第6話 宰相ローランドの「契約」
「……直接陛下にお聞きしましょう」
「それが宜しいかと」
アイリーンとレンブラントがシュマイゼルに風のように連れさられることに遅れて1時間ほど、宰相であるローランドの耳にその悲報は飛び込んできた。それは明日からの建国祭の支度に少し城を離れた隙に起こったとんでもない事件である。
むしろこの切れ者の宰相がいない時を見計らって、エルファードとネリーニが仕掛けたのかもしれない。それでもローランドはこの事件の真偽を知らなければならない。第三者の意見や推論などを挟まない、本人からの真実の情報を知る必要があるのだ。ローランドが面会を申し出ると、国王のエルファードは上機嫌でそれに応じた。
「陛下、ご確認したいことがございます」
「宰相か、お前はアイリーンと懇意にしておったが残念だったな。あの女はもう王妃でもなんでもない! この国から追放してやったぞ!」
意気揚々、鼻高々。何故、正妃に離婚を突き付ける事をこのように慶事の如く言うのか。宰相ローランドはまず意味が分からなかったが、彼は確かめねばならない。
「それはまことでございますか? エルファード陛下」
「勿論だ、あのうるさい女がいなくなってこれからは私自らが国の指揮を取ろう!」
この言葉を聞いて城に仕える者たちはゾッと背筋が寒くなったが、更に宰相ローランドはいつもの冷静な表情のまま、凶事に凶事の輪をかけた。
「ならば私も宰相の地位を辞させていただきます。それでは」
その言葉にエルファードも慌てるしかない。この宰相ローランドをやめさせる気はエルファードには少しもない。むしろ王妃と並んで切れ者の名高いローランドがいなくなっては国の政治は回らないのである。それほどこの国での宰相の役割は重くなっていたのだ。
「な、なにを言っている! お前はやめることはないではないか!」
慌てて引き留めるも、ローランドの顔は冷たく厳しい。エルファードの言葉はローランドに届く前にむなしく砕け散っている気さえする。いつもの冷静沈着な宰相の姿のまま、彼は淡々と語り出す。
「いえ、私の契約はもとよりアイリーン嬢が王妃でいるならば、その補佐として宰相を務めさせていただく、という事です。これは前陛下とお約束した事。契約書もここに。アイリーン嬢が王妃でなければ私も宰相の座に座るつもりはございません」
きっぱり、はっきり。ローランドは言い切った。
「な、な、な……そんなの、私は、知らない……!」
「いいえ、前陛下が亡くなられ、引き継ぎを成された時にこの書類も提出させていただきました。ご覧ください、エルファード陛下の署名も入っております」
確かにその書類にはローランドが宰相を引き受ける条件としてアイリーンが王の正妃であることが記されているし、更に前国王とエルファードの署名もしっかりなされていた。言い逃れしようもない正しい契約書類であった。
「では、これにて御前失礼いたします。これより部屋を片付け一両日中には出て行きます。もう会うこともないでしょう」
慇懃に礼をするローランドに慌ててエルファードは声をかける。
「ま、待て! ローランド! お前はこれからも宰相として私を助けてくれ、これは命令だ!」
「お断り致します」
「なっ!!」
「元々私は宰相職などつきたくはなかった。しかし、我が姪アイリーンがあまりに哀れで手を差し伸べただけです。アイリーンがいない今、何の魅力もこの職にはございません」
「な、な、な……!」
壊れたおもちゃのように同じ音を繰り返すエルファードを振り返ることなく、ローランドはスタスタと歩き去る。まさかの出来事に隣にいたネリーニも驚いて言葉を失うしかなかった。ネリーニの父親であるダルク公爵も唖然とするしかない状況になったのである。彼らはこの契約書の存在をを全く知らなかったのだ。
「だ、誰か、誰か! 宰相を、ローランドを止めろ!!」
エルファードが必死で声を荒げると、騎士団長が現れ、膝まづいた。
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