第27話 ゴブリンの住処 3

湊さんたちと待ち合わせをした場所の近くに、スーパーカブさんを停車させました。

ここから歩いて待ち合わせ場所に行くのですが、本日は他の人と一緒に冒険ができるので、少しばかりの緊張とワクワクしております。


私、ミズモチさん以外と冒険したことありませんから!それに今まで考えないようにしていましたが、私……コミュ障なんです。


矢場沢さんは向こうから話しかけてくれるので、なんとか話せています。

水野さんがお仕事として話してくれることがわかっているので、こちらから話しかけることが出来ます。

湊さんはメールか、向こうから挨拶してくれるので話が出来ます。


ですが、私の方から話しかけるって本当に苦手で、相手がお仕事だから話してくれると思わないと、こちらから話しかけるのはハードル高くありませんか?私、苦手です。ですが、本日は私が年上ですからね。気合いを入れなければ!


話すきっかけになればと思って、本日はお菓子を買ってきました。チョコに、ポテチに、ガムです。

ミズモチさんにもおやつとして、ランチパックを全種類を持ってきました。といっても、11種類でリンゴカスタードが私は気になりますね。


「あっ、阿部さんこっちです」


どうやら待ち合わせ場所に辿りついてしまったようです。私、スキンヘッドの40歳サラリーマンですが、緊張しております。


「お待たせしました」

「全然待ってないですよ」

「おい、シズカ。こんなオッサンと一緒に行くのかよ」


あのときは気絶していたので、助けられた意識が薄い高良勇気君。

冒険者ギルドで会えば、遠巻きに会釈はしてくれるのですが、こうして話をするのは初めてです。

湊さんが少しばかり調子に乗りやすいと言っていたので、自分の力に自信があるんでしょう。若いって、いいですね。


「ユウ。阿部さんは、前に助けてくれたことがある人だよ」


そう言って私を擁護してくれたのは、湊さんではなく、もう一人の女の子である鴻上冴さんだ。

普段は強気な印象を受けていたが、私に恩義を感じてくれているようで、フォローしてくれました。


「サエ、お前も言ってたじゃないか。俺たちだけでも大丈夫なのにって」

「そっ、それは二人のときに」


うん、分かりますよ鴻上さん。彼の言うことに話を合わせてあげたんですよね。

申し訳なさそうな顔をしなくても大丈夫ですよ。


「もう、ユウ君。阿部さんは私が頼んできてもらったんだよ。いちいち突っかからないで!」

「シズカ……だけど、別に三人でよくね?」

「そう言って私たちはゴブリンの住処で稼げてるの?」

「うっ?」

「阿部さんはソロで……ミズモチさんと二人だけど。ちゃんと私たちよりも稼げている人なんだよ。学ばせてもらえることは学ばないとダメでしょ!」


おお!湊さんが強気ですね。

もっとおっとりとした人かと思っていましたが、しっかりしていますね。


「ちっ、わかったよ。だけど、同行者だからな。俺たちの邪魔だけはするなよ」


まぁこういうこともあり、同行者にしていてよかったですね。いくら湊さんが良い人でも、歳の離れた私を迎え入れることは仲間の子たちには難しいと思っていましたからね。


「もう、すみません。阿部さん。今日までに散々伝えたんですけど、ユウ君のバカ」

「いえいえ、若い男の子はそういうものですよ。気にしないでください」

「大人!」


何故か湊さんが口を押さえて感動してくれました。


「まぁ、今日は同行者で、皆さんの戦いを見させて頂きますので」

「はい。よろしくお願いします」


湊さんの後ろで、高良君に見えないように鴻上さんも頭を下げてくれた。


うん。女子たちは良い子ですね。


「ほら、いくぞ!」


高良君が先行して歩き出しました。

私はゴブリンの住処に入ると、察知さんがゴブリンの位置を教えてくれます。


右に3、左に1、中央に8


ふむ。彼らの実力を見るためにはまずは1かな?


「それでは左に行きましょうか?」


私が発言をすると、高良君が不機嫌そうにこちらを睨んできました。


「はぁぁ!!なんで左なんだよ。男なら中央だろ?真っ直ぐいくぞ」


高良君が歩き出そうとしましたが、湊さんが止めました。


「あの、阿部さん。どうして左なんですか?」


湊さんに説明を求められました。

ふむ、スキルのことを話していいのかわかりませんが、同じ冒険者なのでそこは理解してもらえますかね?


「私にはゴブリンのいる数がだいたいわかります」

「はっ?」

「えっ?」


私の説明に高良君と湊さんが同じように驚いた。


「ウソつくんじゃねぇよ!」

「ウソなんてついていません。これはスキルです。モンスターとのだいたいの位置と数がわかるんです。ですから、左は1匹。右は3匹。中央を歩いて頂上へ向かえば8匹のゴブリンと遭遇しますので、左に行って三人の実力を見せてもらおうと思いました」


私の説明を聞いて高良君は唖然として、湊さんは満足そうな顔をする。


「スゴッ!」


一番最初に言葉を発したのは、鴻上さんでした。


「そっ、そんなのズルいだろ!」

「ズルくはありませんよ。皆さんもレベルが上がったときに何かしらスキルはゲットしたでしょ?」


それぞれ思い当たることがあったのか、女子二人が頷いてくれました。


「それと同じですよ」

「じゃあ、オッサンは戦う力はねぇのかよ」

「そうですね。私自身はそれほど強くありません」

「はっ、なんだよそれ。冒険者のくせに」

「私には戦う力はそれほどありませんが、私にはミズモチさんがいるので」


《ミズモチさんはプルプルしながら、あなたへ話しかけています》


ミズモチさんが私の前に立って「まかせろ」と言ってくれています。


「けっ、魔物頼りかよ。情けねぇ」


全てが気に入らないと言った感じの高良君……私にも反抗期がありましたね。


触れるものみな傷つけた~ですね……ふふ、懐かしいですね。


「ユウ君いい加減にして、阿部さんが左って言ってくれた理由は聞いたでしょ。この間みたいに危険なことになっても嫌だよ」

「わかったよ」


湊さんに叱られて左に行って1匹のゴブリンを危なげなく倒しました。

それからは私の言うことを聞いてくれるようになり、3人で30匹のゴブリンを倒すことができました。

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