第26話校長ざまぁ回
場所は変わって、高校の校長室。
「全く、たかが一生徒が、これ程私を困らせるとな!」
不機嫌な彼はストレスの為か高価な葉巻をぷかぷかと吸い続ける。
あの綱島に女子生徒を当てがわれ、綱島達の悪さに目を瞑って来た校長。
生徒の誤りを正し、人として正しい姿に導くべき筈の高校教師、その長である校長はその本分を忘れ、あろうことか女子生徒に手をつけるというゲスぶり。
例え綱島にそそのかされ、脅されているとはいえ、そこには何の情状酌量の余地はなかった。
いや、教職者が生徒に手をつけるなぞ、あってはならないことだ。
彼には娘がおり、その娘より若い女子生徒に手をつけることがどれほどこの男がクズなのかがわかるだろう。
しかし、綱島にそそのかされて海老名 樹を不登校に追い込めば、問題はすぐに解決する筈だった。しかし、海老名 樹は中々不登校にならず、他の教職者、特に担任の小島春菜【ちびはるちゃん】からは対処を求める声が上がっており、もみ消すのが困難だった。おかげで誤魔化すのにも一苦労だ。
「全く、無駄な抵抗を試みよってからに!」
綱島から女子生徒の性的接待を受け、海老名 樹を不登校に追い込もうとした罪、 彼のした事は職務規定違反、どころか刑事事件にすらなるだろう。
彼は教職者の本分を忘れ、それどころか女子生徒に手を出し、あまつさえ何の罪もない生徒を不登校要に追い込もうとする暴挙、発覚すれば警察沙汰になるというには気がつかない。この種の人間は自身がどれだけ無能かには気がつかない。
まあ、だが、結局、今年中に綱島に推薦状でも書いてやり、どこぞか適当な大学に入学させれば脅しから解放される。後少しの辛抱。それに女子生徒を自由にできたのは中々幸運なことだと思っていた。
奴とは大学生となっても繋がりを持つべきか?
女子大生というブランドに思わず顔がニヤけるゲス極まりない校長。
どこまでも腐った男、市会議員へ取り入り、自身の権力を最大限に伸ばして来た校長。この男の学内での傲慢ぶりは止まることを知らない。その上、生徒のことなぞこれっぽっちも気にしない教職者の恥とも言える人物だ。
そんな彼がいつまでも悪事を続けられる筈もない。普通の人間ならわかることだが、この種の人間はどこまでも愚かだった。
「まあ、万が一海老名 樹の問題が発覚した場合、最悪女子生徒のことは隠して、綱島一人のせいにするか?」
校長はあまりにも長引く海老名 樹の問題を最悪綱島一人に責任を押し付けて強制的に転校させようかと……そう考えるに至った。
最悪の場合を想定するのはいいが、どこまでも腐った男である。
「全く私をこれ程悩ませるとは……」
校長は綱島達に女子生徒とホテルに入るところを写真に撮られて脅されていた。
それとも市議会議員の先生の力を利用して綱島達を……二度と陽の当たらない世界に放り込むか?
この私が市議会先生に頼めば、あんなヤツを抹殺することなぞ容易いことだ。
だが、海老名 樹にも罰を与えんとな。
「そうだ。ヤツの成績を無理やり下げて留年させよう」
努力が足りんと言ってやろう。ヤツの情けない顔が思い浮かぶ。『ざまぁみろ』と嗜虐心を湛えた笑みが漏れる。
「私の煩わせたのだから当然の事だ」
樹を呼び出して皆の前で全ての成績が1だとし、情けない顔に変わるヤツの顔を思い浮かべて、恍惚とした表情を浮かべる。無論、そんな事をすれば父兄からも苦情が出かねず、教職委員から追求されて、自身がヤバい事になるに決まっているが、この男にまともな理性も知性はなかった。
だが、そんな愉悦に入っている彼の気分は木っ端みじんに打ち砕かれた。
「校長先生!! 大変です!」
部屋へノックも無く2年の学年主任の先生が入ってきた。
「お前、校長への礼を欠いて、無断で部屋に入ってくるなぞ、無礼がすぎるぞ!!」
しかし、そう一喝されても学年主任は言葉を続ける。
「大変ですよ! 校長先生! 教育委員会の教育長から至急ただちに出頭せよとの指示が!」
「教育長がいきなりの来たのか?」
「至急応接室に来いとの事です!!」
校長はあまりに突然のことに動揺を隠せなかった。突然なのである。
……ま、まさか女子生徒のことがバレたのか?
い、いや。綱島達も自身の罪を暴露することになる。証拠なぞ無い筈。
海老名 樹の件はただのイジメだった、学校は気が付かなかったとすればいい。
いや、待てよ? 意外と私の教育方針への労いかもしれない。
無能な彼はそんな訳がないだろうという事さえわからないのである。
校長は意気揚々として応接室に向かって歩いて行った。
応接室に着くと、教育長が厳しい顔で待ち受けていた。
「校長。今日呼ばれた理由は理解しているだろうな?」
教育長は厳しい口調で校長に詰問する。
「い、一体どうされたのですか? 教育長。突然のおよびだしに、ただただ驚いております」
校長は本気で呼び出しの理由がわからなかった。しかし、それがかえって教育長の怒りを買う。
「いい加減にしたまえ! お前は、この学校の女子生徒と淫らな行為を行ったな? そして、この高校から排出した著名な小説家、海老名 樹君を貴様と共謀した生徒とイジメを扇動し、この学校から追い出そうとしたな? この高校の名誉は貴様のおかげで地に落ちたわ!」
「わ、私は何も知りません。一体 何の事でしょう?」
平気でシラを切る校長の事なぞ、既にお見通しの教育長は用意した証拠をばさりと机の上に広げた。
そこには校長と若い女性がいかがわしいホテルに入る写真が多数撮影されていた。
一枚や二枚ではなく、何枚か、しかも複数の若い女性とだった。
「相手の女子生徒は全員氏名が確認されている……綱島という最悪の不良少年のためにこの様ないかがわしいことに手を染めることになった可哀想な被害者達だ。これは知人から提供されたものだが、警察によって裏は取れておる。綱島という少年は既に逮捕された」
「た、逮捕?」
教育長が声を荒げると、校長はみるみる情けない顔になっていった。
「……なッ!! そんな馬鹿なぁ!」
「馬鹿はお前だぁ」!
校長の愚かな発言に怒りを隠せない教育長。
まともな教育者なら誰しも同じ怒りを感じるだろう。
教育長の怒鳴り声に戸惑いを隠せない校長。いや、生徒に手を出した上、生徒へのイジメの加担をするなどいつまでもバレないとでも思っていたのか? いくら市議会議員の先生の後ろ盾があってもいつまでも隠すことなど不可能。むしろ今までよくバレなかったものだ。
「全ては知人からの告白と、そして警察からの連絡で判明している」
校長は冷や汗がじっとり肌にしみる。
「お前はこの高校の誇りとも言える小説家の海老名 樹君のイジメに加担し、この高校から追い出そうとした。あまつさえ、便宜を図ったけしからん生徒、綱島少年から女子生徒を斡旋されて手を出すという破廉恥ぶり。高校は生徒の人格形成のための場だ! お前は一体何を考えて高校の校長という職務を行なってきたのだ? 一体何を考えていた?」
「いや、私は本当に何も知らなくて、ただ若い女性と懇意になり、つい出来心で……生徒だなんて知らなかったのです。大人びていたから気が付かなったのです!」
狂し紛れに無理な言い訳をする校長。だが、厳しい教育長にそんなものが通用する訳がない。
「貴様にはこの子達の同じ位の歳の娘がおるだろう? そもそも妻帯者がこのような破廉恥な行為を行なって言い訳がないであろう? それに警察からは被害者の女子生徒からの証言をもらっている!」
「い、一体何を?」
「貴様、女子生徒の生徒手帳を確認して本当に女子生徒であることを確認していたというではないか? 自分の高校の女子生徒に手を出すなぞ前代未聞だ! 生徒の人格形成のために指導する立場の貴様が一体何をした! 貴様がしたことは許しがたい! 職務規定違反程度では済まされないぞ!」
「お、お待ちください。確かに私は間違いを犯しましたが、全部あの綱島という少年に脅されて、決して私めが画策した事ではございません。全部綱島が悪いんです!」
どこまでも卑怯なこの男は全ての罪を綱島一人に押し付けようとする、しかし。
「シラを切るのもいい加減にしろ!! 証拠は全てあがっている!」
「な、何かの誤解です!!」
「これは警察からの報告書、そしてこちらが女子生徒からの告発状、よく見ろ! この告白状には涙が……これを書いた生徒は死ぬほど辛い思いをしたのだ! それをお前は!」
教育長自ら報告書と告白状を読み上げる。ここにこの校長の罪の全てが暴かれた。
「き、きょ、教育長……こ、これは……」
校長の冷や汗は既に滝の様に流れ落ちていた。しかし観念して、少しでも自分の罪が軽くなる事を計算した。
「た、大変、申し訳ございませんでした……」
校長は手慣れたように、頭を地にこすりつけて、土下座した。もう、顔面を地面にこすりつけている。ドン引きする位、見事な土下座だった。そして、涙と鼻水を床に垂れ流しながら、頭を何度も床に擦り付ける。
「お、お、おゆるし……を!? か、か、かんだいな、かんだいな処分を、き、きょういくちょぉうぉお!」
全てが遅すぎた。彼の罪はもう取り返しがつかない。無能な上、教育長の信頼をも裏切った。早く事実を報告し、綱島の諫言なぞにのらず、樹への対処をしていれば、教育長の怒りもこれ程ではなかっただろう、そう、もう遅すぎたのだ。
「貴様は最後までシラを切ろうとした。しかし、そんなことをしても、もう遅すぎる。自ら罪を認めようとはしなかった。情状酌量の余地などない。貴様はこの校長をクビだ!」
「こ、校長をクビ? 私をクビだなんて、私は一体どうしたらいいのですか?」
校長は自身がクビになるなど、考えた事もなかった。自分は優秀な人間、そう本気で信じて疑らなかった、しかし。
「お前には既に解雇通告が出ておる!! 既に教育会の承認は得ている!!」
そして、教育長が手をあげ、処分が決まった事を示唆する。部屋のドアを開けると、他の先生達が入って来て、校長の腕を掴んで無理やり立ち上がらせ、引き連れられて行く。行先は……もちろん総務室……退職の手続きを行う場所だ。
「そ、そんな馬鹿な! 優秀な私がクビになぞ、そんな馬鹿な事があっていい筈がない!」
校長の叫びが虚しく応接室にこだまする。しかし、誰もが不快を感じて顔をしかめる。
彼がこの後、警察に逮捕されるのはごく当然のことだった。
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