第四死合!悪役令嬢VS復讐の女教師!!

第10話 それは乙女ゲームの女教師【対戦予告】


―――≪OPナレーション≫―――

『さて……今回の令嬢類最強は、8年後のカレリン婚約破棄に繋がるようです。ですが、これがカレリンとどのように結びついていくのか。また、カレリンの幼少期の教育にどのように関わってくるのか。それは今回の対戦相手、カレリンの教育係メイヤー・ロッテンとの結果次第。


それでは、令嬢類最強!にレディィィゴォー』

――――――――――――――――



 私の名前はメイヤー・ロッテン。


 ダイクン王立魔法学園を次席で卒業した俊才よ。

 だけど、そんな私も今では落ちぶれた酔っ払い。


 それもこれも全てあの女のせいよ!



 ダンッ!



 私は持っていた酒の入った木の酒杯さかずきをカウンターテーブルに叩きつけるように置いた。



「おいおい姉ちゃん荒れてるねぇ」


 カウンター越しに酒場のマスターが呆れた様子だった。


「私はこの国の王立魔法学園の次席卒業者なのよ!」


 その私が何でこんな目に……


「まあ落ち着けや。話くらいは聞いてやるからよ」



 私は管を巻きながら酒場のマスターに話し始めた。

 今の私の落ちぶれた原因を作った女について……




 そう、あの憎き女カレリン・アレクサンドールのことを――




 あれは今から8年前。


 私は魔法学園を次席で卒業するほど優秀であった。


 とはいえ貧乏男爵家の次女だった私など適正に扱ってくれる雇い主がいはしない。だけど婚約者と結婚する前に良い所で働いて箔を付けたいと思っていた。


 そんな思いをよそに学園を卒業して早くも2年が過ぎた。


 私ももう20歳である。

 そろそろ婚約者との結婚の時が迫っていた。


 この時の私には少し焦りがあった。


 このまま結婚すれば貴族夫人として夫を支えるだけの人生となる。


 自分の能力を活かすことなく一生を過ごすことになるのは自分の能力に自負のある私には何とも残念な気持ちが強い。


 そんな時、私を教育係としてアレクサンドール侯爵家が招聘しょうへいしてくれた。


 はっきり言ってこれは名誉だ。大出世だ。


 私ならアレクサンドール侯爵の覚えめでたくなり、結婚後の人生も揚々だろう。


 その時はそう信じて疑わなかった……


 教育対象のカレリン・アレクサンドールに会うまでは!


 彼女は当時8歳だった。まだ幼いにも関わらずその美貌は他者を圧倒していた。しかし圧倒していたのは容姿だけではなかった。


 一挙一動、余りにも美しい所作に見惚れた。

 綺麗で完璧な作法にいつも感嘆させられた。

 卓越した頭脳は私のプライドを打ち壊した。

 彼女の内に秘めた巨大な魔力に圧倒された。


 彼女は何もかもが他者を凌駕しており、私の教えることなどすぐに理解し実践してみせた。


 途端に私が教えられることなどなくなってしまった。


 正直に言って私はこの幼女の才能に嫉妬した!

 いったい女神様はこの幼児に何物を与えたのか!


 だが、女神様はこの娘に全てを与えてはいなかった。

 人にとって最も大事なものを……


 人の心だ。


 数ヶ月で私から得るものがないと知ったカレリンは私に汚物でも見るような目を向けた。



「下らない女性ひとね。役立たずに用はないわ」

「――ッな!? お、お嬢様お待ちください!」



 私は必死に懇願した。

 ここで捨てられれば私の未来はない。


 だが、あの女は氷のような冷たい表情を向けた。正直ぞっとした。余りにも美しく、それだけに余りにも冷酷な顔だったからだ。


 恐れに言葉を失った私を無視して彼女は去って行った。そしてゴミ屑を捨てるように私は簡単に捨てられたのだ。


 その後の私は転落の人生だった。


 無能のレッテルを貼られてしまい、どこにも雇用がなくなったのだ。しかもアレクサンドール侯爵から粗雑にされた私は婚約も破棄された。


 行き場のない私が酒に溺れるのも早く、今はこんな王都の場末の酒場で飲んだくれる毎日だ。


 それもいつまで続くか……


 こんな私を実家も見限り始めた。生活も困窮してくるだろう。



「そりゃあ難儀だったなぁ姉ちゃん」



 言葉とは裏腹に声には同情の色はない。酒場の飲んだくれなどみな似たり寄ったりなのだろう。


 私など所詮はその程度の……



「それは大変でしたねぇ。貴女のような優秀な方が何とも理不尽な境遇――同情を禁じ得ません」



 突然、隣の席から聞こえた声に私は驚いた。いつの間に座っていたのか男が私に笑いかけてきた。



「申し訳ありません。盗み聞きするつもりはなかったのですが……」

「別にいいわよ」


「そうですか……貴女もあの悪名高いカレリン・アレクサンドールの手で不幸にされたのですね」

「あの女のことを知っているの?」


「もちろん!今この王都で彼女の悪辣ぶりを知らぬ者はいないでしょう」

「悪辣?」



 私は最後に彼女の見せた氷の表情を思い出し身を震わせた。

 あれには人の心など存在しないのだろう。



「あれはそんな生易しいもんじゃないわ。正真正銘の――悪魔よッ!」

「――まさにッ!」


 その男は喜悦を隠さずに私に同意した。


「私もあの女には煮湯を飲まされた口でして……如何でしょう?私とあの女に復讐を果たしませんか?」

「復讐……ふふふ。いいわね」



 アルコールでまともな判断力を失っていた私は、その男の提案に考えることなく賛同し、彼が出した手を握った。



 男はセルゲイ・ハートリフと名乗った。




 その後、私はセルゲイの伝手で学園の教師となり、あの女の悪行を暴く一助となり、カレリン・アレクサンドールはめでたく処刑されることとなった。



 こうして私の復讐は果たされたのだ……



『酒場にて……カレリン・アレクサンドールの教育係メイヤー・ロッテンの愚痴(『恋の魔法を教えます』設定集より抜粋)』

(恋魔教制作委員会:メイヤーの働きはゲーム本編でご確認ください)

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