《禁忌の星》

 テラリアンの母星である太陽系第三惑星《地球》のこと。


 西暦二〇六〇年、ひとつの彗星が地球の傍らを掠めて過ぎた。長く尾を引いたのが暮れなずむ夕の空だったから、その彗星は《黄昏の魔女》と呼ばれることになった。太陽風に炙られて長く伸びたその彗星の尾の中を地球は通過した。


 そのこと自体はとりたてて珍しいことではなかった。例えば、テラリアンの暦であるところの西暦一九一〇年の五月一九日にも 地球は、当時接近していたハレー彗星の尾の中を通過している。

 このときは何も起きはしなかった。彗星の尾はほとんどが軽いガスでできており、ぶ厚い大気に弾かれてしまったからだ。

《黄昏の魔女》でも同じことが起きると予想されていた。


 だが──。

《黄昏の魔女》はただの彗星ではなかった。

 その彗星の尾と地球が交錯した時。地球の大気の色がわずかにピンク色を帯びた。ガスとともに放出されていた何らかの物質が、大気にぶつかったが弾かれずにすり抜けて内側へと忍び込んだのだ。


 現在では、大気に浸食したこの物質は彗星から放出された先史銀河文明の残したナノマシンであろうと推測されている。

 そのナノマシンには生物を強制的に進化させる・・・・・・・・・・・・能力が備わっていた。


 ナノマシンは地球に存在する全ての生物の体の中──とりわけ生殖細胞の内側へと入り込み、遺伝子情報を書き換えたのだ。

 地球大気は《黄昏の魔女》がもたらしたオーバーテクノロジーのナノマシンの力で汚染されたのだった。

 地球の生物相は一変した。


 大気に原因があると判ると、その時点で地球外に移住していた人々は地球に還ることはできなくなった。

 こうして地球は封鎖された。


 以後1000年。《地球》は、静止衛星軌道を回る16機の地球環境監視衛星ラタトスクが見張りつづけているが、地球側からは何の応答もない。


 地球は現在も《禁忌の星》として封鎖されたままである。


※「地球」の項も参照

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