第13話樹の無実と真犯人

再び陽葵ちゃんSide


「それで、どうやった?」


学校の校舎ん屋上で、放課後の体育会系んクラブ活動ん歓声ば聴きながら、今しがた落ち合うた莉子ちゃんと軽う会釈しながら聞いた。


「色々解って来たよ。まずはあの『日吉』て女のことであたしが調べたこと話すよ」


そう言うと、珍しゅう莉子ちゃんが真剣な顔で話し始めた。


「まず、例の日吉て女の友好関係についてだけど……」


莉子ちゃんはこげんだけど、実は優等生で、クラスでも人気者や。運動神経も抜群で、文武平等、当然、友好範囲も広うて、学校中に友達っていうツテがたくさんある。


そん上くノ一でお父さんは警察の偉か人。


「日吉って昨年までバスケ部に在籍していたみたいなの、そこで、バスケ部の友達に聞いた話なんだけど、日吉は3年生の綱島悠人ていう先輩と噂になったことがあるらしいの。その時の噂は多分、本当のことだと思う。バスケ部だけじゃなく、あちこちのクラブの友達に頼んで調べてもらったんだけど、その……」


一瞬言い淀む莉子ちゃん。でも、思い切ったんか、意ば決して話ば続くる。


「何人か、日吉と綱島がデートをしているところを見ていて……それから……二人が横浜のいかがわしいホテルから一緒に出てくるところを見たって奴もいるの」

陽葵はゴクリと唾ば飲み込んだ。


高校生には早すぎる関係、もちろん、それ自体陽葵達がどうこう言うことやなか。


でも、莉子ちゃんは樹先輩ん無実に関係するちゅうことで、話してくれとーったい。


「日吉という女は綱島っていう男とそういう関係にあって、問題はその綱島って、先輩なんだ。その……綱島って男は……クズよ。調べたら悪い噂ばかり出てくる。表向きは優等生で、バスケ部のエースだけど、その……女関係とか、金に関して酷い噂ばかりなの」


莉子ちゃんはかいつまんで、綱島って男の悪い噂ば話してくれた。


綱島ん女性関係は日吉って女だけじゃなく、他にも何人か彼女がおる。


そして、一番驚いたのが、


「綱島って、男、美人局じゃないかって、噂があってね、なんとか証拠を掴んだんだ。被害者の一人に話を聞くことができて。そしたら、とんでもないことがわかったの!」


莉子ちゃんな更に真剣な顔ばして、一瞬、下ば向いたけど、再び顔ば上げて話し始めた。


「……綱島は日吉だけじゃない。他にも関係を結んでいる女がいる」


「そ、そげん!? 高校生なんに!!」


思わず声ばあげる。当然やろ? 高校生なんに、いやそうじゃなくたって、そげん淫らな!


「あたしも最初は驚いたけど、どうも事実みたい。それに、これが一番重要なことなんだけどね……綱島は美人局で、女達に行きずりの男をたぶらかして、脅して、金品を巻き上げているようなの。幸い、被害者の一人に事情を聞くことができた」


「つ、美人局って何?」


陽葵は思わず聞いた。聞いたことある言葉だけど、まっとうな人生を歩みよったら、そんなのに出会うことなんてなかっちゃもん。


「美人局って言うのは、男と示し合わせた女が、他の男に寝取られたかに見せかけて、それに言い掛かりをつけて、男が相手の男を脅して、金品を巻き上げる犯罪を言うの」


「でも、そんなの、うもういくもんと? 知らんやったで済むんじゃ? そもそも、女ん方が悪かやなかと?」


「陽葵ちゃん。陽葵ちゃんは人良すぎ!! そんなの無理矢理言いがかりつけるのよ!!」


そうや。被害者ん話やと、デートに誘われて、たまたま通りがかりに綱島達に会って、俺ん女に手ば出したな!! って、感じで。それに、デートんコースは女に主導権握られとって、たまたま近くにホテルがあったそうなんや。やけん、関係ば結んだみたいに、勝手に言われたそう。


陽葵も莉子ちゃんも黙り込んでしもうた。


「ショックだとは思うけど、あたし達の高校に犯罪者がいたというのは、事実みたい。ただ、それは樹先輩じゃない。綱島や日吉達なの!!」


「それじゃ、綱島達を締め上げれば!!」


「まあ、そうなんだけど、問題は被害者が訴えてくれないところなの」


「な、なして?」


陽葵は不思議に思うた。被害者が被害届ば出せば済むんじゃ?


「綱島や日吉達は悪知恵は働くんだ。被害者達はデートの途中で、必ずホテルの前を通らされるんだ。そこを綱島はスマホで撮影してね。実際に関係があったと学校にバラすと脅してるの。被害者はみんな勉強とかは優秀だけど、おとなしい人が多くて、騒ぎになるのが怖いの」


陽葵は一つ疑問が浮かんだ。


「ねえ、莉子ちゃん、綱島達ん悪事はわかったけど、樹先輩との接点がわからん。先輩が綱島達に関係するなんて思えんし、被害者やったら、本人が言うてくるーて思うばい」


「うん、そこなんだけど、あたしが事情を聞けた被害者はちょうど3ヶ月前に被害に遭ってね。そして、樹先輩が警察に聞かれた日と同じなんだ。そして、その場所がまさしく被害にあった場所なの」


「ど、どげなこと?」


頭に疑問符が浮かぶ。不思議や。どげなこと?


「つまり、樹先輩はたまたま犯罪の場に出くわしてしまった。それで、現場を見られたと思った綱島達は一芝居うったというのが、あたしの推理なの」


「つまり、綱島達ん悪事ば暴けば先輩の無実も晴らすことができるの?」


陽葵は事態が簡単に思えた。ばってんそれ程簡単なことでもなかった。


「ううん、その綱島や日吉の犯罪を暴くのが難しいの。状況証拠はあるけど物的証拠はないの。脅してもわざわざ日吉が樹先輩の無実を喋ってくれるとは思えない。自分から罪を増やす奴はいないもの」


陽葵はフルフルと震えた。一体どうすりゃ先輩の無実を晴らせるのとか?


「でも、先輩は警察に話を聞かれたけど、別に何もなかった訳やし、日吉も普通に学校にも登校しとーし、なんで先輩がこげん疑らるーことになったと?」


「それは大和先輩の言ってたことを思い出して! 日吉が被害にあったとクラスやこの学校のあちこちの人達にLI○Eを出したからだよ。無理矢理ホテルに連れ込まれて乱暴されたらしいって、そしてその犯人が多分樹先輩だろうってね」


「でも、証拠はなかやろ?」


「もちろん、証拠はないし、そもそも学校は何らかな理由で、この事件を隠してる。でも、綱島の配下の川崎って奴が、クラスやみんなを誘導して、そして、あの日吉の芝居なの」


陽葵は全てのなぞが解けたように思うた。


巧みに誘導された冤罪。警察が先輩ば放置したんな当たり前や。証拠はなかし、無実やし。


「お父さんに頼んで調べたけど……確かに日吉から被害届は出されていて……でも犯人はわからないって……それなのに海老名先輩が怪しいって……それで海老名先輩が事情を聴かれて……でも警察も何も証拠はないし、被害届は曖昧だし。それに最近いかがわしいホテル周辺で高校生位女の子がよく見かけられていて、そこに警察は動いていて……その一人が日吉なの」


「つまり、警察も動きよったけど、樹先輩ん方より日吉ん方が怪しかって?」


「そう、そして警察は美人局の方じゃなくて、高校生位の女の子が複数いかがわしいところでよく見かけられるから、不純異性交遊の心配をして調べているだけなの」


警察はただ不純異性交遊がないか見張っていただけや。だが、学校側は……理由はわからないけど、学校も綱島達の味方。でも、そこに綱島達は付け込んだ。


「……後は、あたし達も知っているあの噂ができた、って訳ね」


「…………………………」


うちは黙り込むしかなかった。

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