りおんフレンド-001


「いやっ、だからさぁ、あれは違うんだって! あいつ、俺が昼寝してる間に仕掛けてきたんだぜ!? そうじゃなかったら一撃で返り討ちにしてたんだって!」

「ほぉーん」

「んおおおおお信じられてない!」

「ここの団子美味しいですね」

「そもそも話すら聞いてなかった感じか!?」


 信じてくれよォ! と叫びながらのたうち回るのは、先程までキメ顔で握手を求めてきていたリオン・ディ・ライズであった。


 あの後、『旅行中に悪かったな、お詫びくらいはさせてくれよ』とのことで高級団子屋に連れてかれ、二人並んで団子に舌鼓を打っていた。

 因みにミラは『ジジイに呼ばれちまったからよ、行ってくる』と言い残して去って行った。それで良いのか、護衛……。


 まあ、状況的に見れば護衛・監視役をライズさんに代わってもらった、という形になるのだろうが。

 ヴァルキュリア呪術騎士学校、色々とガバガバ過ぎるだろ。


「でも再戦を挑んでないってことは、勝てないって思ったからじゃないんですか?」

「おいおい、あまり痛いところ突くなよ。泣いちまうぞ?」

「図星なのかよ……」


 こんな軽口に屈しないで欲しかった。さっきまで纏ってた如何にも兄貴分ですみたいなオーラは何処に落としちゃったんだよ。


 今すぐ探して拾ってこい、絶対に必要だから。


「ていうか、そう。ミラの……お兄さん、なんですか?」

「まさか、ただの先輩後輩関係だよ。まあ、普通の……って言うにはちょっとばかし親密かもしれんが。ミラの言葉遣いが変なのは、流石にもう分かってるだろ?」

「ああ、やっぱりアレはそっちでも変なんですね」

「呪術騎士が全員あんなんだったら、俺は呪術騎士やめてるって」


 どのような人が見ても不快感を与えなさそうな、実に清涼感溢れるイケメンらしい笑みを浮かべるライズさんだった。


 客観的に見て腹が立たないくらいのイケメンを見るのは久し振りだな、と思った。それこそ立華くん以来じゃないだろうか?


 まあ、その立華くんは今や、ほとんど男性体の姿を忘れつつあるのだが……。


「それより、敬語はやめにしないか? ついでに『さん』付けも、俺はあまり好きじゃないな。リオンで良い、俺もきみのことは、甘楽って呼ばせてもらうからさ」

「……ミラみたいなこと言うんだな、リオンは」

「逆だ逆。ミラのやつが、俺を真似してるんだ」


 呪術騎士は内向的なやつが多いからな、と少し懐かしむように言うリオンだった。確かにこれは、ただの先輩後輩関係という訳でもなさそうである。

 どっちかっていうと幼馴染とかの方が近いのかもしれない。


 直接出会ったことのある呪術騎士がラウレストおじいちゃん先生とミラだけだったので、てっきり呪術騎士ってのは距離を強引にでも縮めてくる人種が多いのかと思っていたのだが、そうでもないらしい。


「上澄みともなればまた話は別だがな。呪術騎士って存在である以上、一周回って弾けてるやつは多いよ」

「リオンはそうは見えないけど」

「そう見えるよう努力してるからな、俺はじいさん──うちの校長の方針には反対派なんだ」

「ああ、あの技名叫ぶやつ……」


 一応反対派もいることに、心のどこかで安堵する俺がいた。同時に、反対派でありながらもトップを維持しているリオンに、少しだけ底知れないものを覚える。


 何故ならそれは、どれだけ消費してもなくならない負の感情が、腹の底ではごうごうと燃え続けていることの証左であるのだから。


 人をこういう見方はしたくないのだが、どうしても呪術の構造上そう見えてしまう自分がちょっと嫌だった。


「それより、だ。もっと聞きたいことがあるんじゃないのか? 例えば──」

「第三の破滅について? ぶっちゃけ、聞かなくても良いかなと思ってる」

「あれ!? 何でだ!?」

「何でも何も、リオンも第七秘匿機関の一員だろ。見れば分かる。それなら帰ったあと、報告書読んだ方が手っ取り早いっていうか……」

「おいおい、ドライなやつだなあ。報告書だけじゃ分からないことだってあるだろう? な!?」


 聞いてくれよ~と全身でアピールしてくるリオンだった。精神年齢が高いのか低いのかイマイチ分からない人だな……。


 正直なところ、今聞くと超長話になりそうだから嫌だってのもあるのだが……何せ、未だにアイラ達と俺は連絡が取れていないのだ。


 ミラは濃い呪力のせいで方向感覚が狂うとは言っていたが、恐らくそれだけではない。

 多分、電子機器も軒並み不具合を起こしている。そう考えれば、ナビが上手く機能しなかったのも納得というものだった。


 魔力でも似たような現象は起こるから、力という側面で見ればかなり近似の存在なんだろうな。

 とはいえ似ているだけであり、同一視はしてはいけないのだろうが。

 魔力対策はされている杖が不具合を起こしている訳だしな。


 しかし、まあ、リオンの言うことにも一理ある。

 より多くのことを聞くのならば、やはり口頭で聞くのが一番情報を得られるのは間違いないだろう。

 この先関わることは少ないだろうとは言え、友好的な関係を作るのはマイナスにもならないし。


 でも俺、今日は遊びに来てるんだよなぁ……。

 修学旅行に来てまでする話じゃないだろう──いや、あるいはこのために、わざわざ旅行先を日乃和にしたのか?


 だとしたら一発くらいは校長をビンタしても良さそうなものであった。いや、する前に打ちのめされる気はするのだが……。


 しゃーない、切り替えるか。

 ふー、と長めのため息をこれ見よがしに吐き、それから団子を頬張った。

 ゴクリと喉を鳴らして茶を啜る。


「……俺、まず第三の破滅が出たって話すら聞いてないんだけど。それに、そもそも第二の破滅からの出現インターバルが短すぎないか? 一年も経ってないぞ。いや、それは第二の破滅の時もそうだったけど……魔王のセンサーにも反応しなかったし、大体何で日之和に出現したんだ? 定石通りなら、アルティス魔法魔術学園を狙うだろ。第一、第二はこっちで撃退してるんだから、第三だって俺達を第一の標的に据えるべきじゃないか? そもそも──」

「うおおおっ!? 振り切ったと思ったら質問塗れじゃないか、落ち着け落ち着け。情報の濁流で攻撃して悪かったよ。一つずつ解説するからクールダウンしようぜ、な?」

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