サイコス
「香椎さんも海道さんも日本人だろ。全然違和感なくこれからもやっていくんだろうな〜」
「そりゃあの二人はああみえて政府からの特殊任務だからな」
「二人の言っていることはよく分かる。でも、安川さんに本当のことを言うのが嫌なの。気に入ってるのかな。このまま友達として別れたいって気持ちが大きくてね。自分でも不思議なの」
そう言って茜は黙り込んだ。泣くのは卑怯だ。そう思っても理性で抑えられない。涙が溢れた。
「あのサイトって…私も時々利用するだけでちゃんと調べたことなかったんだけど…あれはね、我、サルファナ共和国が総力を上げて運営する辞典サイト。書き込むためには審査があって、誰かが勝手に歴史を捏造したり、事実を曲げないように厳重に管理された、国際的に認められている権威あるサイトなの。
そのサイトのことを、『面白かったの。曖昧な記事に疑問を感じて調べると、ああ、そうなんだって解る時があって、何かはまったの。
私、本が大好きで昔の百科事典も家にあってね。片っ端から読んでいくと今とは記述が違うことも多くてスッキリしない。それが解決する感覚って凄いでしょ』って安川さんが…そんな人この世に何人もいない…」
「茜、ちゃんと話してみなよ。どっちみちいなくなるならいっしょだろ。安川だって知りたいよ。感づくよお前の気持ち、どんどん辛くなるよ」
つばさがそう言う横で、善治は違うことを考えていた。
「少し考えさせてよ。打ち明けるにしてももう少し考えてみたい。なんか気になるっていうか、もっといい方法があるんじゃないかって、今は良い方法なんて浮かばないんだけど、もう少し時間が欲しいんだ」
と、真剣な顔で二人を見た。それぞれが有りったけの能力で考え事をしている。
階段を降りて外に出ると外はすっかり暗くなっていた。
この辺りでこの大きな川を渡ろうとするにはこの北詰橋と300メートル先の小糠橋しかない。三人はビルを出てゆっくり橋に差し掛かった。
「あれ、皆さんこんなところで何やってるの?」
三人が顔を上げると覚が立っていた。
「え…」
「児童館の帰りなんだけど…」
「よ!善治御用達のジーンズショップ、あそこを紹介してもらったんだよ、俺たち、な」
「ふ〜ん」
「そうか、今日か、行ったんだ。あっちは上手く行ってる?」
「うん、安川さんと政嗣さんは最高です。じゃ」
爽やかに手を降って反対方向に歩いていった。
「政嗣さんって、おいおい、あいつ尊敬されてるよ」
「子供にも真剣。二人共そういう生き方なのよ」
「茜さんもよく頑張りましたよ。留学じゃなくてもこのまま高校へ行くっていうのは?どうなの。そして任務を続行。それも有りだよ」
「でも、ミッションに失敗して消えるつもりでいたから、留学するって安川さんには言ったんだよね」
「おい、あれ、あれ見て」
「なに」
「あそこだよ。あそこのマンション」
今まさに覚が噴水のマンションに入って行くところだった。
「覚の家があのマンション」
二人は古い記憶に思い当って合点した。
「教えるのが上手くない家庭教師って、まさか…」
「そうか、あそこに通っていたわけだ。覚の親がパトロンか〜」
「覚が川園先生の教え子ってことか?なんてミステリーなんだ」
「なんかスッとしたな。腹減った」
「ダメダメ家は家で食べないと怒られる」
「川園って川園先生?」
「前に向かいのマンションに川園が入って行くのを目撃して、それからアジトのセキュリティーが厳しくなったんだよ。ついに隠されたエレベーターの発動なんてね」
「セキュリティーって大げさ」
茜がクスクス笑った。
「そうかも知れない。ふたり妙な接点あるみたいだったから」
「なんと、そういうことか〜覚が学童に乗り換えたってことは、これで厳戒令も解除だな。めでたしめでたし」
「乗り換えるってちょっと違うな」
浮かれている二人の間で、茜がなにか決心したように空を見上げた。
その夜…しばらくボーッと頭の整理に時間を割いた後、善治は弾かれたように起き上がり政嗣にメールを打った。気になることがある。それを確認したかった。政嗣が何を思うのか共有したかった。
『うん、僕も見つけた』
政嗣がそう言った。
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