第46話 ふたりの日曜日②
〈こちら『ホワイト・カース』……車列を停止を指示してくれ。稜線の向こうに戦車隊がいる〉
僚機の一人、ランキング二十一位の傭兵チャーリー・バザードが通信で知らせてきた。
「こちら『
戦車隊か――俺はごくりと固唾をのんだ。物資輸送の護衛とはいえ、やはり何もなしで済むわけにはいかないようだ。そも三人もの傭兵が招集されるほどの重要案件なら、なおのこと。
バザードは最近
機動力と充実した光学機器及び電子装備を生かして前面へ進出し、偵察を買って出ていたのが見事に当たった形だった。
後続の輸送車四輌に指示を送る。にわか仕立てのキャラバンは俄然緊張感に包まれた。
――どうする?
――長い時間動きを止めるのはまずい。直ぐルート変更すべきだ。
――戦車ってことは、稜線越えの間接砲撃もあり得る。観測機の類がいないか急いでチェックしろ。
各車の間でそんな緊迫したやり取りが交わされ、車列は進路を変えて元来た道を速やかに戻り始めた。
「賢明な判断だと思うが、実際どうするんだろうな。期日はまだ余裕があるが……迂回ルートはあるのか?」
誰にともなく口にした、独り言のようなつもりだったが。
〈あるわよ。地図を共有するから、見て〉
回線がつながっていたもう一人の傭兵、こちらはランキング二十七位で「
この辺りはギムナンにほど近い。かつて存在した大小の湖がそこら中に干からびた湖底をさらしていて、俺たちが今差し掛かったのもその一つだった。
で、湖を囲む岸が変じたリング状の丘陵、その陰に、予測された襲撃者が戦車を引っ張り出してきているわけだが――コニーが送ったデータによれば10kmほど引き返したところから分岐する旧街道の先に、確かに目的地へ向かう経路がもう一つ。もはやはっきりとした名前も残っていない、高台の平地を通って伸びている。
〈私が
頼もしく請け合ってくれるコニーが駆るのは、いつぞやのコンペでウォーリック社が投入してきた例の重装突撃型リグ、「スピアヘッド」だ。彼女の機体「ジョイ・ロッドⅡ」は、両側面のグレネード・ランチャーのうち片側をガトリング機銃に置き換えたカスタム機となっている。
俺たちに与えられた任務は、ギムナンよりだいぶ北方にある
* * *
心配された追撃は結局発生せず――あの戦車部隊は、どうもこちらの動きについて十分な情報を持っていなかったらしかった。俺たちはまんまと敵をやり過ごしたわけだ。
〈いささか拍子抜けだったな〉
バザードがどこかつまらなそうに笑った。
だが襲撃など不発に終わる方がいいし、巻き込まれない限りは戦闘も避けたい。俺やコニーの乗るトレッド・リグだと複数の戦車相手はそれなりにハードだし、輸送車両は装甲もごく薄く、自衛力には乏しいのだ。
〈輸送隊も緊張を強いられたでしょうし、この辺りで一息入れられればいいのだけど……〉
そう言い差した、コニーの声が不意に曇った。
〈ちょっと待って。なに、ここ……〉
「どうした?」
不審げな様子にこちらも神経をけば立たせる。彼女の機体が持っている地形データベースは最新のものであるはずだが、どうも細部に食い違いがあるらしい。
〈わかった。この場所、ごく最近にかなり重点的な爆撃を受けてるわ……小規模のクレーターが無数に重なってる〉
〈なんだ? ずいぶん剣呑な話じゃないか……だが、こんなところ、もともと何もなかったんじゃないのか?〉
差し迫った危険があるわけではない。レーダーには何も感がなく、車列は俺たちの警護下で順調にラクスデラに向かっている。だが、局部的に地形が変るほどの砲爆撃というのは、いかにも不穏な何かを感じさせた――
「うお!?」
ふいに機体に加わった衝撃に、俺は思わずぶざまなおめき声をあげてしまった。機体の脚部が、何か空洞状のものを踏み抜いて一メートルほど沈み込んだのだ。
〈何してんの、ミスター。レダをなびかせたっていうから、一目置いてたのに……〉
コニーが失笑を漏らす。
「笑わんでくれよ……くそっ、ここになにか埋まってたんだ……こう、箱みたいな」
ケイビシの脚部をその物体ごと持ち上げる――土砂の中からごそっと引っ張り出されたのは、今警護しているものと似たり寄ったりの、箱型の輸送車らしかった――正確には、その後ろ半分。
「何だこりゃ……いや、ちょっと待て?」
考え込む。地図で見るとここはちょうど――ギムナンから半径八キロほどの圏内だ。そして。
カメラをやや望遠気味に引いて周囲をぐるっと見回す。埋もれてしまっているが、どうやら戦車らしきものが数台。これも同じように破壊された後、爆撃を受けた痕跡があった。
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