デレデレ・ガール

「どうしましょう、日之守くん。私、貴方のことを好きになってしまったみたいだわ。取り敢えず、愛人からで良いからどうかしら?」

「それは取り敢えずで出して良い提案なのか!? もっと自分を大切にしろ!」

「えっ? それは、こんな私でも恋人にしてくれる……ということかしら?」

「うわ、自己肯定感が地に落ちきっている……」


 取り敢えず返答としてはノーかな、と答えれば、「ならやっぱり愛人かしら……」と顎に手をやるネフィリアムであった。


 全く以て意味不明な状況だと思われるかもしれないのだが、俺からしてみても、やはり意味不明な状況であるので勘弁願いたい。


 というのも、ここは医務室であり、俺は葛籠織とネフィリアムの見舞いをしにやってきたところであるからだ。


 葛籠織もネフィリアムも、最後には気絶しちゃったからな……。

 片や根源魔術を使用し、片や直撃でなくとも、それを受けたのだ。

 意識を飛ばすのも無理ないというものである。


 どう考えても俺は悪くないと思うのだが、決闘の原因が俺である以上、様子くらいは見に行くべきだろう……と思い、顔を出したところの出来事であった。


 滅茶苦茶意識を取り戻していたネフィリアムが、俺の手を取りながら、これ以上ないくらい真剣な眼で言ったのである。


 普通に惚れる相手を間違えてんだよなぁ……!! と叫ぶわけにもいかず、かなり死んだ目で応対せざるを得なくなっているという訳だった。

 いや本当、何でこうなったかな……。


 状況的にああするしか無かったとはいえ、まさかたったそれだけのことで惚れられるとは思わなかった。

 一目惚れ体質、恐ろしすぎるである────何が恐ろしいって、別に恋人じゃなくても良いから傍に置いて欲しい、が中心にあるのが怖すぎる。


 どういう育ち方をしたら、十四歳でそんな倫理観に熟成されるんだよ。


「いえ、普通に考えて、何番目だろうと好きな人に愛してもらえるのなら、それだけでアドじゃない?」

「そんな悲しいことをアドとか言うな! どう考えてもディスアドなんだよ、その思考がよ」

「何を言ってるのかしら、愛されないことが一番のディスアドに決まってるじゃない」

「いや怖い怖い! 過去に何があったら、そんなこと真顔で言えちゃうんだよ」


 本当に心配になってきてしまう俺であった。


 実際、ネフィリアムの過去はあんまり語られないんだよな……若干、仄暗い感じの雰囲気をチラ見せしてくる程度である。

 いやまあ、俺だって全ルート網羅出来ていた訳では無いので、どっかのルートでは語られていたのかもしれないのだが。


 ヒロイン一人につき、幾つもルートがあるゲームなので、その可能性は大いにあるのだった。

 分岐があり過ぎて、網羅するのに時間がかかり過ぎるんだよな……。


 こんなことになるのなら、もっと気合を入れてプレイしておくべきだったな、と思うばかりである。


「安心なさい、私は日之守くんのことを、一番に愛する自信があるわ」

「まずは一番に愛される努力とかしてみない? 変わるよ、見える世界とか」

「見え方が変わっても、世界が変わる訳じゃないでしょう? それなら結局無駄じゃない」

「すげぇ過激派な思考が出てきたな……」


 一か十かしか知らないの? みたいな言い分だった。


 思わず身体を震わせ、距離を取ってしまう────何というか、思っていたより怖い。


 大体こんな感じの女性であることは知っていたのだが──キャラとしては、という意味合いになるが──直に目の当たりにすると、「好意を向けられて嬉しい」より先に、「え、何か色恋とかしてる場合じゃないくらいの問題抱えてたりしない? 大丈夫?」になってしまうのだった。


 何か……困っていたら力を貸すよ、と思わず言いたくなってしまうくらい、どこか歪んでいるように見える女性である。


 この先長い付き合いになって欲しいとは思うが、どう付き合って行ったらいいんだろう、と今から悩んでいれば、


「あは~、そんな考え方してるから、日鞠に負けたんだよ~?」


 と、不意に聞き慣れた声が耳朶を叩いた。

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