第8話 夜這い

 そして、その日の夜……


 俺は、フィアナの部屋の前で正座していた。


(くそぉぉぉ!!!どうしてこうなったんだよ!)





 時は10分前に遡る。


 夜も遅く、みんなが寝静まっているであろう時間帯に、俺は黒いフードをかぶってコソコソと移動していた。


(よし!今のところ誰も気づいてないぞ。やっぱり、光属性の能力って便利だぜ)


 俺は勇者の証である光属性の能力の一つ、光速移動を惜しみなく使う。


(ふぅ、目標地点まであと10メートルまで来たか。この距離なら俺がダッシュすれば1秒で辿り着ける)


 俺は、目標地点までダッシュし、一瞬で目標地点に到達する。


 そして、部屋の扉を開けようとすると…


(むっ!後方から殺気だ!)


 そう思い、振り返ると、切れ味抜群の剣が大量に飛んできていた。


(ちょっ!やべぇ!当たったら絶対に痛いやつ!)


 俺はそのことを悟る。


 そのため…


(レスティ真明流外伝、初の型〈織〉)


 俺はレスティ真明流を発動する。


 この技は、五感を研ぎ澄ませることにより、自分を中心とした半径数メートル内の情報を全て正確に得ることができる。


 俺はその情報をもとに、一瞬で回避ルートを見つけ、全力で回避する。


 剣を回避することはできたが…


(やべぇ!床に罠がある!)


 回避ルートが限定されており、踏まざるを得ない位置に罠があった。


 そのため、俺は転がるように罠を回避する。


 転がった先には…


「無様ね、シオン」


 なぜかルナがいた。


「よ、よう。なんか、廊下を歩いてたら、大量の剣が飛んできてさ。危うく死ぬところだったぜ」


「へぇ、アタシの目にはフィアナの部屋に入ろうとしてたように見えたけど?」


「そ、それは気のせいだな」


 全力で気のせいにする。


「そう、ちなみに、メリッサも見てるから」


「!?」


 その言葉通り、メリッサも現れる。


「ご、ご主人様がフィアナ様のお部屋に入ろうとしていたところは、バッチリ見ました」


「oh……」


 メリッサの好感度を上げなければならないのに、好感度が下がっていく。


「で、何か言い残したことはある?」


「命だけは勘弁してください」


 俺は全力で命乞いをした。


 ちなみに屋敷は、ルナが補強していたことにより、傷つくことはなかった。




 フィアナの部屋の前で正座してる俺を、冷たい目で見下すルナ。


「ねぇ、何か言い残したことはある?」


「違うんだ!これには深い理由が!」


「へぇ、死んだ後に聞いてあげる」


「せめて死ぬ前に聞いて!」


 全く聞く耳を持ってくれない。


 すると…


「あらあら、何やら騒がしいと思ったら、また喧嘩をしてるのですか?」


 フィアナが部屋から出てきた。


 下着姿で。


「シオン!見ちゃダメよ!」


「痛たたたっ!首はそんな方向に曲がらないから!」


(折れる!折れるから!)


「ルナちゃん!シオンくんに攻撃したらダメです!」


「誰のせいだと思ってんのよ!」


(うん、俺も言いたい)


 しかし、当の本人は理解しておらず…


「そろそろシオンくんが可哀想です。ルナちゃん、放してあげてください」


「いや、フィアナが下着姿だから、シオンに見られないようにと……」


「…………まぁ!」


(今気づくんかい!)


 ルナの言葉を聞いて慌てて部屋に戻り上着を羽織る。


 そして…


「なぜ、このようなことになってるのですか?」


 フィアナが理由を聞いてくる。


「それはシオンがフィアナの部屋に忍び込もうとしてたからよ!」


「えっ!シオンくん、私の部屋に忍び込もうとしてたのですか!?」


「そ、そうだな。あ!でも、夜這いをしに来たわけじゃないんだ!ただ、フィアナはこの屋敷に来たばかりだから、心配になっただけで……」


「アタシがこの屋敷に住むようになった日、アタシの部屋にシオンは来なかったけど?待ってたのに」


「わ、私もですね…。待ってましたが……」


「………………」


(いや、君たちのところに夜這い仕掛けに行っても成功しないじゃん!)


「シオンくんは私のことを心配してくれたのですね!」


 そう言ってフィアナが正座している俺に、正面から抱きつく。


「「「!?」」」


 俺たち3人は突然のフィアナの行動に驚く。


「私、心配されてとても嬉しいです!なので、心配してくれたお礼です!お姉ちゃんが抱きしめてあげます!」


(うぉぉ!正座してるから俺の顔にフィアナの巨乳がぁぁぁ!!!)


「ちょっ!何してるの!フィアナ!」


 ルナが俺とフィアナを引き剥がし、俺の至福の時間が終了する。


「シオンくんに感謝してるだけです!お姉ちゃんなので抱きしめてあげようかと……」


「そこまでしなくていいの!」


(さっきからルナの奴、怒ってばっかりだなぁ)


 俺は呑気にそんなことを思っていると…


「シオンくん!勇者パーティーの時は聖女として、魔王を倒す使命があったので、シオンくんにこんなことはできませんでしたが、今は魔王も倒し終わったので、私は聖女ではなく、シオンくんのお姉ちゃんです!存分に甘えてくださいね!」


(こ、これは「明日こそ夜這い待ってるからね!」ってことなのか!?)


 そんなことを思った。




 ちなみに、翌日もフィアナの部屋の前で正座することとなりました。

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