09-31 万策尽きて

 手に持ったオールをギュッと握り締め、素早く亡者の群れに切り込む。

 重さも長さも全然違うが、要はロングソードの扱いと同じだ。


 腰を入れて放った会心の横薙ぎは、群れの先頭にいた亡者の首にクリーンヒットし腐った頭が吹き飛んだ。

 暫し宙を舞った後、ボチャンと音を立てて首が海へと落ちる。


「見たか! ロングソードさん直伝の剣技!」


 首を失った亡者のはそのままズブズブと崩れ落ち、腐った泥の塊のように動かなくなった。


 その間にバックステップで一端距離を取る。


「――行ける! 見た目通り脆いぞ!」


「やるじゃない! そっちの武器の方が良さそうね。貸して」


「お、おい!」


 俺のオールをぶん取り、代わりに包丁を投げて渡して来る。……ってオイ! 剥き身の刃物を投げるんじゃねぇよ!!


 慌てて包丁を避けていると、その間にオールを構えたティンクが力任せの連続斬りを亡者の群れへお見舞いしていた。


 型はめちゃくちゃだけれど、その怪力から繰り出される強打を受けた亡者が二匹纏めて海へと吹っ飛んでいく。


「つ、強ぇ……」


「なんだ、案外いけるじゃない! これなら本当に突破できるかも!」


 一端下がってきたティンクが亡者の群れを見据えたまま得意そうに笑った。


「あんまり油断すんなよ。――って、ティンク! 足元!!」


 俺が叫び終わるよりも前に、海から音もなく伸びてきた亡者の手がティンクの細い足首を掴むのが見えた。


「――! うそっ!?」


 足を引っ張られ思いっきり転んで尻もちをつくティンク。

 慌てて駆け寄り足を掴む亡者の手を包丁で力一杯切り付ける。どうにか切断は出来たけれど、包丁はあっという間に刃こぼれしてしまった。そう何度も使えそうにはないな。


「いったた。――何すんのよ、もぉ!!」


 ティンクはお尻をさすりながら立ち上がると、足首を掴んだままの亡者の手首を群れの中に向かって思いっきり蹴り飛ばす。


 ブーメランのようにヒュンヒュンと回転しながら飛んで行った手首は、群れの中腹にいた亡者の頭に命中し、一瞬その亡者がふらついた。


 桟橋に落ちたオールを拾って急いでティンクに投げ渡すものの、その間に今度は俺の足に別の亡者がしがみ付いて来る。


「――っ、いつの間に!?」


「頭避けて!! 叩き潰すからっ!」


 両手で構えたオールを思いっきり振りかぶるティンク。


「――まてまて!! それ手元狂ったら俺の足ごと逝くだろ!!? ――って、ティンク! 後ろ!」


 ティンクの死角をついて、後ろから数体の亡者が飛びかかって来るのが見えた。


 慌てて振り返り、そのままオールを亡者の頭上目掛けて振り下ろすティンク!

 ピシャリと飛沫を上げながら、亡者の首から胸元辺りまでが見事に一刀両断された。見事な威力だけれど、勢い余ってそのまますっ転んでしまう。


 そうこうしてる間に、俺の足にも次から次へと亡者の腕が絡みついて来て、凄い力で海へと引きずり込もうとしてくる。


「筋肉もろくに無ぇくせに、何処からこんな力が出るんだよっ――!!」


 桟橋の手摺りにしがみ付き足をバタつかせてどうにか抵抗するが、とても全部を蹴り解く事は出来そうにない。


『キャーー!!』


 悲鳴の方を見るとカトレアたちの居る広間にも、海から這い上がった亡者が何体か侵入してしまったようだ。


(クソっ! 一匹ずつは大した事ないけど、やっぱり数が多すぎる――)


「は、離しなさいよ!!」


 こっちの橋の上ではティンクが全身を亡者に掴まれて海の中に引きずって行かれそうになっている!


「――! ティンク!! 今助けるから!!」


 とはいうものの、俺自身ももはや身動きが取れず相当にマズイ。手摺にしがみ付いた手の握力もそろそろ限界だ。


 渾身の力を振り絞り、どうにか亡者を振りほどこうともがくが――力任せに暴れたため手が滑り掴んでいた手摺を思わず放してしまった。


 支えを無くした俺の身体を、ここぞとばかりに亡者達が海へと引き込んでいく。


(――ヤバい!!)


 こんな真っ暗な海に引きずり込まれたらそれこそ一巻の終わりだ!!

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