フォール・フライング
「勘違いさせると言えば、甘楽くんもな気がするけどね」
「えっ……俺ですか?」
「レアちゃんの時もそうだったけど、きみ、助けを求められたら完膚なきまでに助けちゃうから。そういうの、結構ズルだと思うよ」
「大分理不尽なこと言い始めたな……」
というか、レア先輩の件についてだって、別に俺が何もかもやった訳ではない。
何か……本当に謙遜抜きで、流れで解決になっただけである。
しかも、俺が動いたのだって、多分な私情が含まれていたのだ。
推しだから、これからの事件に関わるから、親密度の調整をしたかったから……という、ちょっと誰かに言える感じの類ではない、愚かしい考えが。
これを優しいという一言に纏めるのは、少々以上の抵抗があった。
「……甘楽くんって、そういうところ面倒臭いよね」
「おっと、自分のことを棚上げするのは良くないですよ?」
「!!?」
「えっ? 自覚無しなんだ……」
監禁したり、強制心中とかしてくる女が、面倒臭くない訳ないだろ。
いや、あるいは自覚が無いからこそ、面倒さ極まっているのかもしれないのだが……。
この辺をあんまり突っつくのは藪蛇になりそうだな、と思った。
「あは~、どんぐりの背比べだ~」
「それは流石に俺に失礼過ぎだろうが……!」
「甘楽くんが今一番失礼なこと言ってるからね!?」
ビックリしたように言う月ヶ瀬先輩だった。
もうっ、と怒ったように何度も肩で小突いてくる。
普通に可愛いからやめてくれないかな、というのと、普通に痛いからやめてくれないかな、という気持ちでいっぱいになってしまった。
髪が長いからふわふわ舞って、良い匂いがするんだよな。
こればっかりは流石に慣れない、と思って気を紛らわす為に空を見上げれば、
「あっ」
思わず、声が出た。
絶賛回転中だったところを、気合で止めている立華くんと目が合ったからである。
というか、物凄い形相で睨まれていた。
え? 何あの顔、こわ……。
やっぱり葛籠織と月ヶ瀬先輩の間とかいう、なめてんのかお前、みたいなポジションに座ることになったのが良くなかったかな、と思う。
傍から見たらただのハーレム野郎である。普通にキレられてもおかしくはない。
適当な理由でもつけて席を外した方が良いかもしれない……なんて思えば、立華くんは落ちてきた。
落ちてきた……!?
「うわぁぁぁぁぁあああああああああん!!? たすっ、たすけぇぇぇえええ!」
「助けを求めながら加速するのはやめろーッ!」
ていうか、明らかに自ら急降下の姿勢に入ってたよね?
そう思いながらも、飛行魔法を展開して地を叩く────これ、普通に受け止めても怪我しそうな速度に達してるな……。
瞬きをするごとに速度を上げる立華くんだった。マジで殺す気? ってスピードである。
とはいえ、流石に箒の速度に追いつくことは無いのだが。箒はある意味では、杖すら凌ぐ大発明だ。
人ひとりで加速できる速度は限界がある。それも、素人ともなれば問題にする程でもない。
俺は急速降下してきた立華くんを抱き留めた。
「ぐおっ……!? 衝撃すご……」
「お、おい! 不安になるようなこと言うのはやめてくれないか!?」
冷静に考えれば俺も、飛行魔法に関しては別に熟練者って訳じゃ無かった。
ほぼ突撃みたいな形で抱き留めてしまい、一瞬息が止まりそうになったが、上手く立て直して勢いを殺す。
そのまま空中で二、三回ほど回りながら速度を落とし、ゆっくりと地上に降り立った。
「し、死ぬかと思った……!」
「お前を殺してやる、みたいな顔で落ちてきたやつとは思えない台詞だ……」
「はぁ!? べっ、別に僕は、嫉妬した訳じゃ無いんだが!?」
「自白しちゃったねぇ……」
ここまで素直に本音を吐き出されると、これはこれで好感が上がってしまうな、と思った。
俺の思っていた主人公像とはまあまあ違うのだが、悪くはない。
とはいえ、如何にもツンデレです、みたいな男なのはちょっと斬新だよな……とか考えていれば、
「あらあら、皆様方、揃っていましたのね?」
飛行魔法の訓練中でしたかしら? と、満面の笑みで現れながら、レア先輩はそう言った。
それから、改まったように口を開く。
「緊急招集ですわ────日之守様。アテナ先生が、貴方様にだけ、話したいことがあるそうです」
ご神託チャット▼
◇名無しの神様 いけーーーーーーッ! 押し倒せボケナスーーーーッ!
◇名無しの神様 もっとちゃんと抱きつけ! お前ならやれるはずだ!
◇名無しの神様 すっかり立華くんちゃんの呼び名がボケナスになってるの面白すぎだな
◇名無しの神様 バッカお前そういうことはTSしてからやれっつっただろ!
◇名無しの神様 もうTSはしてんだよなあ
◇名無しの神様 TS×TSでもとに戻るとか一見するとただの馬鹿でおもろい
◇名無しの神様 言うて本気でやるならTS薬必須だよな?
◇名無しの神様 そりゃね
◇名無しの神様 ただ製造方法も特殊だし材料も稀少だからな……
◇名無しの神様 今はしゃーなしだろ
◇名無しの神様 まあでも、ついに始まったな第二章
◇名無しの神様 第二章……第二章……?
◇名無しの神様 ワイらの知ってる二章と全然違いますが……
◇名無しの神様 普通なら魔王の存在とか片鱗程度しか出てないはずですが……
◇名無しの神様 ……まあ、二年生編ってことで!
◇名無しの神様 せやね、切り替えてこーぜ
◇名無しの神様 にしても本当に、魔王の件から特に事件は起きなかったな
◇名無しの神様 それなあ
◇名無しの神様 大災害が終わったあとみたいな静けさだったよな
◇名無しの神様 文字通りそうなんだよなあ
◇名無しの神様
◇名無しの神様 つってもこれ、結局どうなっていくんだろうな
◇名無しの神様 まあ……流石に学園のイベントは変わらない訳だし、ある程度はそれに沿うとは思うんだけどな
◇名無しの神様 一年生の時も一応、各寮対抗戦っていうイベントの上で起きたことではあるしな
◇イカした神様 頼む……これ以上は平穏に進んでくれ……
◇名無しの神様 いや草
◇名無しの神様 本気の懇願じゃん
◇名無しの神様 もう手遅れに決まってんだろ馬鹿が
◇イカした神様 えーんえんえんえんえん
◇名無しの神様 喧しすぎて草
◇名無しの神様 自業自得なんだワ
◇名無しの神様 そんなことよりもっと日之守さんの顔写してくれんか?
◇名無しの神様 日之守のファン出来てて草。
【はてさて】蒼天に咲く徒花 バグキャラ日之守甘楽 攻略RTA【次はどう壊れる】
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