第60話 転生ヒロインと邪神ちゃん【対戦予告】


 ガルムの元に集まった3バカは入学式までの期間に行う準備について話し終え部屋を辞した。


 暗い部屋に残されたのはラファリィとガルムの2人だけ……


 この話し合いの間、ガルムは殆ど声を発していない。だが、ラファリィには彼が心の中で発していた苦痛のうめき声が聞こえたように感じていた。


 その理由にラファリィは心当たりがあった。



「ガルム様……まだカレリン様のことを……」


 どうするべきか迷っていが、ラファリィは耐えかねて沈黙を破った。


「言うな……分かっている……分かっているんだ……」


 ずっと感情を押し殺していたガルムは苦悶に顔を歪めた。


「あの3人が言うように私と婚約していたからカレリンは変わったのではない……」


 ガルムは組んだ手に額を乗せて沈む。


「彼女は元から破天荒だったんだ。私の目が曇っていただけ……恋は盲目とはよく言ったものだな……笑ってくれ」

「笑えません……誰しも恋をすれば同じような経験をするものです」


 ラファリィの言葉にはガルムに対する気遣いがある。それが分かるから、ガルムは自嘲するしかなかった。


「君には慰めてもらってばかりだな……私は本当に情けない男だ」

「人が人に恋するのは決して情けなくはありません」


 これはラファリィの本意だ。


 ラファリィは救世のために婚約破棄のイベントを完遂かんすいしなければならなかったが、それでもカレリンに想いを寄せるガルムに同情的だった。


 だが、ガルムはそんなラファリィの憐れみに気がつきながらも首を横に振った。


「しかし、私はカレリンに勝手な幻想を押し付けようとしていたのだ。本当の彼女は貴族の枠に当てはまる女性ではなかったのに……」

「それでも……いいえ、だからこそガルム様はより思慕を強くされたのですね」

「そうだ、私はカレリンを愛している……だがカレリンは私を好いてはいまい。私は自由奔放な彼女を縛り付けてしまったのだから」


 その時、ラファリィの脳裏で全ての点と点が結びついて一本の線となった。


「もしやガルム様がカレリン様との婚約破棄を望む本当の理由はカレリン様を自由にしたいから……」


 ラファリィの指摘に応えず、ガルムはしばらく目を閉じて黙り込んだ。その様子をラファリィはただジッと見つめる。



「奔放な彼女はとても輝いていた……」


 やがてガルムは胸の内を吐露し始めた。


「……私はその光を自分の欲でかげらしてしまおうとしている。だが、もうカレリンから婚約の解消を求めることはできない。この婚約は私が望んだものだから当然のこと私から解消を願うのも無理だ」


 やがて、心情を吐き出したガルムはカッと目を見開いた。その目に宿る強い決意をラファリィは見た。


「だから……この婚約破棄は成功させなければならない」




 決意を述べて部屋を出て行くガルムの後ろ姿を見送ったラファリィは、暗い部屋の中で何かを見るわけでもないだろうに、じっと視線を前方に向けたまま微動だにしなかった。


「ガルム様の想いを遂げさせてあげたい……だけど――」

『――世界を救う為には致し方ない犠牲……か?』


 俺の声にラファリィは隣にいる俺を横目でチラリと見ただけで、すぐに視線を元に戻した。


「この婚約破棄イベントを実行すれば、私だけの犠牲では済まないもの」

健気けなげだな』

「そんなんじゃないわ……ねぇカレリン様に協力を求められないの?」

『無理だな……カレリンには常に奴がついている』

「奴?……邪神のこと?」

『カレリンの横に銀髪碧眼の美女がいるだろ?』

「ええ、よく一緒にいるのを見かけるわ……まさか!?」


 くっくっくっ……やはりラファリィにも見えていたのか。


『そうだ、彼女は人間ではない……因みにお前とカレリン以外にあの女の姿を認知できている者は学園にはいないぞ』

「そう……対決は避けられないのね」



 そう言い残すとラファリィも決意を固め部屋を出て行った。


 ふふふ……これで、全て俺の思惑通り。ラファリィにも誕生時から仕込んでいた暗示がきちんと作用しているようだ。これで、婚約破棄の展開が俺の予想通りとなれば、その仕込みが発動するだろう。



 くっくっくっ……あぁはっはっはっ!



 転生ヒロインラファリィよ、上手く踊ってみせてくれよ……私の楽しみの為にな!

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