二人は転生者様
「立華くん! ちょっとお願い事あるんだけど、聞いてくれないか……!?」
「嫌だ。そもそも僕は、以前、もう近寄るなと言ったと思うんだが?」
「そこを何とか……!」
「くっ……ちょっ、手を離せっ」
「だ、ダメか……? 話だけでも……!」
「~~~っ! 分かった、分かったから! 話くらいは、聞くとしようっ」
ギリギリと奥歯を噛みしめて、睨み付けてきながら言う立華くんだった。
──そう、最後の一人とは、つまるところ立華くんなのである。
というのも、これは葛籠織をメンバーに入れた理由でもあるのだが、レベリングと共に親密度を上げて欲しかったのだ。
何せ彼、俺が見る限り常に単独行動しているのである。
その様子にはいっそ親近感すら湧いてしまうのだが、何かもう、孤高みたいなイメージすら付けられている彼は、どう見ても、どのヒロインとも親交を深めていないのだった。
見た感じ、かなり鍛錬や学習に振っているっぽいのである……それはある意味正しいが、しかし、これではどのルートにも行けず、最悪ヒロインが全滅してしまいかねない。
それは困る。超困る。
ヒロインが全滅=世界滅亡と言っても過言では無いのだから──少なくとも、俺の知るメインシナリオであれば。
既に壊れつつあるシナリオではあるが、主な面子が変わることは無いだろう。
そう考えれば、あるいは黒帝や魔王だって、俺の想像をぶち超えた強化バージョンで出てきたって、おかしくはない。
……特に、黒帝なんかは、本当にどうなるのか分からないのだ。
だからもっと、青春とか色恋とかいうやつに、浮かれて欲しかったのである。
この学園でそんなストイックな進め方してるの、俺、RTAでしか見たことないからね?
「まあ、端的に言うと一緒に各寮対抗戦に出て欲しいんだね」
「なるほど、断る。それじゃあ」
「うわーっ、待って待って待って!」
一緒にお昼を食べながら説明を終えたところ、爆速で断りを入れて立ち去ろうとする立華くんであった。
判断が早すぎるだろ。
幾ら相手が俺だからと言っても、もう少しくらい悩んで欲しいところであった。
立華くんの手を掴み、若干見上げる形で訴える──
若干の差ではあるのだが、こういうところも、主人公と踏み台の差! という感じがして、苦笑いが出てきそうだった。
「もうちょっとだけ、考えてみてくれないか……?」
「考慮する価値すらない。それに、僕は忙しいんだ」
「えっ……そんな、ご飯食べたらいっつも隅っこで寝たふりしてるのに……?」
「喧しいぞ!?」
黙れ! と叫ぶ立華くんだった。
やれやれ。
参ったな。つい怒らせてしまった。
俺のコミュニケーション能力の無さが露骨に出ている……。
やっぱり、葛籠織に頼んだ方が良かったかな……と思ったが、それで断られた時、あいつが何とか引き下がってくれる未来が全く見えなかった。
なんか……「ふ~ん、それじゃあ良いや~。ばいば~い」とか言いそうだもんな。
そうなってしまっても、やはり困る。
「い、今なら美少女が三人もついてきやすぜ……?」
「何で急に、三下みたいな言い方になるんだ……」
「ついでに俺という従僕もついて来やすよ……?」
「じゅっ、従僕!? それはそれで、君は良いのか!?」
というか、君、そんな扱いをされているのか!? と、何だかんだ心配してくれる立華くんだった。
やっぱり、こういうところは主人公なんだよな。
一応の訂正を入れると、デカいため息をついた立華くんが、呆れたように頬杖を突いた。
「大体、何で僕なんだ。君からしたら、雑魚も良いところだろう」
「うお……テンプレみたいな卑屈さを出してきたな……」
「……帰らせてもらう!」
「ご、ごめんって──その、立華くんしか、いないんだよ」
そう、彼しかいないのだ。世界を救えるのは。多くのヒロインを、救えるのは。
こんな世界で、それでも絶対に頼りに出来ると思える人間も、また彼しかいないのである。
少なくとも、俺にとっては。
未だにこういう見方であるのは、本当に申し訳ない限りであるのだが──やはり、空城立華という少年は、俺にとっては主人公なのである。
今弱くとも、すぐ強くなるだろうということを、確信してしまっているほどに。
……まあ、思いの外バッドコミュニケーションを連発しまくっているので、正直かなり冷や冷やしてはいるのだが。
それはそれ、というやつだ。
「ぼ、僕しか……?」
「うん。各寮対抗戦に出るチームの、最後の一人は、立華くんにしか頼めないんだ」
「頼れるのが、僕だけ……?」
「そう、立華くんだけ」
瞳を揺らし始めた立華くんに、逃すかとばかりに目を合わせる。
押しに弱すぎないか? と不安になってしまうものの、今言うことではない。
ここがチャンスだ、と確信して真っ直ぐ見つめることにした。
「僕は……君と肩を並べられるほど、強くない」
「でも、あの時よりはずっと強くなってることくらい、見れば分かる」
「……足を引っ張るぞ、間違いなく」
「足を引っ張り合って、笑い合えるのがチームってもの──らしい。うちのリーダーが言ってた」
「そこは君の言葉じゃないのか……」
「いや、俺はそんなこと言えるほど、コミュ強者じゃないし……でも、安心はできるだろ?」
「違いないな」
フッと笑い、それから逡巡するように、立華くんは口元に手を当てた。
瞼を閉じてうんうんと唸る姿は、頭の中で意見を戦わせているようにも見える。
……これでダメだったら、流石に諦めるしかないよなあ。
これ以上食い下がるのは、ちょっとライン越えだ。しっかりとただの迷惑になってしまう。
もしそうなったとしたら、このあと月ヶ瀬先輩にどういう言い訳をして、更には今後、如何にして立華くんとヒロイン達を出会わせるかを、考えなければならないだろう。
そ、それだけは嫌だ……。
あまりにもタスクとして重すぎる……。
そんなことを思っていれば、不意に立華くんが俺を見て、
「仕方がないな……出るとしよう、各寮対抗戦」
「!! やったー!」
「っ! ……言っておくが今回だけだからな! 君のお願いを聞くのは、今回限りと覚えておいて欲しい!」
「分かってる分かってる」
「それは絶対分かってない顔なんだが──はぁ、まあ良い」
これで貸し借り無しだ、と立華くんが言う。
その言葉の意味に、少しだけ遅れて気付く──即ち、ついこの前の竜型魔獣の件だ。
そうだった。立華くん、アレでハチャメチャに腰抜かしたんだった。
……ちょっと、色々と説明するのが、面倒なことになりそうだな……。
チームを組む以上、レア先輩周りの話もしなければならないことを思うと、今から頭が痛いのだが──まあ、仕方がないだろう。
月ヶ瀬先輩がどうにかしてくれることを願いながら、俺は立華くんの承諾を得るのだった。
ご神託チャット▼
◇名無しの神様 ばーーーーーーーかかおめーーーーーはよぉーーーー!!
◇名無しの神様 仕方がないな……(やれやれ)じゃないんだよな
◇名無しの神様 滅茶苦茶ワロタ
◇名無しの神様 今どきのツンデレヒロインでももうちょいツンツンするぞ
◇名無しの神様 RTAの才能なさすぎか~?
◇名無しの神様 月ヶ瀬フラグ折った意味が無に帰してて草
◇名無しの神様 オリチャー全開過ぎるんよ
☆転生主人公 は? あんな捨てられた子犬みたいな目でお願いされて断れるわけがないんだが??????
◇名無しの神様 何キュンキュンしとるねん!
◇名無しの神様 急に開き直るな
◇名無しの神様 もう面白すぎるから何でもええがせめて反省の意思くらいは見せろ
◇名無しの神様 貸し借り無しだ(キリッ)
◇名無しの神様 まあ借りがあったのは本当ですし……
◇名無しの神様 日之守出てくると何もかも滅茶苦茶になるのほんまおもろい
◇名無しの神様 マジで"""破壊者"""って感じ
◇名無しの神様 人の形した嵐なんだよね、日之守。
◇名無しの神様 最近は調子良かったのにな……
◇名無しの神様 あっちはあっちで全ヒロイン親密度Maxハッピートゥルーエンドでも目指してるのか? みたいな手際の良さなのがまたウケるんだよな
◇名無しの神様 でもよぉ……ぶっちゃけ、お願いして来る日之守可愛かったぜ……
◇名無しの神様 設定上背が若干低いから上目遣いになってんだよな。ズルだと思う。
◇名無しの神様 踏み台とは言え顔は滅茶苦茶良いからな、日之守……。
☆転生主人公 いやでもほら、友達としてだから。友達として好意を抱いてる段階だから、僕は
◇名無しの神様 好意を抱いてる時点で終わってるんだよね
◇名無しの神様 あーあ、もう滅茶苦茶だよ
◇名無しの神様 最高にぶち上がってきちまったな
◇イカした神様 あれ? 何か変じゃね?
◇名無しの神様 変なのはお前の頭定期
◇名無しの神様 全部お前のせいな自覚ある?
◇イカした神様 ちっ、せーな。反省してまーす……じゃなくてほら、日之守の用意したメンバー、おかしくない?
◇名無しの神様 ん?
◇名無しの神様 メンバー?
◇名無しの神様 てかもう五人集まってるのか。凄いな。
◇名無しの神様 月ヶ瀬、葛籠織、日之守……あ!!!!?
◇名無しの神様 れ、れれれれレア様!!?!!!??!?
◇名無しの神様 レア・ヴァナルガンド・リスタリア!!??!??
◇名無しの神様 待て待て待て待て待て待て待て
◇名無しの神様 何がどうなってんだ
◇名無しの神様 え? レア様選べんの!?
◇名無しの神様 無理
◇名無しの神様 設定上不可能
◇名無しの神様 何をどう足掻いてもレア様だけは選べん
◇名無しの神様 じゃあ、何故……?
◇名無しの神様 しりゃん……
◇名無しの神様 こわ……
◇名無しの神様 まーた日之守が原作壊してる……
◇名無しの神様 なに、これ……どうなんの?
◇名無しの神様 どうなっちゃうんやろねぇ……
◇名無しの神様 おぉ、聞こえる聞こえる……原作が壊れる音が……
◇名無しの神様 もう跡形もないんだよ
【原作クラッシャー】蒼天に咲く徒花 ヒロイン全滅世界滅亡ルートRTA【日之守】
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