最終章 9-2
「うぅ、せっかく一生懸命用意してきたのに……」
彼方の
全く、相変わらず間が抜けている子だ。まあ、今回は私にも責任があるので、そんな小言は仕舞っておこう。
最後の
私は彼女を置き去りにすることに徹せなかった。心の何処かで一緒にいてほしいと願っていたのだろう。その迷いが彼女に追い付く時間を与え、あの真っ直ぐな好意にすっかり
それにしても、クラウディがあんな大金を持たせようとしたことは意外だった。まさかあの深謀遠慮な当主様に限って、ただの親馬鹿ということは考え難い。
ひょっとして、本当は全て気が付いていたのではないか。やはり、我が子を想う母親の気持ちまでは、如何なる魔法であろうとも誤魔化すことは叶わなかったのだ。
私たちは王領を越えてキノ領へと足を踏み入れた。
キノ領では思わぬ足止めを食らうも、
ハナラカシア王国に別れを告げ、シュウシンカン帝国との国境を跨いだ私たちを待っていたのは、あの女であった。
サナリエル=トク=シュウシンカン、いけ好かない女である。別に彼女にちょっかいを出すことに腹を立てている訳ではない。いや、それも多分にあるのだが、あの女からは私と似た気配を感じていた。
かつてホーリーデイ家に生まれた最高峰の魔術師のように、カイン朝からシュウシンカン朝に遷移した火の
何故か胸騒ぎがした。何かを忘れている、何かを見落としている、そんな嫌な予感だ。それは帝都カンヨウが近付くに連れて顕著となり、そして皇帝と邂逅した瞬間、確信へと変わった。
お父様との記憶が、知覚される魔力が、そして何よりもこの身に宿るマイナがそれを肯定していた。この五百年の間、最も近く、最も遠くに感じていた存在。私が封じていたはずの……火の天人アグニであった。
激しく狼狽する私に対し、
天人たちはもう随分と前から復活することが出来ていた。たとえオノゴロに満ちるマイナを排しても、世界中にあるマイナ溜まりには高純度のマイナが蓄積されていたからだ。
しかし、ではなぜ今頃になって表舞台に現れたのか。少なくとも
もしや、天人たちは待っていたのか。彼女が成人し、空のアーカーシャとして顕現するのを……かつての仇敵に復讐する機会を虎視眈々と狙っていたというのか。
私は彼女を守りたい、守らなくてはならない。しかし、魔法の行使を意識した瞬間、私は天人に絶対に逆らえないことを認識してしまった。それは存在としての強度、魔法の力量差というだけではない。
天人と地姫の関係性、自らに取り込んだ高純度のマイナは、詰まるところは天人そのものだ。
私の力は天人からの
そして、アグニは私に要求した。これから起こることについて、一切の干渉をせずに事の成り行きに任せよと。もはや私には従うより他なかった。
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