飯島-1
飯島が取調室に入ると小御門が顔を上げた。
白いワイシャツは、だいぶ皺ができていた。
「警察というのは乱暴なんですね」
「驚きました? 無抵抗の相手でも容赦なく引っ張るんですよ」
バン、と机を叩くと、小御門の方が上がった。
「しっかり話してもらいましょうか」
進藤の取り調べが終わったあと、即座に小御門の確保に向かった。
向井が逮捕されていたことを聞いていたからか、彼は逃げも隠れもしようとしなかった。
「嘘などは無しです」
「ええ」
いやに素直だった。飯島は椅子には座らず、相手を見下ろしながら取り調べを始めた。
「まず、違法薬物取引に関しては」
「事実です。売買で生じた金も懐に入れてます。共犯の研究員や同僚の名前も教えましょうか」
「待て。なぜそこまで口が軽いのですか」
「……わかるでしょ? 黙ってても殺されるからですよ。ここから出たとしても殺される。ならせめて、足を引っ張りたいじゃないですか」
「「シシガミユウキ」ですか」
「ええ」
「そこまで恐れる存在ですか?」
「逆に聞きたいくらいだ。あれを見て、恐れない人間がいるなら、靴でも舐めますよ」
飯島は眉をひそめた。なにはともあれ、口が軽いのは助かる。
飯島は小御門から名前を聞き出す。特徴も。
絡んでいたのは科捜研の者や、六面共産並びにノット・シークレットの研究員もだった。多くの人間が甘い汁を啜っていたらしい。さらに小御門は住所や電話番号、異性関係まで喋り始めた。
目が必死だったため、飯島は口を挟まなかった。
しばらく喋り続けて疲れたのか。小御門は数回咳をして。
「以上です」
と言って口を噤んだ。
飯島は次の質問に移る。
「警察関係者の方は?」
「……そこまでは把握してませんよ」
「いるんですね」
「……」
「それはこちらで見つけ出しましょう。では計画については?」
「計画? ああ……黄瀬悠馬氏を捕まえればわかるんじゃないですかね」
「もうひとつ。本郷朝日の件に関してです。あなた達は結果を偽造したのですか?」
小御門は真剣に飯島を見つめ。
「してない。嘘を吐いてない」
力強く、そう言った。
ΠΠΠΠΠ─────────ΠΠΠΠΠ
BMWのハンドルを握る本郷の顔は険しかった。
助手席の飯島はタブレットを操作する。
「マジかよ。六面共産。上層部までズブズブじゃねぇか。ワクチンより、魔法使える薬の方が儲かるってことか」
「……」
「本郷。顔が怖いぞ」
「怖い方がいいでしょう」
「今から会う人がビックリして心臓発作起こさないといいけど」
「……俺はどうしても信じられないんです。朝日が嘘を吐いていたなんて」
「わからんだろ。人は必ず嘘を吐く。ただどんな理由で嘘を吐いたのか。それが重要だ」
「源さんは朝日がワクチンを打ってないと、思ってるんですね」
「答えはすぐにわかる」
2人の間にそれ以上の会話は無くなった。
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