね。ミズモチさん」


《ミズモチさんはプルプルしながら、はいと言っています》


「ふふ、ミズモチさんにはいつも感謝しております。今年はたくさんの良い思い出をプレゼントして頂きましたからね」


私はミズモチさんを抱き上げて、プルプルして気持ちの良い身体を撫でさせて頂きました。

コタツに入っていたところが、いつもよりも暖かくていつもとは違う温もりを感じます。


「ふぅ~三日間ほどご近所ダンジョンにも行けていないので、そろそろミズモチさんの魔力補充にいかないといけませんね」


《ミズモチさんはプルプルしながら、はいと言っています


「昼寝をして、コタツから出れましたので、少しだけ冷たい空気で頭をシャキッとさせましょう」


《ミズモチさんはプルプルしながら、はいと言っています》


私は冒険者装備を着込んでスーパーカブさんへ乗り込みました。雪道は危ないのでスタッドレス仕様です。

ミズモチさんが入っているリュックがヒンヤリしているので、本日は暖かヒーターベストを着込んでいます。

背中でヒーターが付いて、私もミズモチさんも両方が暖かくなるように工夫しています。


「ご近所ダンジョンは最近、モンスターが出ないので、そろそろ危険かもしれませんね。水野さんはAクラスダンジョンだと言っていましたが、ボス魔物さんに合わなければ問題ありませんよね?」


《ミズモチさんはプルプルしながら、はいと言っています》


「ふふ、ホブゴブリンとの戦いは死闘でしたからね。出来れば、しばらくは戦いはお休みしたいです」


そんな私の願いを打ち砕くようにゴブリンが三体いました。察知さんにも反応があります。


「ふぅ~ミズモチさん」


《ミズモチさんはプルプルしながら、はいと言っています》


「わかっています。行きましょう」


剣と盾、杖、弓を持つゴブリンたち、武器を持った三匹。


私は大きく息を吸ってゆっくりと吐き出します。


「ミズモチさん。ウォーターアロー!」


私の指示によってミズモチさんの身体から水で出来た矢が吐き出されました。

弓を持つゴブリンの脳天に突き刺さり、一撃で倒してしまいました。


「ミズモチさん凄いです!」


《ミズモチさんはプルプルしながら、はいと言っています》


私たちに気付いたゴブリン達が「ギギギギ!!!」と叫び声を上げて、剣と盾を持ったゴブリンが近づいてきます。木で出来た杖を持つゴブリンが何かしようとしています。


「あれは!魔法?ゴブリンが魔法を使うんですか?!」


火の玉が浮かび上がり、剣を持って襲ってきたゴブリンの後ろから魔法が放たれました。


「ミズモチさん!ウォーターボール!」


ゴブリンが放った火の玉と、ミズモチさんの水の玉が、ぶつかり合って水蒸気になりました。


「ビビりましたね!!!フック」


目の前のゴブリンの足首にフックで杖を引っかけて転がします。レベルが上がったお陰なのか、私の動きもスムーズな気がします。


「ダウン!」


私のダウンをゴブリンが盾で防いで立ち上がります。


「やりますね!ならば、私も魔法を使わせてもらうとします。ミズモチさん。奥のゴブリンをお願いします」


《ミズモチさんはプルプルしながら、はいと言っています》


「ふぅ~あなたは新たな力を手に入れた私に負けるのです!ライトアロー!!!」


私が魔法を唱えると……私の額が光り出して、頭から光の矢がゴブリンに飛んでいきました!!!


「なぜに額!!!」


私の額から発せられた光の矢はゴブリンの額に突き刺さり倒すことが出来ました。


ミズモチさんも魔法を使うゴブリンを倒してくれたので、魔石と装備だけが残されました。


「このダンジョンに出てくるゴブリンの装備は、全てドロップ品として残りますね」


初めての魔法の衝撃のあまり……ドロップ品が素直に喜べませんでした。



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