第43話 病んデレラ直伝・眼で殺せ!【STAGE 校舎内】

 

 ここって核の炎に包まれた後の世界なの!?

 この学園は腐敗と自由と暴力の真っただ中なの!?

 イカれた生徒達が水と食料を求めてヒャッハーしているの!?



 いや待ってラファリィ!

 落ち着いてラファリィ!


 私の名前はラファリィ・マット――ヒロインのデフォルト名。

 カレリン・アレクサンドール――間違いなく悪役令嬢の名前。


 わたしは世紀末救世主ではない!

 カレリンも世紀末覇者ではない!


 間違いないわ。

 ここは乙女ゲーム『恋の魔法を教えます』の世界よ。


 じゃあなんで世紀末モヒカンが蔓延はびこっているの?



 はッ! まさかカレリンの仕業なんじゃね?


 きっとヤツがゲームの世界を壊している影響が出ているのね!

 だいたい悪役令嬢のファンクラブってのもおかしいと思ったのよ。


 あんなにフェロモン撒き散らして!


 もしかして、あのお姫様抱っこも彼女の作戦!?

 わたしを懐柔するつもりだったとか?

 危ない、危ない、籠絡されるところだったわ。


 いえ、もしくはファンクラブに睨ませるのが目的とか?

 実際、わたしはカレリンに近づけなくなったし。


 うーん彼女の狙いが分からない。

 どう動けばいいの?



 だけど、わたしが行動できずに迷っていたら、自体は思わぬ方向へと動き出してしまったの。


 その異変はまずわたしの私物から始まったの。それらが隠される様になったのよ。


 まあ定番の陰湿な嫌がらせね。

 おそらくカレリンファンクラブの人達の仕業だと思う。


 でも、これじゃゲームの流れと同じになっちゃうよね?

 これってカレリンの思惑とは違うんじゃない?



 うーん……ゲームの強制力なのかも。



 次の犠牲はわたしの教科書。もうねズタズタに引き裂かれちゃって、それに飽き足らず窓から中庭に捨てられてたの。



「うわー……ここまでする?」



 ボロボロになった教科書を手に取ってみたけどもう使えそうにないわね。

 これがゲームのイベントだって分かっていても、ちょっとショックよね。



「あら? 教科書がボロボロじゃない」



 ため息ついて少しへこんで俯いていたわたしに話しかけてくる凛とした女性の声。

 顔を上げれば、そこにいたのは顰めっ面のカレリン。



「誰? こんな事をしたのは」



 彼女の少し怒気を含んだ声と鋭い視線に野次馬の令嬢どもがサッと視線を逸らしやがった。



「まったく……」



 カレリンは呆れたため息をついてるけど……これは彼女の指示じゃないの?


 それもそうか。ゲーム通りの進行では彼女にとって都合が悪いものね。



「そこのあなた――」



 うぉっと! 突然カレリンから呼ばれちゃったけど――いったいなによ?



「これをお使いなさい」

「えッ!」



 おっと教科書を手渡されちゃった。

 これ彼女の教科書?


 うへへへ……いい匂いがする……カレリン…さまの……残り香……


 じゃない! じゃない!

 わたしは何を喜んでいるのよ!

 これはきっとわたしを抱き込むためのワイロよ!


 その手に乗るもんですか。



「そ、そんな! 教科書を借りたらカレリン様がお困りに……」

「あら貸すんじゃないわ。それはあなたに差し上げるのよ」


 え~ッ!って周囲から上がる絶望の悲鳴。


「そ、そんなぁ〜」

「カレリン様の教科書があんな子の手にッ!」

「うそよぉぉぉ!!!」



 けっけっけっ! 令嬢達が膝から崩れ落ちて血涙流してるわ。

 わははは! ざまぁ!


 自分の行為で自分の首を絞めてやんの。

 己の愚かさを呪うがいい。



「私はもう全部覚えたから返す必要はないわ」

「あ、ありがとうございます!」



 もう思いっきり頭を下げてお礼を述べちゃうわ!

 教科書はしっかりと抱きしめてっと――誰にも渡さん!


 颯爽と去って行くカレリン…さま……ス・テ・キ……


 ぐふふふふ……あゝカレリン様は良い人だ。


 やっぱりカレリン様は邪神に騙されているのよ。そうに違いないわ。


 わたしがカレリン様を救ってみせるわッ!



 ――と、この時は息巻いていたんだけど……この後、カレリン様――いえ!悪役令嬢カレリンとわたしが訣別するきっかけとなる、悲しくも恐ろしい事件が起きたのよ!



 次に日、わたしはさっそくカレリンの目を覚まそうと彼女の教室を目指していたの。


 急ぎ階段を降りていた時――


 ドンッ!!!


 ――誰かに背中を押された!



「キャァァァァァァァ――――ッ!!!」



 えッ? これわたしの悲鳴? 他の人の悲鳴?

 分かんないけど、今わたしは宙を飛んでいる!



 アイ・キャン・フラ~イ!!!



 って、んなわけあるかい!


 えッ? ウソッ!?

 わたしこのまま落ちちゃうの?



 この高さ! 下手したら死ぬ――ッ!?


 フヨッ! フワッ!


 ――って思ったら、何だかすっごく柔らかいものに包まれて浮遊感が?



 そーっと目を開けてみたら……目の前にはわたしの王子様――あゝカレリン様♡



 またまたまたまたお姫様抱っこされちゃった――きゃッ♡



 あゝなんて至福……



 ――ぞわッ! ぞわわわッ!!



 な、なに? 凄まじくおぞましい戦慄が背中を走ったけど……


 誰ッ!わたしにこれ程の戦慄プレッシャーを与えるのは?


 キョロキョロ……


 うわッ! めっちゃ睨まれてるんですけどぉ!


 あッ! あの子って確かもう一度お姫様抱っこされたら刺す宣言してた病んデレラじゃない!



「またあなたなの? さすがに階段は気をつけなさい。下手したら死んじゃうわよ」


 ふぁッ! なにこのイケメン! 


 わたしのおでこを指でチョンとつついて、颯爽と去って行く姿なんて攻略対象なんか目じゃないくらいカッコいい!



 ――ぞくッ! ぞくぞくぞくッ!!



 ぎゃっ! 背筋に凄まじい寒気がッ!!


 さっきの病んデレラ!?


 うわぁ、目がぁ! 目がぁ! あの子の目が闇を宿しているんですけどぉ!


 もうね――


 殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!


 ――って彼女の黒いオーラが殺意一色で、ほとんど実体スタンド化してるよ!



 目でわたしを殺す勢いなんですけどぉ!!!

 なんか黒髪黒目のすっごい綺麗めの大人しそうな子なんだけど、めっちゃ呪われそうで怖いんですけどぉ!



 こ、これはマジでヤバいんじゃね?



 そして、この予想は的中しちゃったの。

 身の毛のよだつとんでも事件が起きたのよ……

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