第78話 寡兵なれども
* * *
(あっちの二機は、出来れば墜とさない方が後々面倒がねえよなあ……)
レダは眉をしかめながら、ネオンドールを白骨森林の梢すれすれに飛翔させた。あとから飛来したCC-37の三機と、最初からそこにいたランベルト二機は、明らかに所属が違うらしい。それはそれぞれのカラーリングにも反映されていると思われた。
ゴルトバッハの『クラウドバスター』は暗いブルーグレ―、僚機のモルワイデは黒。対して、ランベルト二機には明るいグレーに薄いサーモンピンクの差し色が見て取れる。
彼らはしきりにレダとゴルトバッハたちとの間に割り込み、儀仗と護衛を任務とするにふさわしく携行していた盾をかざして、ネオンドールの射線を塞ぎにかかった。
(攻めに出ると不利になるな、こりゃ……)
初歩的なセオリーに立ち返る。数的に優位な相手を切り崩すには――機動力に長じたやつを釣り出せばいいのだ。
「よし、こっちに来いよゴルトバッハ……! お前のターゲットはあたしだろ?」
通信は切れていて、レダのつぶやきは相手に届かない。だが、
「よしおっさん、ランベルト二機は剥がれた……合流させずに引っ張り回してやってくれ。できれば、武器を狙って手札をつぶしてくれると最高だ」
〈簡単に言うなよ! こっちは初陣なんだぞ……!〉
「何言ってんだ。おっさんの初陣はあの時のランベルトだし、半壊したセンチネルで倒せたじゃねーか。
〈お前さん、結構サドだよなぁ……うおっと!!〉
サルワタリが何かに反応して、通信が途切れる。だが、被撃墜などを示すアラートは出ていない。
「どうした?」
〈いや、ゴルトバッハがこっちへ撃ってきやがったんでな……こいつの射線予測を見てなかったらヤバかった〉
「レーザーだっけな。気をつけてくれ、喰らったらさすがにただじゃ済ま――」
言いかけたレダに、サルワタリが食い気味に答えた。
「いや、レーザーじゃなかった! 直線じゃねえ、延伸した放物線だ……おぅ、なんかおかしいな?」
そういえば、とレダも首を傾げた。今交戦している他の二機、モルワイデの方も、言われてみれば実弾兵器を使っているようだ。多分ネオンドールと同等の、40mm航空機関砲。
撃った後の再発射にやや時間がかかるレーザーと比べると、攻撃に切れ目が少なく感じられた。
「弾数で押す気か……確かに厄介だな」
いずれにしてもやることは同じ。釣り出して分断し、局地的一対一を作り出す。各個撃破に持っていければこちらの勝ちだ。
* * *
俺は森の中を走り、上空を舞う四機の攻防を追いかける。ネオンドールとクラウドバスター、それにモルワイデ二機。
隙を突けと言うかと思えば、ランベルト二機を押さえろと、レダの指示がやや取っ散らかっているがまあ仕方ない。俺の負担がやや重いくらいには頑張らないと、この数の不均衡は覆せないからだ。
それにしてもだ――
(やつら、なぜ今回はレーザーをやめて……?)
モルワイデとクラウドバスターが使用する、あの可視光が出るレーザーライフルは、まだスペックが傭兵ユニオンのパーツ取り寄せカタログにも載っていない。だから残弾や使用するエネルギー量などは不明なのだが。
「弾数とリロードを考慮したか」
レダが通信で独りごちた内容からするとそうなる。レーザーは当たれば確かに必殺だが――
移動ルートをかすめた俺に、モルワイデの一機が砲口を向けた。バッタめいた蹴りで地面を叩き、進路を数メートルずらす。もと居た地点への着弾が、樹皮を失って枯れた森の木々を細かく粉砕した。
クラウドバスターの動きが一瞬目に入る。空中を飛翔する航空機の形態から数秒で、折りたたんだ各部を展開して人型へ。それがこっちへ降りてくる。
「勘弁しろよなあ!」
右腕のカービンを着地予想ポイントへばらまき、さらに左腕のプラズマソードを起動する。弾幕をよけて突っ込んで来たらその進路にこれを置くつもりで――が、クラウドバスターはその予測から外れた。
降りかけて再び航空機形態に戻り、加速して上昇をかけたのだ。
「レダから聞いた動きと、違うじゃねえか……!」
すかされて体勢を崩したところに、後続のモルワイデからさらに攻撃。俺は辛うじて肩のシールドを前面へ展開し、直撃を避けた。
(今のはヤバかった……だが、どうやら敵の目論見は分かったぜ)
レーザーは確かに必殺だが、乱戦なら敵に休む間を与え攻めを連続できる実弾の方が、相手を長時間圧迫できる。それに加えて――エネルギー食いのレーザーを廃することで、奴は変形に要するエネルギーのプールをより多く確保しているのだ。
「俺たちを疲弊させてから、懐に入って討ち取ろうって訳か……」
意図が分かっても、対処できるかはまた別問題。
志はズレて勘違い、プライドが先に立って大局を見失う――ゴルトバッハはそういういっそ滑稽で哀れな小人物だが、困ったことに戦闘能力には磨きをかけてきているらしい。厄介なものだ。
「どうやってケリをつけてやったもんか、ねえ!」
シールドで防いだ砲撃に続いて、モルワイデがプラズマソードで追い討ちを試みる。だが、こいつにはそのあとに緊急離脱を行う能力は無かったのだ。
スカルハウンド脚部のジャンプ力を生かし、俺は後ろへ飛び下がりざま、モルワイデの頭部に連射を叩きこんだ。
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