第64話 放棄施設に、お邪魔します!
俺たちは島全体を覆う岩山の、いくらかマシな平坦部へと降下した。タッチ・アンド・ゴーと便宜的にそういったが、実際にはノータッチ・アンド・ゴーだった。
このでこぼこした場所にうっかり着陸脚を接触させたら、タンスの角に小指をぶつけた人めいて、輸送機はその場ででんぐり返しを撃つことになるだろう。
地表すれすれ、ほんの数メートルの高度を飛び過ぎながら、開いたハッチから二機のドウジを放出する――マッケイ飛行士の腕はちょっとどうかしているレベルだということが実感できた。
俺たちの機体の選択もどんぴしゃり。これがタタラや今は亡きケイビシだったら、着地の衝撃をホバーノズルで消すことはできなかっただろう。脚部から圧搾空気を噴出、各部の姿勢制御モーターやら何やらでバランスを取りつつ、俺とショウはサンピエール島に降り立った。
〈サルワタリさん、ショウさん。どうぞ
マッケイからの最後の通信。帰りはイリディセント社が民間船に擬装したコルベット艦を、近海まで回してくれることになっている。
ランデブーの日時は48時間後だ、それ以上になりそうなときは切り上げるしかない。
施設への侵入口と目される物資搬入口は、少し離れた場所にある旧市街地のはずれにある――こんな小島だが、ここはかつてタラ漁で栄えた漁業の拠点で、古い地図を参照した限りでは大きな港や空港もあった。
〈空港に降りられれば良かったんだが、あの様子を見るとそいつは望めそうにもなかったな〉
ショウがドウジの頭部カメラで見た映像をこっちにも
「あそこが使っていないとなると、GEOGRAAFの連中はどうやってこの島に出入りしてたんだ……? 見た限りヘリポート一つないが……やはり潜水艦か? それとも……?」
〈なあサルワタリ、市長さんとのブリーフィングでも出てきたが、その『
「船だよ、水の中を――」
言いかけて気付く。こいつは、そもそも船自体を知らんのだ。
「えっと、海の中に潜って深いところに隠れて動き回れる、でっけぇ鉄の乗り物だよ……」
〈よし、分かった……説明してもらっても分からん、ってことがな。とにかく、その『さぶまりん』とか何か他の方法で連中がここと本土の間を行き来してたかも、ってことなんだな?〉
エイブラム・ショウは飲み込みが早いし、不要な思考はすっぱり切り捨てられる男らしい。当然ながら俺なんかよりは、よっぽどこういう仕事に向いていると思えた。
だが、彼は自分のことをあくまでも二の次にして、俺により上の優先順位をつけようとする様子だった
〈俺には学が無い。中に入っても細かい調べものや、コンピューターをだまくらかして隠し物をちょろまかすようなことは、まるでダメだ。あんたに任せるぞ、サルワタリ。こっちはボディガードに徹させてもらう……じゃ、行こうか〉
「異議なし。
以前にリグの採用コンペで経験した、ドウジ特有のホバーを利用した長ストライド走行で市街地の廃墟を突っ切る。かつて港だった辺りに見えるのは、辛うじて原形をとどめた赤錆の塊のような漁船の残骸だ。
「ほらショウ、あれが船だよ。もう動かない、直しようもないスクラップだが……昔は俺たちみたいな煮締まったおっさんたちが、あれに乗って海へ魚を獲りに出てたんだ」
〈あれで、なあ……〉
不思議そうに返すショウにどこかほほえましさを感じつつ、俺は彼と周辺の情報を確認し合いながら、問題の搬入口へ向かった。
熱暗視映像に切り替えると、搬入口周辺の何か所かから、まだ微妙な排熱が見て取れる――おそらくは電源の一部か、何かの機器が生きているのだ。
「放棄してこれか……」
得体の知れなさに怖気が走るが、とにかく調べてみない事には何も得られない。俺たちは搬入口周りの壁や床を探って、どうやらゲートの開閉スイッチらしきものを見つけ出した。極力遮蔽を取りながら、スイッチをドウジの手で操作する。
(リグの手で開閉が可能だ、ということは)
ここにはリグや何らかのメカが、最近まで出入りしていたということになる。静まり返った施設の中に踏み込むと、ゲートから先はかなり大きな吹き抜けになっていて、その一隅にリグが使用できるサイズの垂直リフトがあった。
「よし、ここは一つ、『
〈
「なんのなんの。ここに何があろうと全部
〈ひっでえクソダジャレの応酬になってきたな……〉
ぼやくショウにガハハ笑いで応えながらリフトを作動させ、地下へ降りる。そこにはもはや照明の類はなく、俺たちは赤外線暗視装置と自機のライトを併用しながら、モーターグリフでは通れない程度の、狭い通路を奥へと進んだ。
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