第二章 3-4
魔法の行使において、マイナの活性状態、そして魔力の出力を調整する技術として、主に次の四つの形式が確立されている。
言霊により精神を恍惚とさせ、マイナとの同調を促す『詠唱』
神秘物や魔道具などを依代とし、術者の技量を補正する『触媒』
恒常的に戒律を遵守することで、特定の恩恵を享受する『誓約』
祭壇や生贄などを要し、また複数の術者による
基本的には困難性が高いほど効果もまた大きいとされているが、殆どの魔法で用いられているのは詠唱である。しかし、低位の魔法――絶対的な高低ではなく術者の力量と比較して――を行使する場合は、詠唱すらも省略することが可能となる。
本来は自らに制限を設ける代わりに魔力を得る技術であるが、
しかし、そんな無駄の極みともされる技術にも用途があった。それは他者を隷属させ、強制的に従わせることである。現在はあまりにも非人道的であるとの
「勘違いをせぬでほしい。
非難の眼差しを向ける彼女に対し、皇女は弁解するように言葉を続けた。チョウセンは
そして、ミストリアの
そのまま一族もろとも粛清されるはずであったが、曲がりなりにも侍女として仕えていたこともあり、特別に刑を猶予して助命することにした。
しかし、
「ニー様の気に障るならすぐにでも処刑しよう。しかし、それよりも良い使い
皇女の浮かべた冷笑に彼女の背筋が凍る。それはどこまでも清々しく、白々しく、吐き気がした。皇女は全てを
空属性は魔法やマイナを消すだけではない。人や魔物の
ああ、なんと合理的な提案だろうか。
その力が発動した最初にして唯一の実例、それはチョウセンだ。加減を間違えれば命さえも奪いかねないが、そうなったとしても心を傷めない
この力を使い
これならきっと、ミストリアの隣に立てる。強くなった自分を見てくれる。よく頑張ったねと褒めてもらえる。また一緒に旅をすることが出来る。それは彼女が何よりも望んだことなのだ。
「……お断りします」
時に、口は意思に反して
「いまさら情けを掛けて何となる。ニー様は此奴が憎くはないのか」
憎んでないはずがない。ただ、嫌だったのだ。たとえ自らの道を切り拓くためであろうとも、それが大切な人へと続く希望であろうとも、そのために……いや、だからこそ、一片の曇りもあってはならないのだ。
彼女の頑として譲らぬ意思を感じ取ったのか、皇女が嘆息する。おそらく皇女には分かっていたのだ。空属性を一段階進めるためには生贄が必要となる。しかし、きっと彼女がそれを許容しないということを……。
何故、老魔術師が空属性を研究していたのかは分からない。何故、皇女が彼女と引き合わせたのかも分からない。それでも皇女がこうなることを見据えて、尚も手を打っていたことだけは、その後すぐに分かった。
「では、私はもう用済みですね」
今まで沈黙を守っていたチョウセンが初めて口を開いた。そして、何か鈍く光るものを取り出して喉へと充てがう。それは彼女の頬に傷を付けた、あの短剣であった。
「やめてっ!」
彼女は咄嗟に静止するが、短剣はチョウセンの柔肌へと食い込んでいく。しかし、
彼女は堪らず皇女を睨んだ。目前で蹂躙される命に対し、もはや
「トウタクの施した
皇女にとって、罪人であるチョウセンの存在意義など実験台でしかないのだろう。それを言葉で否定することは簡単だ。しかし、それだけの大罪を少女は背負ってしまっているのだ。
「
それ以上の説明は不要であった。全ては皇女の掌の上のことなのだ。そして、それを咎める資格も拒む権利も自分にはない。
ここまでお膳立てがされて初めて、自分は迷うことなく空の力と向き合うことが出来るのだ。しかし、それでもひとつだけ、
「私がゲッシュを解くことが出来たら、チョウセンを自由にしてあげてください」
それは帝国の法を歪める無理難題であったが、やはりいざ口にしてみると、これもまた予定調和に思えてきた。頷きを返す皇女の満足そうな微笑が、何よりもそれを肯定しているようであった。
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