09-16 これってデート!?
その後、お喋り好きの店主さんから島の錬金術について色々と教えてもらった。
なんでも、チュラ島では遥か昔に"
しかし、歴史学者の調査によるとチュラ島は過去に大きな自然災害があり一度無人島になった事があり、その時に練丹術の系譜も途絶えてしまったらしい。
今じゃ僅かに残った当時の研究施設の残骸が、熱帯林の奥底に少し残っているだけだけという話だ。
「――錬金術的に見ればずいぶんと歴史のある島なんだけどね。今のチュラはご覧の通り観光業一色。この錬金術屋も、正直半分趣味みたいなもんになっちゃったわよ。娘は店を継いで錬金術師にもなりたいって言ってくれたんだけどねぇ。島にはまともな錬金術師なんて居ないから国外の錬金術師さんに頼み込んで留学させて貰ってるわ。そういえば娘もお客さんと同じくらいの歳なんだけどね――」
退屈していたのか、お喋りが勢いに乗ってきた店主さん。
徐々に錬金術とは関係のないご近所トラブルや最近ハマっている小説の話になってきたので……頃合いを見て話を切り上げる事にした。
「ありがとうございました。色々と参考になりました」
「こんな話でよければまたいつでも聞きにおいで」
せっかくなので持ち帰るのに荷物にならなそうな小さな素材をいくつか買い、店主さんにお礼を言って店を出た。
……
ローラと一緒に再び商店街を歩く。
改めて通りを見渡すと、小ぶりな花束のような飾りがそこかしこにあるのが目についた。
色とりどりの花で作った花束に、尾の長い短冊のような飾りが結い付けてある。風に吹かれるたびに短冊が一斉にユラユラと揺れて目にも美しい。
さっきは気にしなかったけど、これが“盆帰り”の飾りか。
「綺麗な飾り付けだな」
「はい。……でも、本当はあの花束の周りを雷花でぐるっと囲うんです」
……成る程。綺麗ではあるものの、どこか未完成のような物寂しさを感じたのはそのためか。
「そういえば今年収穫出来た分は殆ど輸出に回したって言ってたけど、雷花ってそんなに高値で売れるような希少な花なの?」
「いいえ、そんな事はありません。他の土地ではまともに育たないそうなので、確かに海外から見れば希少な物なのかもしれませんが、島民にとっては馴染みの深いありふれた花です。毎年、今くらいの時期になると海岸の一面を埋め尽くすほどに咲きますよ」
「そうなのか。それが急に咲かなくなったんなら、そりゃ異常事態だな」
「はい……。島の人達も不審に思い調べはしたんです。海沿いに大きなホテルの開業が相次いだので、そのせいで潮や風の流れなど環境が変わってしまったんじゃないか、とか。……けれど、原因は未だ不明です」
……まぁ、そりゃそうだろう。
仮に原因がリゾート開発による環境破壊だったとしても、順調に観光地化が進んでるこの島で花一つのために島民とホテルの対立を生むような話は表沙汰にはしないはずだ。
「――それで、次はどうしましょうか!?」
前を歩いていたローラが元気に振り返る。
「あー……ごめん! もう少し一緒に買い物してたいんだけど、そろそろ戻らないと」
商店街の柱にある時計を確認したところ、そろそろティンク達との待ち合わせ時間だ。
「――そうですか。……残念ですけど、楽しかったです! ありがとうございました!」
「いや、こちらこそ! 色々と教えてくれてありがとう!」
「はい! ……大通りまでお送りしますね!」
お互いに名残惜しむように、なるべく沢山お喋りをしながらゆっくりと帰りの道を歩いた。
――
ショッピングエリアの近くまで戻ってきたところで、遠くのベンチに腰掛けてお喋りをしているティンクとカトレアの姿が見えた。
向こうもこっちに気づいたようで、ティンクが立ち上がりこっちに向かって大きく手を振ってくる。
「何処行ってたのよ!? そろそろ帰るわよ!」
声を張り上げてティンクが叫ぶ。
道行く人達がチラチラとこっちを振り向いてちょっと恥ずかしい。
「あ。女性のお連れさんがおいでたんですね。……ごめんなさい、私行きますね」
気まずそうに俺の傍を離れようとするローラ。
「あ! いや、別にそんなんじゃないから! 気にしないで」
慌てて引き留めようとしたものの、最後にニッコリと一度だけ笑いローラはそのまま人並みの中へ去って行ってしまった。
「……今の娘、だれ?」
俺の傍まで歩いてきて、見えなくなってしまったローラの後ろ姿を目で追うティンク。
「たまたま会った地元の子。色々案内してくれたんだよ。お陰で町の錬金術屋も見つけられたんだ」
手に持った袋を広げ、買った品物を見せる。
「へぇ、親切な人もいるものね。しかもめちゃめちゃ可愛い子だったじゃない」
まあな、と思わず言いかけて口をつぐむ。
別にこいつが嫉妬してるとも思えないけれど、下手な事は言わないに越したことは無いからな。
「でも……あんまり何にでも首を突っ込むんじゃないわよ。あんたちょっとお人好し過ぎるんだから」
黙ってる俺を不審に思った……のかは分からないけど、じっとりとした目でティンクに釘を刺された。
「あぁ。……別に今回はそんこんじゃねぇよ」
誰とでもズケズケと仲良くなるティンクに言われるのも少し癪だけれども……そもそも何でそんなに不機嫌なんだ? あ、もしかして錬金術屋見たかったのか!?
「ま、マグナスさん!」
カトレアが突然俺の腕を引っ張って耳元で囁いてくる。普段カトレアとこんな距離で会話をする事なんて無いので少しドキドキする。
「な、なに?」
「マグナスさん、今の方と二人でお買い物してたという事ですか!?」
「そ、そうだけど。といっても島の商店街をちょっと回っただけだけど」
「それってつまり――デートっていう事ですよね!?」
「……で、でーと!?」
お嬢様は突然何を言い出したのだろうか。
「それってマズくないですか!? ティンクさんという方がおいでながら他の見知らぬ女子とデートだなんて……」
いや、大袈裟な。そういえば……忘れてたけど、カトレアは箱入り娘な事もあり恋愛に関してはトンと疎いんだった。
「いや、そんなんじゃないよ。ほら、デートってのはもっと“親密な仲の”男女が出かける事を言うんだよ。ローラは今日会ったばっかの娘だよ?」
「でもでも! 親密じゃない方と二人でお買い物なんて行きませんよね!?」
何が言いたいのか……とにかく興奮した様子で捲し立ててくるカトレア。
「じゃあさ、俺とティンクもよく一緒に街へ買い物行くけど、それもデートなの?」
「そ、それは……。お二人の場合は、何だか普通に“お買い物”って感じですね……」
「――まぁ、親密も何も。一緒に住んでるからね」
いつの間にかすぐ後ろに立っていたティンクに割り込まれ、二人そろってビクリと肩が跳ね上がった。
「よくわかんない話してないで行くわよ。ほら、ホテルの牛車が迎えに来たから」
ティンクの指さす先を見ると、ここまで送ってくれた時と同じ御者さんが牛車の上から元気に手を振っていた。
いつの間にか海に沈みかけたオレンジ色の夕陽を眺め、牛車に揺られながらホテルへと戻った。
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