ひろいんずアピール-002
「あは~、お待たせ~!」
「おっ、と」
背後から近づいてくる音で察して振り向けば、日鞠が飛び込んできた。
反射で受け止めて抱える。
「おぉ~、ナイスキャッチ、かんかん~!」
「日鞠は何着てても自由だな……」
戦闘用の衣装という訳でもあるまいし、あんまり飛んだり跳ねたり走ったりしたら着崩れちゃうんじゃないの? という心配があった。
もしそうなったら俺、直してやれないぞ……。
ついでに言えば、アイラも立華君も無理そうである。ていうか、こっちの人じゃないと無理だろ。
しかし日鞠はそんな俺の懸念を意にも介さず、纏った着物を見せつけてくるのだった。
こちらはクリーム色がベースとなっており、金色の帯が締められている。
何というか、全体的に派手だった。けれども嫌らしさはなく、日鞠独特のふわふわとした雰囲気とマッチして、良く纏まっている。
どちらかと言えば、美女というよりは美少女と言うべきだろうか。
元より彼女が持ち合わせていた少女性が強く押し出されているようで、端的に言えばすっげー可愛かった。
「むん……」
「ちょっと? 甘楽? 私の時とちょっと反応が違い過ぎないかしら? 顔に『安易に感想を言いたくない、語彙をちょっと練らせて欲しい』って書いてあるのだけれども?」
私を前座みたいに扱うのはやめてくれないかしら! と叫ぶアイラだった。お陰でハッ、と正気に戻る。
あ、あっぶねー……。
感想考えてるうちにかなり見惚れちゃってたんだけど。
あまりにも身近なので、ここ最近はほとんど意識もしなくなってしまったが、それでも日鞠はとんでもない美少女だ。
珍しい装いも相まって、改めて『ヒロイン』であることを思い知らされる。
無論、一度そういう目で見てしまえば、アイラでさえ直視しづらかった。
「まあ、何だ。可愛いよ」
「えへへ~、ありがと~」
結局端的な一言に纏めることになってしまったのだが、色々感情が詰め込まれていることは伝わってくれたのだろう。
何か二人して照れてしまったせいで、付き合いたてのカップルみたいな雰囲気が作り出されてしまった。何なんだよこれは。
「童貞処女カップルみたいな雰囲気を形成するのはやめてくれないかしら……」
「いや言い方、言い方が最悪過ぎるでしょう? もうちょっとこう、オブラートに包もうか」
「でも、間違ってはいないでしょう?」
「正しすぎることが問題なんだよなあ」
何かちょっと深そうなセリフになってしまったが、全然深くなかった。ピチャピチャ水遊びできるくらいには浅い。
まあでも、正論ってよく人を傷つけるし、逆説的に虚実というのは、人を癒してくれるものなのではなかろうか。
そんなアホみたいなことを考えていれば、ちょんちょんと肩をつつかれる。
「待たせたな……に、似合うか?」
振り返ればそこには女神がいた。
見慣れていたはずの金の長髪は神々しさを増しており、不安げに揺れた蒼空色の瞳には、思わず引きずり込まれそうだった。
そして何より、白をベースにし、青色で装飾された着物は彼女と完全にマッチしている。
外見年齢が少々引き上げられながらも少女性は保っており、同時に神秘性が底上げされていた。
端的に言って、崇拝してしまいかねないほどだった。現代の巫女か?
「クソッ、これ以上なく似合ってるよ! けど何で女性体なんだよ……!」
「ふふん、こっちの方が似合うかなって思ったんだ」
かつてないほど正しい判断だった。やっぱり正しさこそが本当の美しさを見せてくれるんだなって。虚実とかその辺に捨てておけ。
「ここまで露骨に別格の反応されると嫉妬する気にもならないわね……」
「むぅぅ~っ」
「いや痛い痛い、結構勢い付けてから蹴るのはやめろ。大丈夫だ、日鞠も可愛いから」
「私は?」
「言ったろ、綺麗だって……いやなんかその、別に格付けとかしてる訳じゃないんだよ」
三人とも美人で可愛い。それで良くないか?
今となってはもう、そういう関係の人間を作るつもりは一ミリたりともないが、それを加味した上で、うっかり惚れてしまいそうなくらいなのである。
全員、絶世の美少女ですとお出しされてもおかしくはないことを自覚して欲しかった。
何かもう、ここだけ周りからガッツリ距離を取られて数多の視線を受けちゃってるからね?
もっと言えば俺だけ「お前邪魔だから消えろ」という意志をガンガンにぶつけられているまである。
まあ、俺も逆の立場だったら、そう思っていただろうし、こればっかりは仕方ないな。
ちょっとだけ耳を傾けてみるか。
「百合の花束に薔薇が一輪混ざってんじゃねぇぞ……!」
「つーか何だよあのオッドアイ、厨二病か?」
「バッカお前、あれ日之守さんだぞ」
「あっ、あの性癖爆発甘楽さん……!?」
「違う、異常性癖爆発英雄甘楽さんだ」
ちょっと待てッ!
嫉妬が一瞬で終了したのは良いが、代わりに俺の二つ名がとんでもないことになってるぞ!?
滅茶苦茶漢字が多いし、良く吟味してみたらただの悪口じゃねぇか……!
俺の性癖を悪く言うんじゃねぇ! と叫びそうになったが気合で堪えた。人には得手不得手があるからな。
許容量の少ない愚かな人類にキレても意味はないだろう……と荒ぶる心を落ち着かせた。
「貴方って性癖の話になると途端に別人のようになるわよね……」
「気のせいだろ、いつだってこんな感じだよ、俺は」
それより、そろそろ行こうかと声をかける。
あまりここで時間を潰しても仕方がない、折角旅行に来たのだから、やはり名所を巡るのが醍醐味だろう。
予定等は立てていたのだろうが、残念ながら俺の頭がすっかりとその辺を忘れ去っている。
いつの間にかリーダーのようなポジションについているアイラに感謝の念を送りながら、付いていくように歩き始めた。
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