話しますぅ〜〜!(LINEトークあり)

「ちょっとむぎ!? なんですかその顔ぉ!!」


「はひぃ〜〜」


 その日、いちばん最後に帰宅したつむぎの顔を両端から挟んで、莉子が迫っていた。


 真っ赤に腫れた目を見て、絶対に何かあったと確信。そんな彼女の鬼気迫る顔は、裏庭での男子に負けてないかもとはつむぎの心の内である。


「兄! 兄兄兄ーー! 招集です、緊急しょーしゅーーっ!!」


「ぴえぇ〜」


 つむぎの意志など構わず振り返ると、莉子は階段下から叫んだ。


「なに?」


 ほどなくして、李津が階段の上から顔を出した。しかしダルそうな様子で降りてくる気配はない。


「俺、これから戦場ゲームなんだけど……」


「そんな場合ですか!? うちのかわいいむぎ子が泣いて帰ってきてるんですよーっ!」

 

 李津のまぶたがピッとわずかに痙攣した。


「つむぎ? なにかあったんか?」


「ひいぃっ! ええっと、そのぉ〜」


 莉子の後ろに隠れたつむぎは、居心地悪そうに視線を右往左往とさせた。


 何か答えなければ。


 歯切れ悪くもごもごやって、ついに声を絞り出す。


「……だいじょうぶですぅ」


「は!? 大丈夫なはずねーでしょがッ!?」


 目を吊り上げた莉子が射竦め、つむぎが小さくなる。


 そんな二人の上から、のんびりとした声が降ってきた。


「じゃあ俺は部屋に戻るわー」


「ちょっと!? おい待てや兄ィーーーーッ!?」


 手をひらひらと振って、李津は頭を引っ込めた。その直後、二人を断絶するように、パタンとドアが閉まる。


 二人の妹は、レモンをかじったような顔と温泉から出てきたばかりのような顔とで、対照的になっていた。




  ◆




 つむぎが帰宅して20分ほど経ったころ。リビングのソファには、足を組んだ莉子が鬼のような形相で座っていた。


 そんな彼女が見下ろす床に、ぺたんとお尻をついて座ったつむぎが、青い顔で震えていた。


「別にいいんですよ。吐かないんだったら、あたしのネットワークで全部聞き出しますから」


「……」


「学校のスキャンダルが大好きな友人がいます。彼女に聞けば、1時間くらいでおまえに何が起こっているかわかるんじゃないですか」


「うぅ〜」


「ただ、リサーチをすれば、事情を知らない人にもなにがあったか知れ渡ることになりますけど。それでもいいんですよね?」


「はっ、話しますぅ〜〜〜〜!!!」


 莉子の脅迫じみた物言いに、ついにつむぎが折れた。ポキリとこうべをたれている。


 ようやく眉に寄せたシワを解くと、莉子はつむぎの隣に座った。


 つむぎに寄り添い、そっと手を握る。


 つむぎは自分の手に重なる莉子の手を見つめた。迷惑はかけたくなかったけれど、きっと莉子は自分がされていることをすぐに暴くだろう。


 握られた場所がポカポカと温かかった。


 そう思った瞬間、涙が一筋、頬を伝う。


「……今までにも嫌なことはたくさんあったけどぉ、こんなにすぐに気づいて、心配してもらったのは初めてでぇ……。本当にうれしいよぉ」


「ま、あたしはその辺の一般人とは違うので。人の気持ちは知りませんが、おまえの変化くらいはわかります」


「ふふ〜。莉子ちゃんって変なのぉ〜」


「で、なにがあったんですか」


 つむぎは涙を拭うと、前髪の間から莉子を真っ直ぐに見据えた。




  ◆




「は!? キスぅ!?」


「り、莉子ちゃん声大きいぃ〜!」


 真っ赤な顔でわなわなと震える莉子の腕を掴んで揺するが、ブチ切れた莉子にはもうつむぎの話は聞こえていない。


「未遂だからって許せないですマジで最低、ふざけんなっつーの!! 兄に話して、相談に乗ってもらいましょう!」


「ううん、ダメぇ! こんなこと、おにーちゃんには言えないぃ〜!」


「なに言ってんですか、そんな場合か!?」


「莉子ちゃんは、わかるでしょ〜?」


 涙目で強く訴えるつむぎに、莉子は息を詰めて少し考える。


 同級生とのキス未遂。確かに兄には知られたくない。


「はあー。でもあたしが出張でばってなんとかできるか微妙なんですよね……。2組の結束は強いみたいですし、どこから崩せばいいか」


 李津への相談ができないとなれば、別方面からのアプローチへと頭を切り替える。


 うじうじ同じところにとどまらず、思考を巡らせられるのが莉子の長所だ。


 彼女は自分が1年の陽キャ部類に入っており、自クラスである1年1組でも発言力がある方だと自負がある。なぜその立ち位置を守っているのか。イージーモードでスクールライフを送るために、いちばん合理的だからである。


 そんな莉子だが、一人でできることにも限界がある。


 まだ高校に入って間もなく、隣のクラスまでに発言力があるかといえば微妙だ。莉子の予定では、半年かけて学年全体に影響力を広げるという算段だったが。


「人を変えられないのであれば、おまえが変わるしかないですね」


「??」


 のんきに首を傾げるつむぎを、ジロリと上から下まで鋭い目で眺める莉子だった。





【LINE】


>†りっつんのズッ友†(3)



         ----------------------

         妹に呼ばれた

         ちょっと待って

         ----------------------

         17:43

         既読


Arkadia

----------------------

りょ

ぼくは準備オッケー

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17:43


         (スタンプ)

         17:44



         ----------------------

         アルごめん。ちょっとゲー

         ムの気分じゃなくなった。


         悪い、また埋め合わせする。

         ----------------------

         17:56

         既読


Arkadia

----------------------

ん?

それはいいけど。

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17:57


Arkadia

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大丈夫か。

話聞く?

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17:57


         ----------------------

         助かるかも

         ----------------------

         17:59

         既読


Arkadia

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おけw

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17:59


Arkadia

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りっつんはほんとーに

妹好きだよなーw

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17:59


         ----------------------

         そんなんじゃねーから!

         ----------------------

         18:00

         既読 



         (スタンプ)

         18:04

         既読


Arkadia

(スタンプ)

18:04



   ツツジが参加しました



ツツジ

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あ?

なんだよこれ。

つか誰だよ英語の奴。

----------------------

18:16





(画像はノートに掲載)

https://kakuyomu.jp/users/asamikanae/news/16817330652783131537



  


 

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