最終死合!悪役令嬢VS集結ガルム連合!!!

第59話 会議は踊る、されど進む【対戦予告】


―――≪OPナレーション≫―――

「みなさん。ついに入学式、婚約破棄の時が近づいてまいりました。ですが、そのガルム達の企てに全く気がついていないカレリン。彼女は学園生活を楽しく謳歌しております。ですが、非情にも婚約破棄は実行されるのです。そう、ガルムと五車聖とそしてラファリィの手によって。それでは!令嬢類最強!最終決戦!レディーゴー!!」

―――――――――――――――




 部屋の中央に円形のテーブルが1卓。備えられた椅子は全部で6脚。


 テーブルの中央にある燭台のあかりのみで、部屋はとても薄暗かった。時折、ピカッ!と稲光が窓から差し込む。


 その雷光に照らされ、椅子に座る者達の影が延びる。


 全部で5つ。


 雷の光が鎮まり、再び蝋燭の灯りが部屋を照らす。見れば5脚の椅子に座る面々が顔を突き合わせていた。


 5人とも黙して語らず、偶に発生する雷の音だけが部屋の静寂を破る。部屋の薄暗さがこの者達の沈んだ面持ちを一層に陰々な雰囲気を醸し出していた。



「随分とこっぴどくやられたようだな」



 おもむろに1人の男が口を開いた。


 金色の髪にこの国の王家の血筋を示す黄金の瞳。


 誰しもが美男子と認めるだろう彼は、ここダイクン王国の第2王子ガルム・ダイクンその人である。



「天才の私をしても全く恐ろしい所でした。カレリンが帰郷して不在であるのを見抜き、天才の私が撤退の指示を出さねば全滅してたやもしれません」


 ガルムに真っ先に応じたのは側近の1人宰相令息セルゲイ・ハートリフ――またの名ソウルネームを海の理薄。



「確かに逃げおおせたが無傷ってわけじゃない。風のヒョロいは――」


 ギリッと歯噛みしたのは同じく側近の騎士団長令息マーリス・ツナウスキー――またの名ソウルネームを炎の修練バカ。


 マーリスが最後の1人に視線を向けると、全員がそれに釣られた。



「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ……僕は男の娘じゃない、僕は男の娘じゃない、僕は男の娘じゃない……オカマは嫌だ、オカマは嫌だ、オカマは嫌だ……」


 ずっと同じセリフを繰り返して、この場の者の視線を集めているのは側近の魔法省長官令息ヴォルフ・ハーン――またの名ソウルネームまたの名を風のヒョロい。



「――見ての通り変わり果てちまった」



 痛ましいものを見るような目をしたマーリスに、この場の全員が思った――モヒカン、肩パッドのお前が1番変わり果てているぞと。



「とにかくカレリンをこのまま放置しておくわけにはいきません」



 セルゲイの言に皆が首肯する。この場にいる者の心は一致していた――だがその動機は一様ではないようだ。


 セルゲイは学力でカレリンに遠く及ばず、

 マーリスは武力でカレリンに全く及ばず、

 ヴォルフは女性恐怖症の張本人としての、


 それぞれ理由は違えども側近の3人はカレリン憎しで一致している。だが、カレリンへの罵詈雑言を口にする3人を見て、どこか悲しそうな目をするガルム。


 そのガルムの様子に1人気付いて目を細める人物がいた――ラファリィである。


(ガルム様はやっぱりカレリン様のことをまだ……)


 ラファリィは以前よりそうなんではないかと思っていた。ガルムはカレリンに未練を残していると。


(できればガルム様の想いを遂げさせてあげたい)


 確かにラファリィにはカレリンに対する恨みがある(笑)。


 それは彼女によって傷つけられた矜持(笑)、彼女の飼い犬によって踏み躙られた女の尊厳(笑)。思い返してもあの主従にははらわたが煮え繰り返る思いだ(笑)。


 だが、それらは全て私怨であるともラファリィには分かっていた。ファーストコンタクトで敵認定したものの、破天荒な行動ばかりのカレリンではあるが、決して彼女は悪人ではないとも既に気がついていた。


 カレリンの方も滅茶苦茶な思考回路ではあるが、ガルムをないがしろにしているつもりはなさそうだ。ならば2人が結ばれても良いと、ラファリィ個人は思っていた。


(だけど、ここは乙女ゲーム『恋の魔法を教えます』の世界……)


 だからゲームの設定通りに動かないと世界が崩壊してしまう――と信じきっていた。


(だからガルム様には申し訳ないのだけど婚約破棄はしてもらわないと。それに……)


 ガルムはカレリンに想いを残しながらも、彼女の破天荒な振る舞いに傷つき、疲れ切っているのも事実だった。


(だからどの道このままではいけない)


 ガルムには悪いと思いながらも、ラファリィは側近達の尻馬に乗ることにした。


(ゲームをなぞるなら半年後の入学式が婚約破棄の舞台ステージになるわ。なんとか誘導しないと……)


「カレリン様は己の非を認めて改めることはないでしょう」

「俺もそう思う」


 ラファリィの言葉にマーリスが頷く。


「だからもう婚約を解消する方向へ持っていくのは困難だと思います」

「救世主様のげんいちいちもっとも」


 お決まりのゲンドウポーズで相槌を打つセルゲイ。


「かと言ってカレリン様に力技は通用しないでしょう」

「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ……」


 ヴォルフは……もうどうでもいいな。


「だが、ちちはカレリンを抱え込む意向のようだ。私の方から婚約を解消するのはもはや不可能」

「はい……ですので目指すのは婚約解消ではありません……」

「では如何様になさるので?天才の私でももはや手詰まりに思えます」


 ラファリィに全員の視線が集中する。


「全校生徒が揃う中で婚約破棄を断行するのです」

「「「婚約破棄!!!」」」


 驚愕する3バカとラファリィを黙ってジッと見つめるガルム。


「そうです。衆目を集める中で婚約破棄を宣言してしまえば国王陛下も諦めざるを得ないでしょう」

「た、確かに!?」

「それは天才の私にも思いつかない奇策!」

「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ……」


 色めき立つ3バカだったが、その様子にラファリィはホッとした。ラファリィの献策に疑問も抱かずに乗ってきてくれている。


(助かったわ。本当は婚約破棄なんて下策もいいとこなのに、3人はそれに気がついていないようね)


 だからラファリィは思惑通りに進んだことには安堵したが、それと同時に罪悪感も抱いていた。3バカとガルムとの邂逅はゲーム通り果たせたが、それ以降はゲームとこの世界は剥離していく一方……


(だから今の状態でそんな事をすれば、わたし達の方が無事では済まないもの)


 婚約破棄は成功しても失敗してもラファリィのみならず、この3人の将来も暗いものとなるだろう。


(それでもこの世界を救う為にはやらなきゃいけない)


 ゲームでは婚約破棄後について何も語られていない。ならば婚約破棄のイベントさえすればゲーム通りと言えなくもない。ラファリィは自分を犠牲にしてでも世界を救おうと健気にも決意したのだ。


(あなた達も巻き込んでしまってごめんなさい)


 ラファリィは心の中で3バカに頭を下げた。


「それで決行はいつがいいと思う?」

「ふむ……全生徒となると文化祭がいいでしょうか?」

「いいえ……文化祭では一堂が一ヶ所に集まりません。婚約破棄に相応しい式典……それは半年後の入学式です!」

「なるほど! 入学式は学園の全職員、全生徒が集まる絶好の機会です」

「さすが救世主様!」


 どうやらラファリィの誘導は上手くいったようである。


「それでは私の方からも1つ提案があります」


 何故かゲンドウポーズをとるセルゲイに視線が集中する。


「入学式まで時間があります。それまで個別にカレリンに非を説きましょう」

「ん? 今更カレリンの説得を試みるのか?」

「そ、それは……確かにカレリン様と分かり合えたなら素晴らしいでしょうが……」


 セルゲイの婚約破棄とは違う突然の提案にラファリィは焦った。が、セルゲイは首を振った。


「ふっふっふ……そうではありません」


 再びゲンドウポーズのセルゲイの眼鏡が怪しく白く光る。


「人は何故かお互いを理解しようと努力する……

 しかし覚えておけ ……

 人と人が理解し合うことは決してできぬ……

 人とはそういう悲しい生き物だ」


 セルゲイの背後に黒服、白手袋の顎髭オヤジのオーラが立ち昇って見えた一同はゴクリと生唾を飲み込んだ。


「で、ではいったい何故……」

「説得はカモフラージュ……その間に対化け物カレリン用の戦闘訓練を行うのです」

「なるほど、婚約破棄を突きつけてアイツが大人しくしているとは思えんからな」

「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ……」

「逃げるのではありません。これは戦略的転進です」

「逃げてない?」

「そうです進む向きを変えるだけです」

「さすがは海の理薄! 俺達五車聖の筆頭だ」

「僕は逃げない! 僕は逃げない……」



 そんな気炎を上げる3人を黙って見るガルムの目が寂しそうなのをラファリィは見逃していなかった……

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