第9話 転生
俺は落ちていく。
何もない暗闇の世界に。
≪魔法起動≫
その時、虚無の暗闇に唐突に音が響いた。
無機質な女性の声。
それはどこかで聞いた事のある声だった。
≪条件チェック≫
再び響く。
音の響いた方向へ目をやると、そこに小さな青い光が揺らめいていた。
≪オールグリーン≫
三度音が響く。
音の発生に合わるせかの様に青い光りは大きく膨らみ、そして姿を変える。
美しい女性――
愛しい彼女の姿に。
これは夢だろうか?
人生最後の夢……
「夢ではありません。これより
青く輝く彼女は、その美しい唇をから言葉を紡ぎだす。
夢じゃない?
「ミスター高田。貴方は死亡されました。これにより、マスターウロンが貴方にかけた
転生魔法?
ひょっとして、またウロンがかけてくれたって事か!?
なんだよウロン。
何だかんだ言って、俺と離れたくないんじゃないか。
あのツンデレさんめ!
生き返ったら全力でキスしてあげよう。
「残念ながら、その妄想は鼻で茶を沸かすレベルの勘違いとなります」
頭の中の妄想を覗き込んで、勝手に憐れむのは止めてくれません?
「今回発動した魔法は、以前マスターが貴方に誤ってかけてしまったものです」
「以前かけた?」
「発動時に条件が満たされていなかった為、不完全に発動、転移部分の機能以外が
ひょっとして、初めて会った時に掛けられたあれか?
「俺が生きてたから不発して、それで死んだから改めて転生が発動したって事か?」
「はい。ミスター高田が死ぬのを待ちわびておりました」
嫌な言い方しやがるな。
流石ウロンのアバターだけはある。
「お褒めに預かり恐縮です」
「褒めてねーよ。ていうか、勝手に人の心読むなよ」
「では、
無視かよ!
「転生するに当たり、ミスター高田の新たな肉体には神からの恩恵が授けられます」
「ん?それってガチャじゃ?」
「ガチャはメインの天恵となり、これから与えられるものはおまけの様な物です。本来は」
ああ、何となく言いたい事は分かる。
BとかAを引いてりゃ、おまけみたいなもんだったと言いたいんだろう。
「その通りです。残念ながらミスターはゴ……Fランクを引かれたため、メインとほぼ同等の役割を担う事になると思われます」
こいつ今、ゴミって言おうとしただろ。
絶対に。
「気のせいです」
アバターは顔色一つ変えずに、涼しい顔で微笑む。
こんなところまで、本当にウロンそっくりだ。
「それでは話を続けさせて頂きます。此方の恩恵に関しましては、本人の希望に沿ったカスタマイズが可能となっております」
彼女が手をさっと横に振ると、何もない空間に4つのパネルが現れる。
パネルにはそれぞれ、スキル・ステータス・ヴィジュアル・SEXの文字が浮かび上がっていた。
なんか、一つとんでもないのが混ざってるんだが?
「卑猥な想像はお止めください」
無理です。
健全な青少年に、無理な要求をするのは止めてください。
「はぁ……SEXは性別変更を意味します」
アバターはこめかみに手を当て、深々と溜息を吐く。
ウロンは下ネタを平気で連呼するが、アバターの方はどうやらそちらの類は好みではないらしい。
似ているようで、ちゃんと違いはある様である。
「性別なんか変更できるのか。ていうか、そんなの選ぶ奴なんかいるのか?」
変えてどうするとしか言いようが無い。
「過去の
まじかよ!
世の中どうなってんだ!?
「因みに、性別を変更された方は100%の確率でヴジュアルのカスタマイズも同時に行っており、
「リソース?」
「カスタマイズを行う際に消費されるエネルギーです。カスタマイズは
無制限ではない、か。
まあ当然と言えば当然の話だわな。
「性別を変更されますか?」
「いや、しねーから!」
ウロンと結ばれるのが最終目標だってのに、性別を変更してどうする!?
いや、でも女の子同士ってのも案外……
「気持ち悪い妄想のところ申し訳ありませんが、性別を変更するのでしたらヴィジュアルの変更も強くお勧めします」
「なんでだ?」
おれじゃあ女になっても微妙だって言いたいのか?
確かに花のある顔じゃないから、女に変わっても地味子になるのは目に見えている。
だが俺だって化粧の一つもすりゃ……
「性別の変更はあくまでも男性器が女性器に変わるだけですので。ヴィジュアル変更無しですと、完全に誰得になってしまいます」
「見た目男のままかよ!」
地味子以前の問題だった。
成程、そりゃセットになるわけだ。
「では早速性別変更の処理を……」
「いやいや、だからしねーから!」
百合百合の妄想で一瞬良いかもとは思ったが、そんな物は一時の気の迷いだ。
本気で性別を変える訳がない。
「そうですか」
何だか少し残念そうだ。
ひょっとして、アバターはそっちの気でもあるのだろうか?
「いえ。単純にそちらの方が面白そうだと思ったまでです」
うん!
やっぱりウロンのアバターだ。
彼女は。
「性別変更は抜きにしても、ヴィジュアル変更はお勧めですが。如何いたしましょう」
捕らえようによってはすっごく失礼なお勧めな気もするが、ここはスルーする。
「ヴィジュアル変更は止めとくよ。ウロンには見た目じゃなく、ハートで好きになって貰いたいから」
ちょっと格好つけすぎたかな?
だけどこれが俺の本当の素直な気持ちだ。
アバターは俺の言葉に感動したのか、彼女の目元にうっすらと涙が浮かぶ。
「ゴールの無い無意味な苦行ですが、頑張ってください」
おう!
言われるまでもない!
男は黙って前進あるのみだ!!
「とりあえず弄るのは、ステータスとスキルだな」
ハズレスキルというハンデを背負っている身だ。
出来れば効率よく割り振りたいところ。
「例えばさ。リリーと同じようなステータスにして貰った場合、どの程度その
リリーの身体能力は、人間の中ではトップクラスだろうと思われる。
その彼女を例に出して聞いてみた。
「リリー・アッシャーと同等のステータスにした場合、50%程消費すると思われます」
ふむ、50%か。
つまり100%使えば、リリーの二倍の能力になるって訳だな。
そこまで上がるのなら、ステータスに全振りもありだな。
何せスキルは自分で付加できる。
「残念ながら、そうはなりません」
「なんでだ?」
「ステータスは高ければ高くなる程、リソースの消費割合が跳ね上がります。もし仮に100%注ぎ込んだとしても、そこから3割程度の上昇しか期待できません」
3割増しか。
いやまあそれでも十分強力だし、ステータス全ぶっぱで決まりかねぇ。
「決めるのはスキルの説明を聞かれた後でも遅くはないかと」
正直、自分でスキルを詰め込める以上、習得する意味は薄い。
けど、Sランクの入手難易度が糞高い事を考えると、リソースの消費次第では候補になりえる可能性もあるか。
まあ、とりあえず話だけでも聞いておこう。
「そうだな。説明してくれ」
「了解しました。説明に関しては、FからAまでは割愛させていただきます。ミスター高田のガチャスキルを考えれば、その辺りまでは自力で入手するのも難しくないでしょうから」
「ああ」
「リソースの消費に関しては、スキル枠拡張が20%。Sランク取得が10%。
「
聞いた事のない単語に首を捻る。
自分の知る限り、ランクはS~FにZを合わせた8個だ。
「Sランク以上の効果を持ち、神の領域に近しいスキルを
そんなランクがあったのか。
ウロンはそんな話、一切しなかったんだが。
「入手がほぼ不可能であるため、省かれたのかと」
まあSランクですら貴族の家宝や、国宝級だからなぁ。
たしかにそれ以上の物なんて手に入れるのは絶望的か。
「消費的にSランク7つ分なんだけど、それに見合う価値ってあるのか?」
「それは習得するスキル次第になるかと。因みに、ミスターが習得できるのはオートガードのみとなります」
選べねぇのかよ!
しかもなんか微妙そう!
まあでも俺には等価交換があるから、用途に応じて変換すればいいだけか。
「神の領域に近しいExスキルの変換を行う場合、およそ十年分の生命力を消費する事になります。もしご利用されるなら、計画的に私用する事をお勧めします」
なにそれ!?
1回変更させるだけで。10年も寿命が縮むって事か?
たった1時間で元に戻るのに、10年分とかぼったくりすぎだろ!
「因みに……完全に神の領域である転生ガチャと、生物への変換には1000年分の生命力が必要となるため実質変換不能となっています」
まあ1000年も寿命ないから、そら使えんわな。
対象に出てこないのはその為か。
「それで、オートガードってのはどういうスキルなんだ?」
「意識の外からくる攻撃に反応して、自動的に回避や防御行動を行うスキルになります」
「名前のまんまだな。ていうか、説明聞く限りそこまで強力そうには思えないんだが?」
「この世で最強の攻撃方法、それは不意打ちです。どんな強者も、意識外の不意を突かれれば脆い物。それを自動で反応してくれる分けですから、正にExランクに相応しいスキルと言えるのではないでしょうか」
そういう風に言われると強そうだとは思うが、それでも70%も消費する価値があるのかと問われれば、正直うーんとなる。
ガチャで当たりを引けていれば、不意打ちさえ防げば後はスキルでどうにでもなる感じで相当便利なんだろうが、俺のスキルじゃなぁ……
「オートガードと等価交換は相性がいい為、それほど悪い選択肢ではないかと思われます」
「相性がいい?」
「スキルや飛び道具など、不意打ちが変換可能な攻撃の場合はオートガードが等価交換を使用して防いでくれます」
「へぇ……連動するのか」
「はい。ですので、今回ミスターの死亡原因に繋がった
あー、確かに。
魔人ズィーの顔を思い出す。
例え転生で生き返ったとしても、同じ様に攫われて殺されたのでは意味が無い。
「さらに付け加えるなら、地味に能力を上げるよりExスキルを習得した方がマスターウロンの受けはよろしいかと思われます。アバターの私が言うのですから、間違いありません」
「よし!Exスキルで決まりだ!」
そこそこ優秀で、しかもウロンの気を引けるならもはや迷う必要などない。
俺は愛に生きる!
「残り30%に関しては、スキル枠拡張とSランクスキル1つをお勧めします」
「ステータスには振らずにか?」
「はい。ミスターはまだ16と若く、ステータスに関しては訓練次第で如何様にも伸ばせます。ですので訓練ではどうにもできない拡張と、現状を生き延びるためのSランクスキルがお勧めとなります」
確かにステータスは、努力である程度伸ばせるからなぁ。
そう考えると……
ん?現状を生き延びる?
「生き延びるって、どういう事だ?」
「お忘れになられたのですか?あなたは魔人によって、魔族領へと連れ去られたのですよ」
「え!?ひょっとしてその場で復活しちゃう感じなのか?」
「転生魔法の転移部分は以前発動してしまっているので、そういう事になります」
ちょっとまて!
それだとズィーにまた殺されるだけじゃ無いか、生き返っても!?
転生する意味ねぇ!!
それとも転生魔法による強化で、何とか倒せたりするのか?
「不可能です。ですがご安心ください。魔人ズィーは既にミスターの遺体を遺棄し、その場を離れています。生き返った所で、いきなり殺されることは無いでしょう」
ああ、そうなのか。
あせらせんなよ。
「とは言え……魔族領からの単独での帰還は、相当危険が伴うものとなります。それを避ける為のSランクスキルです」
「Sランクスキル1つで何とかなるのか?」
「スキルを等価交換で転移魔法に変換すれば、比較的安全に帰還できるかと」
「おお!その手が有るか!」
転移魔法さえあれば、アーリィ達の所までひとっ飛びだ。
「如何いたしましょう?」
「それで頼む!」
「了解しました。Sランクスキルはミスターに最適と思われるものを、こちらでチョイスしておきます」
そう言うとガイドアバターはにっこり微笑み、光の泡沫となって消えてしまう。
≪条件クリア≫
≪
無機質な音が世界に響く。
突如視界が弾け、俺の意識は真っ暗闇の
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