第9話 火曜日の佳音唯桜

「あ、ピアス、もしかして全身新しくした?」


「へへっ、気づいたぁ? そーなの! 雑貨屋さんで売ってるの見かけて可愛かったから買っちゃった♪」



 やっぱり知火牙ちかげくんなら気づいてくれるよね〜。


「うんうん。唯桜いおさんに凄く似合ってます。耳の方の黒のハートのピアスは唯桜さんの金色の髪によく映えてますし、胸の方のピンクの鈴付きのも扇情的ですし、臍の赤と青のやつは......炎モチーフ、ですかね? カッコいいですね!」


「ありがと♪ そうなんだよね。このへそピは炎のチャームだよ。もちろん、知火牙くんの名前の『火』から連想したの! めっちゃ可愛くない?」


「ですね。すっごく可愛いです! それに、唯桜さんが俺のだって表現してくれてる感じで、嬉しいです」


「......あたしが知火牙くんのものって証明なら、もう半年も前に彫り込んでるでしょ。他の男の名前をこんなとこに彫ってる女、もらってくれる人とかいないから」



 あたしが知火牙くんに落とされて堕とされきってからまだ半年ちょっとしか経ってないんだよね......。

 2つも年下のくせに、あたしの身体好き放題しやがって......。知火牙くん、ホントゴミクズ。


 ......下腹部のタトゥーだけは、あたしが知火牙くんを逃げられないようにするために自主的に彫ったわけだけど......。

 今やあたしが知火牙から離れられない楔になってるし......。知火牙が喜んでくれるからいいんだけどさぁ。


 あたしが知火牙のお願いならなんでも聞くってわかってるからか、ほんと容赦ないんだよね。


 今更きれいな身体には戻れないんだよ?

 万が一にでもあたしを捨てようとしたりしたら、そのときは......。


「何言ってるんですか! 唯桜さんはこんなに素敵なんですよ!? 身体にちょっとしたアクセサリーがあるくらい何のハンデにもなりませんよ。むしろしょーもない男が寄ってくるかも......。浮気したらどうなるかわかってますよね? いい加減、自分の異次元の素敵さを自覚してください。俺、唯桜さんがいなくなったら生きていけませんからね? 絶対に離さないから」


「んもぅ、誰にでもそういうこと言ってるでしょ! わかってんだからね!」


「誰にでも言ったりしませんよ! 本心から思ったときだけです!」


「むぅ、どっちにしてもあたし以外にも言ってるんじゃん!」



 やっぱ知火牙くんはチャラいなぁ〜。褒め言葉が全部軽いんだよ!

 ......でも嬉しくなっちゃうんだよなぁ〜。あたしもバカだよねぇ。なんでこんなクズを好きじゃなくなれないんだろ......。


「ところで唯桜さん?」


「ん? どしたの?」



 なんて惚けたふりして聞いてみたけど、知火牙くんの荒い息遣いと目線見たらわかっちゃうんだけどね♪

 だってさっきからあたしの胸の先っぽについてるピアスばっかりみてるし、触りたいんだろうなぁ♡


「............コレ、いじりたい?」


「はい」



 くふふっ、知火牙ってば可愛いっ。私に懇願するようなその目。愛おしいなぁ。

 でも、流石にそんなに見られたら恥ずかしいよぉ。


 シャリン。シャラシャラシャラシャラ。


 ....................................っくっ......ふぅ......。

 知火牙、相変わらず遠慮なく弄り回すなぁ。


「意外と音はおっきくないんですね? なんていうか、鈍い音?」


「そ、そうだねっ。シてる最中にうるさかったら、イヤでしょ? だ、だからうるさくないやつに、したんだよねっ」


「なるほど。確かにこれなら騒がしくないですね。さすがは唯桜さんです!」


「で、でっしょ〜?」



 ......知火牙ってばいつまでイジってんだろ。

 そんなに良かったのかな?


「いつも聞いてるけど、知火牙ってこんな真っ平らな胸見て触って、興奮するの? AAカップだよ? 身長ばっかり高くて......女らしくない身体だし......。もし知火牙くんがあたしに気を遣って言ってくれてるんだとしたら............知火牙くんが二度とあたし以外の女の身体を見れないように目玉くり抜いて手足切り落として、あたしの部屋で飼ってあげて、本心からあたしの身体だけが大好きって言うまで調教してあげる、よ?」


「もー、まだそういうこと言います? 俺の大好きな唯桜さんの身体を悪く言わないでくださいよ。それに最近ではそういうの、シンデレラバストとかって言うらしいですよ? ステータスですよ。自信持って胸張っててください。身長だって、俺からすれば別に高すぎるってことはないですし。......っていうか唯桜さん、俺にこうやって言わせるためにわざと言ってるでしょ? そうじゃなかったらずっとそんな格好で待ってるはずないですもんね?」


「うっ......。そうですけど!? 知火牙くんがこんな貧相な身体にいっつも興奮してくれるから!? 嬉しくなっちゃって無様にも部屋で脱いでワクワクしながら待ってましたけど!? コンプレックスなこの胸を褒めてほしくて、注目してもらうために乳首ピアスも新しくしましたけど!? それがなにか!?」



 あたし、何恥ずかしいこと口走ってんだろ......。

 それにしても知火牙くん、本当に何言っても動じないなぁ......。


 あたし結構本気で脅したつもりだったのに、顔色1つ変えてくれないんだよねぇ。


「うーん、そういうとこも相変わらずめちゃくちゃ可愛いですねぇ。俺と2人のときはいつもの強気ギャルなふりなんてしなくて良いんですよ?」


「は? フリとかしてないんですけど〜?」


「あはははは、今更そんなこと言います? もう全部バレてるのに?」


「何言ってるかわかんないんですけど〜? 知火牙くんはせっせとあたしの言う事聞いて、泣いて喜んでれば良いんだよ〜。みんなの前であたしに傅く無様な姿晒してたら良いんだよっ!」


「わかりました。そうですよね、俺は唯桜さんの言うこと聞いてればいいですよね」


 あぁもう止めてよあたしの口! それ以上余計なことを口走んな! 無様なのはどう見たってあたしの方なのは自覚してるでしょ!

 知火牙くんも、こんな嫌味言われてるのにそんな爽やかな笑顔返してんじゃないよ、もう!


 4股以上が当たり前のハーレム主の変態クズ男なんかの傍にいさせてもらうために......喜んでもらうために、普通じゃないところにピアスしたり、彼の名前をお腹に彫ったり、抱いてもらうために裸で誘惑したり......。

 恥ずかしいから仕事先とかみんなの前ではあたしがSで知火牙がMみたいに振る舞ってもらってるくせに、2人っきりになったら......っていうかベッドに入ったら逆転するし。


 何度も寸前で止められて、欲しかったら自分で動いてよ、なんて言われて惨めに腰振って......。年上の尊厳なんて全部ぶち壊されてさ......。

 そのくせ初めての赤ちゃんを産む権利は別の年下女に奪われそうになってるし。


 あぁ、考えだしたら泣けてきた。

 あたし、情けなすぎでしょ。


「とりあえず」



 知火牙の表情がまたヤラしくなった。あぁ、あたし今から抱かれるのかな。


「唯桜さん、そんなカッコじゃ寒いでしょ? 一旦俺の上着着ててください。いくら温かいとはいえ、風邪引いちゃいますよ」



 あ、え?


「シないの?」


「シますよ。でも、唯桜さんの体調が悪くなったら困るじゃないですか。俺の準備ができるまでなんか着て冷えないようにしててください。そんで......はい、ソファここで座って待っててください。それとも唯桜さん、今日はしんどいですか? もう寝ますか? それとも2人で映画でも見ます?」



 ......くそう。

 この後あたしを思いっきり鳴かせるつもりのくせに......何身体を気遣ってんのよ。

 すぐそーやって、身体だけが目的じゃないってチラつかせて、あたしの心の隙間に入り込んでこようとする。


「............元気いっぱいだから大丈夫......」


「ほっ。そうですか、じゃあ、お腹冷やさないようにして待っててくださいね」



 ............わかってる。これは完全なDV男のやり口だ。上げて下げてを繰り返す。アメとムチを使い分けて女をいいように扱う最低のやり方だ。

 こんなクズに身も心も捧げたって良いことなんて..................。まぁいっぱいあるけど。


 っていうか元気なのは見たらわかるでしょ。もうよだれダラダラなのよ。床にまで垂れてるんだからわかるでしょ。これ以上洪水状態にさせて、どうするつもりなの!

 大体裸で帰りを待ってるんだからヤル気まんまんなのは一目瞭然でしょ!


 そこはソファに座らせるんじゃなくベッドに運ぼうよ!


「ソコも拭かないと。そんなにビチョビチョのままじゃ冷えちゃいますよ。ほらぁ、もうソファにもついちゃってるし」


「うるさいよ! こんなロリ体型に興奮してる変態ロリコンに心配されたくないから!」



 また言っちゃってる......。変態はどう見てもあたしの方なんだってば......。


「何言ってんですか。唯桜さんにロリ要素なんて胸の膨らみくらいのもんでしょ。言動も見た目も、その開発されきった身体も、完全に素敵な大人のお姉さんじゃないですか。あんまり俺の好きなものを貶めないでくださいよ」



 誰にでも甘い言葉を吐く悪い口だね。

 知火牙くんがそんなんだから、あたしは余計なことを口走っちゃうんじゃん。


「あはっ。じゃあ、知火牙はロリ体型のお姉さんが大好きなんだ? あたしのこと、一番好き?」








「唯桜さんは誰より俺のわがままを聞いてくれますし、ツンツンしてるっぽいのにすぐにデロデロになるとこも、めっちゃギャルなのに仕事のときはすっごい真面目にするところとか、ギャップエグくて好きですよ。性格だけじゃない。俺専用に仕上げてくれてるその身体も、いつも仕事でも助けてくれたりする優しいところも、全部、愛してますよ」



 ほらやっぱり。『一番好き』だとは言ってくれないよね。

 藍朱あいすちゃんも衣莉守いりすちゃんも玲有れいあちゃんもいるし、みんなに等分の愛を分けてるんだもんね。


 最低すぎる。普通の女の子なら、絶対すぐに冷めるよ。

 でもあたしは肩にかけてくれた上着1つだけで。愛してるって言葉だけで......。


 ほんっと、チョロい女だよなぁ。


「ほんと最低! 知火牙くんは本当にどうしようもない女たらしのクズだね! こんなことした上着くらいであたしが知火牙くんに心を許すなんて思わないでよね!」


「あはは、なんですかそれ。今までまだ心許してくれてなかったんですか? これ以上許してくれるって、一体どうなっちゃうんだろ」



 爽やかにはにかむな! 可愛すぎるんだから! キュンキュンしちゃうから! おもらししちゃうから!!!

 はーもう、なんでもいいからあたしのこと好きにしなさいよっ。


「にしても、なんか今日はやけに噛み付いてきますね。サービス良すぎですよ。出会ったばっかりの頃の唯桜さんみたいだ」



 あ、まだ焦らすんだ。


 けど、知火牙くんと出会ったばっかりの頃、か。もう2年以上前なんだよね。

 確かにあのころは知火牙くんと......男の子と仲良くするなんてありえないって思ってたな。

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