最終章 3-3
天人アプとの
マイナ溜まりに面したこの地下では、マイナの枯渇の心配がなく、魔力の入出力の調整さえ慣れてしまえば、ほぼ無尽蔵に魔法の行使が出来るからだ。
一方で、私の身体はお姉ちゃんと比べて発育に遅れが目立ち、当初は
お姉ちゃんはその原因が過酷な生活環境にあると考えたようで、そろそろ地上へと戻ることを提案した。私はお姉ちゃんと一緒ならば何処でも構わなかったので、二つ返事でそれを快諾した。
そんな私たちに向けて、アプは自らを連れて行くように求めた。
また、私たちが生きていることを知られたら、教皇がどんな行動に出るかも分からなかった。逃亡した生贄として再び幽閉されるか、最悪の場合は生ける屍として討伐されてしまう危険すらある。
しかし、アプは水のマイナに宿る集合意識である。祭壇下部にあるマイナ溜まりからの噴出口を離れては、私たちとの意思疎通は出来ないはずではないか。
そのような疑問を呈した私たちに対し、アプは驚くべき手段を提示した。それは私たちのいずれかが高純度の水のマイナを吸収し、その身に天人を宿すというものであった。
天人の器となること、それこそが地姫の本来の使命なのだという。天人を真に顕現させるため、高純度のマイナにより人としての肉体を変性させ、受肉に耐え得る
私が器となればお姉ちゃんには会えなくなるし、お姉ちゃんが器となれば私は会うことが出来ないのだ。どちらにしても、お姉ちゃんとは一緒にいられなくなってしまう。
私たちはその提案を拒否したが、アプは尚も執拗に食い下がってきた。あくまでも肉体の主導権は私たちにあり、二人が聖合国で暮らすための方策であるのだと。
私はそれでも嫌がったが、お姉ちゃんはまた異なる考えのようであった。私の発育が遅れているのは、陽光も射さぬ地下生活が原因なのかも知れない。また、一生をここで過ごす訳にはいかないことも確かであった。
そして、最終的にお姉ちゃんはアプの提案を受け入れた。本当は私がそうするべきだった。私はあのときお姉ちゃんに命を救われたのだから、今度は私がお姉ちゃんのために犠牲になるべきなのだ。
しかし、私たちに生じていた差は身体の成長だけでなく、魔法の力量にも及んでいた。高純度のマイナの取り込みには極度の危険が伴い、魔法の素養が高いほど成功の確率が上がるのだという。
お姉ちゃんにもしものことがあったら私は生きていけない。それなのに、お姉ちゃんの身代わりに成れもしない。私はただ泣き
そんな私に向けて、お姉ちゃんは笑顔で大丈夫と告げた。それは戯曲に謡われる英雄よりも勇ましくて、幻想に彩られた未踏の大自然よりも美しくて、五百年の時が過ぎた現在でも、それ以上のものと出会うことはなかった。
そして、お姉ちゃんは水の地姫となった。お姉ちゃんは高純度のマイナの浸潤にも耐え切ったのだ。私は嬉しさのあまり溢れ出る涙を拭うことも忘れ、弾けるようにしてお姉ちゃんに飛び付いた。そんな私をお姉ちゃんは優しく抱き留めてくれた。
地上に出た私たちを目撃した教皇の表情は、今でも忘れられない。あれは捧げた贄の報復に怯える恐怖でもなく、信仰に背く魔性に遭遇した狼狽でもなく、等しく神の奇跡に立ち会うことの出来た歓喜であった。
教皇は私たちに向けて祝福の
こうして、パノティア大陸に久しく途絶えていた地姫が復活し、私たちは深海の
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