バグった世界で何をする


「ん~? あぁ、アテナ……ノエルのこと、考えとる?」

「!!?」

「良う顔に出る子やな……安心しーな。そことはもう、話し合い済みや。何せきみが倒れてから、一か月経ってるんやで?」


 ちゅうか、あっちから話を持ち掛けてきたくらいやしな、と校長はカラカラ笑う。

 そんなあっさりな感じなんだ……とは思うのだが、まあ、今の黒帝は黒帝であって黒帝でない、みたいな意味不明な状態なので、納得は出来るというものであった。


 いや、あるいは俺が寝ていた一か月の間、丸々話し合いにつぎ込んでいた可能性はあるのだが。

 まあ、なるようになったらなら良いや。


「それに、拒否権があっても、きみは断れへんやろしなあ」

「……というと?」

「これから第七秘匿機関は、きみ以外の生徒も入れる予定やさかい……例えば、ほら、きみのチームやらなあ」

「っ! えぇ……いや、うぅん……」


 平然とした表情で、子供をそんな大仰な機関に入れようとするなよ、と文句を言いたいところではあるのだが、実際のところ、その判断は正しい。


 普通に天才ってレベルじゃ語れないような生徒が多いからな……。

 それに、今回俺が組んだ各寮対抗戦チームだって、言わば厨パみたいなもんである。


 実際、記憶がかなり怪しいのだが……俺が魔導使う時、全員ちゃっかり起きて、控え室から会場に出て来てたよね?

 何か普通に守護魔法無しで、あの場でいられた辺り、校長が目を付けるのも止む無しと言ったところだろう。


 月ヶ瀬先輩とレア先輩は言わずもがな、立華君と葛籠織も伸びしろしかない────どころか、育ち切れば作中最強格な訳だしな。主人公とヒロインなのだから、これは当然とも言える。


 それに何より、学園が直接狙われた・・・・・・・・・のだ。

 もちろん、学園側だって色々と体制を立て直すだろうが、最も動きやすい学生を取り込んでおくのが、防衛には一番適しているし、手っ取り早い。


 ただでさえ、魔王が来た時なんて混乱が先立ってしまい、避難がままならず、校長等が動けなかったのだ。


 その辺を整えるだけで、いざという時の対処はスムーズに運ぶだろう。


「ま、教師失格みたいなこと言うてる自覚はあるんやけどなぁ……比喩抜きで、世界の危機や。アレコレ忖度してられへんやろ」

「いや、せめて見栄えの良い建前くらいは用意しろよ、とは思いますが……」

「きみ相手ならええやん。どうせ戦うしかないって分かっとるんやし」

「む……」


 全く以てその通りすぎて、反論が思いつかなかった。

 そう、戦わなきゃなんだよな……。


 元より、黒帝と魔王とはやり合う気ではあったので、大して変わらないだろう、という気持ちもあるのだが……。

 どんなやつが相手になるのか分かっているのと、分かっていないのとでは雲泥の差だな、と思う。


 敵のことを考える時、ゲーム感覚になれなくなってきたもんな。


「ちゅうても、安心してな。別に今までの学生生活とは、ほとんどなんも変わらへんで。ただ、ちょ~っとだけ、個別レッスン増えるだけやさかい」

「うわ……一番嫌なタイプの特別扱いだ」

「補習みたいな捉え方するのやめーや────とにかく、状況は呑み込めたかいな?」

「まあ、取り敢えずは」


 イレギュラーにイレギュラーが相次ぎ、もう何なんすかねこれ……という気持ちが未だ抜けないのだが、一応は理解した。

 というより、考えること自体はシンプルになったようなもんである。


 これまでは立華君とヒロインの間を取り持ち、黒帝と魔王の仕業をどのように上手く全員で対処し、平等にレベリングするか……といったことを考えていた訳であるのだが、それはもういらないということなのだ。


 ただ、襲いかかってくる超強い敵を倒す、これだけで良い。

 無論、難易度は跳ね上がっているのだろうが……。


 個人的には、楽になったと言えるだろう。これからやって来るだろう脅威が、半端なく強いということさえ考えなければ。


「ん、よろしい。ほな、質問は?」

「特には無いですかね……というか、普通に眠いです。何か、すごい疲れた……」

「まあ、病み上がりやさかいね。そやけど、寝るのんはも~ちょいだけ、後にしーな」

「えぇ……」


 これから早速何させるつもりだよ……と思っていれば、校長が扉へと目を向ける。

 つられるようにそちらを見れば、タイミング良く扉はスライドされた。


 ゆらりと揺れる白髪。これでもかってくらい存在をアピールする赤髪。完全に見慣れた金髪×2。

 というか、普通に各寮対抗戦のメンバーだった。


 何か、こうして見ると、如何にも「主人公パーティです!」って感じの色合いだな……。


「あの子たちなあ、きみが眠ってから一日も欠かさずお見舞いに来てたんやで?」

「え? 四人揃って? 仲良しじゃん……」 

「あっ、そういう反応になるんや……」

「いえ、もちろんその事実は嬉しいんですけどね?」


 取り敢えず、ひらひら~っと手を振ってみたら、ブワッ! とレア先輩が泣き出して。

 それを契機に、全員がすげぇ勢いで駆けこんでくるのだった。

 その中でも、とりわけ難しそうな顔してる立華君だけは、平常運転だなあ、と思うのだった。











ご神託チャット▼

☆転生主人公 え~~~~~ごめんごめんごめん、泣きそう。泣いて良い?

◇名無しの神様 何だこいつ……

◇名無しの神様 平常運転すぎるだろ

☆転生主人公 いやだって……もう、凄くない?

◇名無しの神様 それは……そうなのですが……

◇名無しの神様 凄いとかってレベルじゃないんだよね

☆転生主人公 あと寝顔も良かったけどやっぱ動いてる方が最高

◇名無しの神様 おいこいつもうダメだろ!

◇名無しの神様 もうズブズブに惚れんてんじゃねぇか!

◇名無しの神様 惚れてるっつーか感想がオタクのそれ過ぎなんだよ

◇名無しの神様 どうすんだよこれ……いや、つーかこれ、続くの?

◇名無しの神様 いやそれね

◇名無しの神様 一章の途中で原作終わらせるのロックすぎ

◇名無しの神様 ある意味RTAじゃん

◇名無しの神様 目指してる方向とは真逆のRTAを達成してんだよなあ

◇名無しの神様 世界記録更新でワロタ

◇名無しの神様 そろそろ驚き疲れて来たぞ

◇名無しの神様 第七の破滅……? 何……?

◇名無しの神様 校長「第七秘匿機関入ってね」ワイら「なにそれ???」

◇名無しの神様 これも全部日之守ってやつのせいなんすよねぇ

◇名無しの神様 全部日之守がやってくれましたじゃんこんなの

◇名無しの神様 訳分からんことが起りまくった挙句、日之守が訳分からんことして、訳分からんくなったな

◇名無しの神様 もう何にも分かんないニャンねぇ……

☆転生主人公  あ~、でもこれから僕、どうすれば良いの?

◇名無しの神様 そうそう、そこなんだよね

◇名無しの神様 っぱリセ案件か?

◇名無しの神様 こっちの領分まで踏み込んでるやつもいれば、ガンガン原作壊すやつもいるし、流石にな……

◇イカした神様 いや、それなんだけど、リセは無しの方向になったわ

◇イカした神様 っていうのも、世界の形が変わってるから手出しづらいんだよね

◇名無しの神様 あ~~、拡張ってレベルじゃなくなったんだもんな

◇名無しの神様 下手にリセして変な影響出たら最悪だしな

◇名無しの神様 最悪転生システムにエラー出るかもしれんからなあ……

◇名無しの神様 マジやめろよ、昨日徹夜でメンテしたんやからな

◇名無しの神様 メンテニキいてワロタ

◇イカした神様 ただ、このまま放置するのは問題だし、いざとなったら世界ごと消さなきゃいけないから

◇イカした神様 立華くん(ちゃん)には、引き続きRTA配信してもらうわ

◇名無しの神様 (ちゃん)でワロタ

◇名無しの神様 もう潔く「()」つけるの逆にしろ

◇名無しの神様 身体は男の子だし……

◇名無しの神様 性転換薬あったろ、飲め飲め!

◇名無しの神様 TSにTSを重ねたらどうなるんだろうな、何かまたバグりそう

◇名無しの神様 怖いこと言うのやめろ! いや……っ本当、マジで。

◇名無しの神様 俺達は既にバグとか言うワードに敏感になり過ぎた

◇名無しの神様 日之守とかいうやつ、許せねぇよ……。

☆転生主人公  は? 今更何RTAすんの?

◇名無しの神様 すげぇ真っ当な意見なんだけど、全然RTAしてなかったやつに言われるとクソ腹立つな

◇名無しの神様 面の皮一万枚くらいありそう

◇イカした神様 うん、まあ、それなんだけど、原因に近しいと思われる日之守の調査をして欲しいんだよな

◇名無しの神様 ……!

◇名無しの神様 シレッと調査も含めてて草

◇名無しの神様 まあ良かったじゃん

◇名無しの神様 もう途中からずっとそうみたいなもんだったしな

☆転生主人公  え? 良く分かんないんだけど、つまり?

◇名無しの神様 つまり~

◇イカした神様 日之守を攻略しろ・・・・・・・っつってんの

☆転生主人公 !!!?!??!??!?


【最初から】蒼天に咲く徒花 バグキャラ日之守甘楽 攻略RTA【これで良かったじゃん】

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