第24話綱島ざまぁ回

「どうしてこうなったんだ……」


広いリビングでぽつんとひきこもりながら、綱島悠人は一人呟く。


先日俺達を嗅ぎ回る厚木陽葵という女を乱暴して口を封じようとした。


だが、それを海老名という厚木の男に邪魔されてしまった。


「まったく、俺にこんな手間を取らせやがって!」


「どうしたの? 悠人?」


「俺に触れるなぁ このばばあぁあ!」


「きゃあ!?」


心配する彼の母親の手を乱暴に払いのける。


そして、真っ黒に膨れ上がった怒りが巻き上がり、俺は思わずその場の椅子や家具を手当たり次第に蹴飛ばし、乱暴に投げ捨てる。


「ゆ、悠人……止めて……」


「五月蠅い!? 黙れ雌豚がぁ!」


「止めるんだ。母さんになんてことをするんだ?」


しまった。俺とした事がついカッとなって……親父が見ていない処でやるべきだった。


慌てて、繕って、親父に謝る。


しかし、父親はおろか母親は冷たい目で俺を見てきた。何だよその目は?


しかも、両親から今日は学校に行かなくてもいいと告げられていた。


理由は昨日の件がバレた。親から告げられた。今日は学校に行く必要はないと。


日吉たちを使ってやってたことがバレたか?


それとも川崎達を使って学校の陰キャ共から金を巻き上げていることがバレたか?


何を言ってるんだ?


学校の校長には女をあてがって口を封じた。証拠の写真もあるから俺に逆らうなんて無駄な筈。


そもそも俺は容姿に恵まれ、頭脳も最高に生まれた。俺は特別なんだ。


人は平等? 馬鹿か? 人が公平な訳がない。そして俺は人の上に立つ存在。


そこらの凡人と一緒な訳がない。弱い奴らを痛めつけて、それのどこが悪い?


俺の人生に汚点なんてつく筈がない。俺は完璧なんだ。


「……まさか全部バレた……のか?……そんな、筈は」


綱島悠人は一人そう呟く。


その時。


——ガン!


ああ、またか。


誰かが、俺の家の窓に石を投げ入れたんだろう。


もう何度も石を投げ込まれているから、今では窓ガラスは全部なく、窓際には石が散乱していた。


それだけではない。


時折、家の前で俺を罵倒するヘイトスピーチをする者が後をたたない。


一体何なんだ? あいつら? 俺に暴言を吐くなんて信じられない。


何故、この俺がこんな目に会うのだ?


何故、この俺がこんな惨めな思いを?


決まってる。


海老名 樹!……全部アイツのせいだ!


「必ず……必ず仕返してやる……!」


そう決意し、俺は昼食のもやしを口に入れる。


「……美味い」


俺は粗食の中で、このもやしが一番美味いと思った。


いや、今はもうこれしか買えないそうだ。


親父は昨日会社をクビになった。理由は知らん。


母親もパートの仕事を止めたようだ。


しばらく金に不自由するようだが問題ない。


親父も必死に新しい職を探すだろうし、母親もそうだろう。


この凡人共はそうやって死にもの狂いで生きるしかない。


だが俺には女達を使った金や川崎達を使って稼いだ金がある。


しばらくすれば両親の仕事も元通りになるに違いない。


そうしたら、あの海老名 樹に復讐してやる。


そう考えると、顔の筋肉が緩んだ。


「ふ……ふふふ…!」


その妄想だけを信じて、俺は一人、もやしを食べ続ける。


「いつまでも気味の悪い笑顔を浮かべてるんじゃない。お前、何をしたかわかっているのか?」


「何?」


俺に説教をする気か? 凡人風情が?


「お前、学校の女子生徒を使ってとんでもないことしたな? もうじき、警察が来る」


「は?」


警察? 場違いな言葉に思わずもやしを落とす。


彼は知らなかった。既に校長は理事会で校長の職を解かれ、数々の不正を暴かれて警察のやっかいなっていることを……そして彼の罪を洗いざらい暴露したこと……川崎や他の女も皆口を割って、全部彼が悪いと白状していたことを……そう、彼の未来はない。


突然、玄関の呼び鈴がなる。


そして訪問して来たのは警察官だった。


「09:14、綱島悠人を確保」


そう言って、彼の両腕に手錠がかけられた。


彼はただ茫然とするよりなかった。

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