ダンジョン・サプライズ


「日之守……君、今先輩方のこと考えていただろう」

「だから何で分かるんだよ……!」

「君は顔に出過ぎなんだ、それに尽きる」

「どう考えてもそっち側の特殊能力なんだよなぁ……!」


 ていうかそれ、女性特有の能力じゃなかったんだ、と思う。


 もしかして、俺以外の全人類が保有している能力なのか……?

 もしそうだとしたら、俺はあまりにもこの世で生きていく才能が無いというものであった。


「いや、いいや。ありないだろ……」

「有り得ないなんてことは有り得ないって言葉、知らないのか?」

「えっ? 急にハガレンのオタク出してくるじゃん────あ?」


 変だ、と思った。


 あからさまに「やべっ!」という顔をした立華くんを見て、更に首を傾げる。

 いや、正確に言うのなら、元より変だとは思っていたのだ。


 彼は────立華くんは、


 まあそういうこともあるか、とは思っていたのだが……。


 もしかして、俺と同じような転生者か・・・・


「えーっと、立華くん」


 頑なに目を合わせなくなった立華くんに、そう声をかけて、


「転生とかって、信じる?」


 と、続けた。

 否、続けたかった。


 つまりそれは、叶わなかった────というのも。

 突然直上から滝みたいな勢いで振ってきた、ピンク色の液体が、立華くんを呑み込んだからである。


 ……は!?


 う、うわーーーーーーーッ! 完全に油断した!

 即死する液体とかじゃないよな!? 怖くなってきたんだけど!? と叫びそうになれば、


「けほっ、けほっ。う、う~ん……何だ? 身体が、変な感じ……」


 驚くほど聞き覚えの無い高い声が……女性的な声が、耳朶を叩いた。

 落下してきた液体が無くなって数秒。


 鋭くバックステップすることで回避した俺達は、その中心へと目を凝らして、思わず声を失った。


 しかし、それも仕方がないことだろう。


 何故ならそこに、立華くんの姿は欠片も無く。

 代わりに目を疑うくらい美しい、一人の女性がびしょ濡れになって佇んでいたのだから。





 で、少々落ち着いて今に至る。


 迷宮内に幾つも存在する安全領域(ゲーム内ではセーブポイントだった)で、この現象について頭を悩ませる。


 いや、その、何というか……何が起こったのか、というのは分かるんだけどな。


 もう見たまんま、性転換してるのだ。

 ほんの少しも動揺していない、立華くんが恐ろしく思えるくらいの一大事である。


 こいつ、肝が据わり過ぎだろ……。


「いや、まあ、特に不自由していないしな。慣れてるし」

「慣れてるって何!? そんな気軽にTS出来る環境下にいたのか!?」

「まあ……部分的にYES、かな」

「こ、こわ……」


 聞くのも躊躇われるレベルの怖さだった。

 部分的にはってなに?


 確かに『蒼天に咲く徒花』には、性転換薬とかいう薬があるが……。

 だからといって、多用されるものではない。というかアレ、普通に稀少な品だし……。


 ランクA迷宮で手に入る素材が必須なくせに、ゲーム内だと大して役にも立たない薬である。


「それに女性になったとは言え、人であることには変わらない訳だし……身長は低くなったけど、不自由は無い。ほら、この通り」

「ちょっと? 急に手を握るのはやめようね、ドキドキしちゃうから」

「君は本当に、童貞なのか非童貞なのか分からないやつだな……」

「生々しい考察するのやめない? 俺が可哀想だろ……」


 言いながら、俺の右腕に抱き着いてきた立華くん(「ちゃん」と言うべきだろうか?)を眺めながら、ため息を吐く。


 いや……冗談抜きで可愛いな……。


 これが性転換した男であるという事実が無ければ、うっかり惚れてしまっていたところである。


 危ない危ない。ガチで危ない。


「……はぁ、空城くんのこと、見過ぎよ日之守くん」

「いや別に、そういう意図で見ていた訳じゃ無いから……多分……」

「ちょっと自信無くなってるじゃない……」

「んぅ~、でもでも~、本当にどうするの~?」


 俺の肩に頭を預けた葛籠織が、核心を突いたようなことを言う。


 そう、そうなんだよね。

 解毒薬を作るだけの材料は手元にないし、もちろんランクBの迷宮では調達するのは不可能だ。


 ていうか、どこであっても材料調達はまあまあ困難である。


 ワンチャン、校長とかに掛け合えば手に入るかもしれない……というラインだった。

 とはいえ、別にそれらの必要は全く無いのだが。


「どうもしない……迷宮で受けた影響は、基本的に迷宮を出れば元通りになるもんだしな」

「あぁ……そう言えばそうだったわね」

「まあ、基本的には、なんだけど……」


 ゲームでも、迷宮を出れば自動的に何かも回復した者である。


 まあ、流石に性転換したなんて話は聞いたことも無いので、そこについては少々不安なところではあるのだが……。


 そうは言っても、獣人にさせられたみたいな話は小耳に挟んだことがあるし、まさか例外ってことは無いだろう。


 要するに、だ。


「これまで通り攻略するのが、一番良いと思う。今でも充分すぎるくらい順調だし、問題も無いだろ」


 強いて言うのなら、立華くんの、性転換したことによって出るだろう違和感や差異を調べつつ、そこをカバーしつつ……にはなるだろうが。


 それを込みにしても、ペースが落ちることは無いだろう。全員優秀だしな。

 改めて仕切り直して行こうか、と俺は手を叩いた。







ご神託チャット▼

◇名無しの神様 キタ――(゜∀゜)――!!

◇名無しの神様 うおおおおおおお!!!!!!!!

◇名無しの神様 おいおいおいおいおいおい!

◇名無しの神様 マジか!? おいこれマジか!?

◇名無しの神様 死ぬほど焦った次の瞬間これとか、ボケナスお前"""持ってる"""な……

◇名無しの神様 これもう奇跡だろ

◇名無しの神様 まさかの展開すぎる

◇名無しの神様 さっきまでのワイら「へ~、これがB迷宮か~。平和~、つまんな~」

◇名無しの神様 今のワイら「うおおおおおおお!!! 最高最高最高! TSキターッ!」

◇名無しの神様 この落差よ

◇名無しの神様 これだからここの配信を見るのはやめらんねぇんだ

◇名無しの神様 ついに来るか? ボケナスの快進撃がよォ!

☆転生主人公  ふっ、まあ落ち着け、お前ら。急いては事を仕損じるぞ?

◇名無しの神様 うわ、急に余裕見せ始めやがった……

◇名無しの神様 とてもヒロイン達の戦闘をただボケっと見てただけの馬鹿とは思えねぇ貫禄だ……

◇名無しの神様 ネフィリアムがサクッと落とされるのを眺めてただけのアホとは思えねぇ……

◇名無しの神様 迷宮に入ってから一生泣き言言ってたボケとは思えないぜ

☆転生主人公  ええい、喧しい喧しい! 見てな、私の本気はここからよ

◇名無しの神様 もう一人称が変わってやがる……

◇名無しの神様 すぐ調子乗るなこいつ

◇名無しの神様 でもこれは仕方ないって、マジ悔しいけど可愛いもん

◇名無しの神様 いやそれな……散々原作主人公はTSしたら可愛いって論議には上がっていたが……

◇名無しの神様 これほどとは、な……

◇イカした神様 スクショは撮ったか? 録画は出来てるか!?

◇名無しの神様 マジでさっきから延々とスクショ連打してるわ

◇名無しの神様 日之守もタジタジで草

◇名無しの神様 顔真っ赤だもんな、面白すぎる

◇名無しの神様 さっきまで転生云々を詰め寄ろうと思ってたのにもう頭から抜けてそう

◇名無しの神様 抜けるってこれは。しゃーない

◇名無しの神様 ワイらですら数秒レス書き込めなかったもんな

◇名無しの神様 つーかバレたらまあまあ困るんだよ

◇名無しの神様 まあ、日之守がどこから影響受けてるか不明な以上はな……

◇名無しの神様 見せてくれよ、ボケナス。お前の本気ってやつをよ……!


【ついに来たぜ】蒼天に咲く徒花 バグキャラ日之守甘楽 攻略RTA【この時が】


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