第12話 佳音唯桜の思い出(中)
「って、
なに自分のこと棚上げしてあたしの過去に嫉妬してんの!
「だから言いたくなかったんですよ!
あぁそっか。
あのときのことを思い出して、嫉妬しちゃったんだね。
っていうか、あたしが知火牙くん以外の男に抱かれるとかあるわけ無いじゃん。
それにしても......あのクソボケ幼馴染のせいで......。
*****
あれは知火牙くんがうちの職場のバイトに入ってきて4ヶ月くらい経った頃だったかな。
あたしの冷たい態度にめげることなく、宣言通りあたしに構い続けてくる知火牙くん。
そのくせあたしのこと、一切いやらしい目で見たりしてこないし、仕事ももう知火牙くんの方が上手にこなせることも増えてて、すっかり頼れる存在になってきてた。
そのときはまだ好きって自覚してたわけじゃないけど、男の中では唯一警戒しない程度の相手にはなってて、会話だって普通に返す仲になってた。
いつも元気よく挨拶してきて話しかけてくる姿には、犬が嬉しそうにしっぽをブンブンふってる光景を幻視するよう。
身長はあたしよりも10cmくらい高い知火牙くんだけど、可愛い弟ができたような気分だったかな。
そんな頃だった。
仕事終わりの疲れてる時間に、あいつはあたしの前に顔を出しやがった。
「やぁ唯桜。久しぶりだね」
「っ!? ............
「丙午だなんて苗字で呼ぶなんて随分他人行儀じゃないか。僕たちは幼馴染で、初めてのキスを交換した仲じゃないか。昔みたいに『
「は? イヤに決まってんでしょ。つーかあたしに近づかないでくんない? こっちはあんたの顔も見たくないんだけど?」
「ははは、そんな邪険にすんなよ。俺たちの仲だろ?」
「あたしとあんたの間に特別な関係があるような言い方止めてくんない? まじで不愉快だから」
昔から変わらない軽薄な笑みを浮かべてあたしに近寄ってきたこいつは、
不本意ながらあたしの幼稚園の頃からの幼馴染だ。
..................
「まぁまぁ、そう言うなって。話が進まないから単刀直入に言うけどさ、僕は今日、唯桜を改めて口説きにきたんだよ」
「は? まじで何いってんの? あたしがあんたなんかに口説き落とされる可能性があるとでも思ってんの?」
「可能性はあるかなって思ってるよ。とりあえず、お近づきの印に。ほい」
そう言ってあいつがあたしの前に出してきたのは100万円の札束3つ。
それをまるでゴミでも捨てるみたいに道の真ん中に投げ捨てやがった。
「......なにこれ」
「何って、お金だよ。僕、金持ちになったんだよね。こんな端金くらい捨てても惜しくない程度には。拾っていいよ? もちろんそれを拾ったからって僕と付き合えなんて言わないしね。どうだい? あの頃に比べて随分男らしくなったと思わないか?」
端的に言って、キモすぎた。
お金を持ってるのはいい。努力したのかもしれない。成功したのかもしれない。
だけど男らしさとか言って、履き違えすぎててムリだわ。人間としての魅力が致命的に欠けてる。
こんなやつと幼馴染だなんて、それだけで恥ずかしいレベルだし。
「普通にキモすぎてムリだから。男らしさもなんもないし。つーかなんで現れたし」
あたしのその質問に対する答えが、こいつ史上一番ありえなかった。
「いやぁさ。もうそろそろ赦してくれてる頃かと思ってね。友達から唯桜が大学に入ってデビューしてるってのも聞いてたし、あれから男を寄せ付けてないし彼氏も作ってないっぽいし」
「....................................で?」
「なんだかんだと悪態ついてるけど、僕のこと待っててくれたんだろ? 髪なんか染めちゃってさ。僕は昔みたいな黒の方が唯桜には似合ってると思うけどね。今度黒に染め直そうな?」
「............................................................................................................はぁ!?」
心の底から意味がわかんなくてあいつの言ったことを理解するのにたっぷり時間がかかった。
「マジのマジで本気で一切全くもって意味不明だから。あんたの好みも興味ないし、そもそも女は自分のために自分を飾ってるの。男の気を引くためにやってるわけじゃないから。そういう勘違いしてる男、ホントキモいからね?」
「あはは、もうツンはいいから、そろそろデレがほしいな?」
話聞いてないな、こいつ。通報したほうが良い?
「あんたにあげるデレなんてないっつーの。はー、もういいから消えて」
「そう言うなって、なに、300万じゃ足りなかった? いくらほしいの?」
「お金に物言わせて女を従わせようとするやつがいっちばんナイから」
「おいおい、どうしたんだよ。あ、もしかして僕が待たせすぎたのを怒ってる? あちゃー、あと数年早くてもよかったかー。失敗したなー。いいからこっちに来い!!!!」
うわやばっ、手ぇ掴まれた!?
さっきからやばいと思ってたけど、コイツ、ガチでどっかイカレてんじゃないの!?
あたし逃げた方がよくね?
でも、コイツ、力も思ったより強い......。それにお金もってるっぽいし、今逃げれても後々逃げ切れる?
あたし、超ピンチだ......。
「ほら、初キス相手の幼馴染が迎えに来たんだ。ホテル行くぞ」
「あ、あれはあんたが無理矢理したんでしょ!? あたし、一生あんたを許さないって言ったよね!?」
「うるさいっ! 黙ってついてくりゃいいんだよ!」
「やめろって!」
「..............................幼馴染のよしみで最初は優しく犯してやろうと思ってたけど、気が変わったわ。おもっきし処女膜ぶち破ってぐっちゃぐちゃに汚したおしてやるよ」
「ひっ......」
野獣みたいな顔で睨みつけられて、気弱な女の子みたいな声をあげちゃった。
強い力で引っ張られて逃げられない。
これじゃあ今まで強い女の仮面をかぶってきた意味が......。
..................あたし、こんなクソ野郎にハジメテ奪われちゃうのかな......。
トラウマを植え付けてきやがった元凶に、人生めちゃくちゃにされちゃう、のかな。
「泣き叫んでも赦してやらねぇからな」
......もう、だめか。
「ちょっとそこの彼〜、そういうの辞めましょうよ〜」
「「え?」」
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